模擬戦前

 それから2ヶ月の時が流れた。

 アリシアは学業と兼業しながら、着々と準備を進めていく。

 その1つの通過点がやって来た。

 工藤達が開発を進めていたネクストの実戦データの累積により遂に完成したのだ。

 出来上がったネクストは極東基地にある模擬戦闘区域にいた。


 尤も工藤達はここがどこか分からない。

 ソロに目隠しをされて連れて来られただけだ。

 ソロが「開けていいぞ」と言ったので目を開けるとそこには一面に広がる海岸線の砂浜と海が存在していた。


 海岸には砂塵防止の為に松の雑木林が植林されている。

 後ろには既に試作されたネクストが3機配備されていた。

 腕や脚周りの太さに比べ関節周りの大きさが多少、目立つ様になっている。

 ネクシルを踏襲したツインアイを隠したバイザーと流線型のシルバーのボディが太陽光で照かる。




「どこだ?ここ?そんなに移動してないはずだから、都内は出てないはずだが……」


「工藤隊長。GPSが反応しません」


「はぁ?反応しない?そんな訳あるか!貸してみろ!」




 工藤は部隊員からタブレットを借り操作する。

 しかし、本当にGPSが起動しない。




「どうなってるんだここは。おい、ソロ。これはどう言う事だ?」


「そうだな。3.9次元と言うのが答えだ」


「3.9次元だ?」




 何を言っているか分からず、聞き返す工藤を他所にソロは話を続ける。




「肉体を纏ったままでは4次元には到達出来ない。この空間は肉体を纏った状態で高次元に入る為に限りなく4次元に近づけた空間だ。いわば、擬似4次元空間だ」


「おいおい、そんなの一体どうやって……これもGGマジックか?」


「そんなところだ」




 GGマジックと言う用語は工藤達の間ではご都合主義用語化していた。

 GG隊が開示する未知の技術がまるで手品の様だと言う比喩から定着した。

 この2ヶ月、アリシアに振り回されソロに振り回され、彼等の中では慣れが生まれていた。

 良い意味でGG隊に順応していた。




「それでだ。模擬戦をするって話だろう。対戦相手は誰だ?ってか、こっちは誰がパイロットやるんだ?」


「来たようだ」




 すると、上空からAPの編隊がやってきた。

 青い機体と砂色の機体が48機。4個中隊で迫って来る。

 空中で人型に変形、機体はゆっくりと降りて来る。

 その肩のエンブレムに工藤達は見覚えがあった。




「おいおい、まさか、模擬戦の相手って……」


「極東最強と言われたスカイフォース大隊とPMCガイアフォースのアルファ中隊だ」




 両陣営の機体は対面する様に見合わせる。

 すると、コックピットが開きワイヤーが垂れてきた。

 ワイヤーから次々と男女が降りてきた。

 その顔に工藤達も見覚えがある。




「おい!アレ!」


「あぁ、間違いなく夜月・シド少佐だ」


「4閣と謳われた伝説のパイロットだぜ」


「じゃあ、ガイアフォースは……」




 4閣であるカーン・ビショップが来ていると思い一同はそちらの方に振り向いたが、そこにはガイアフォースを引き連れた1人の東洋系の女性がいた。




「誰だ、あの人?」


「凄い美人だ」


「ダイレクトスーツが上手く着こなしていて!グッジョブ!」

 



 対戦相手はこちらに近づきある程度、近づくと敬礼した。

 ソロも含めて全員が敬礼で返す。




「わたしはスカイフォース大隊の夜月・シド少佐だ」


「ガイアフォースアルファ中隊のリリー・ツイ大尉だ」


「ソロ・モンテスト特務中尉です。本日はお集まり頂き誠に恐縮です」




 ソロは客人を迎え入れる様に感謝の意の述べる。

 それにシドとリリーが答える。




「なに、今代の生ける伝説とやりあえるのだ。我々としても楽しみでならないよ」


「わたしも彼女とは一戦交えてみたいと思っていた。この機会を設けてくれた事に感謝する」


「では、楽しんで貰えるように最善を尽くしましょう」




 ガイアフォースとスカイフォースの後方から聞き覚えのある声が聞こえた。

 全員が思わず、後ろを向く。

 すると、そこにはロングヘアになった蒼髪を後ろに束ねてポニーテールにしていた少女がいた。

 その妖麗な雰囲気と独特の覇気が混ざり合い形容し難い魅力を出していた。




「突然、過ぎますよ。殿


「リリー。わたしに堅苦しい言葉を必要ありません。呼びやすい呼び方で結構です」


「では、そうさせて貰おう。久しぶりだな……アリシア」


「久しぶり、リリー」




 2人は握手を交わした。

 リリーは握った手の感覚で何となくわかった。





(あの時と比べて随分と強くなっているな。これは容易には勝てないな……)





 APパイロット同士が握手をすると握手で相手の身体能力が大体分かってしまう。

 腕相撲の選手同士が握っただけで相手の技量が分かるのと同じだ。

 その感覚で言えば、アリシア・アイと言う存在は”戦士の終局”と言う名の”頂”にいるかのような錯覚を起こすほどの途轍もない隔絶とした力の差をリリーは感じていた。




「髪伸ばしたんだな」


恩師アステリスが女性は髪を伸ばした方が良いと言ってたから伸ばして見たの」


「綺麗だと思うよ。似合っている」


「ありがとう」




 2人は再会を喜ぶ。

 まるで長い間別れていた大切な人との再会を喜ぶ様だった。




「では、わたしもフラットな感じで接しても良いかな?中将殿」




 そこにタイミングを計ってシドが声をかける。

 リリーは察して入れ替わる様に移動する。




「えぇ、もちろんです」


「夜月・シドだ」


「アリシア・アイです」




 2人は互いに握手を交わした。

 シドはその時に感じた。

 自分よりも小さな手ではあったが、非常に力強く見た目以上にとても大きな手に感じた。

 並々ならぬ猛者だとすぐに分かる。


 もし、本気で殺し合ったら決死に覚悟がないと殺せないと思えてしまうほどだ。

 彼女と同い年だった頃の自分よりも遥かに強い。

 15歳とは思えないほど強い手だと思えた。

 純粋な膂力でもう既に負けていると悟れる。





(アイドル化されているからもしや御飾りとも思ったが、これは本物だな……それも私などより大きな修羅場を潜っている。これは容易には勝たせても貰えないな)






 2人とも彼女に対して確かな手応えを感じており、彼等の勝負は既に始まっていた。

 その時、手を叩く音が聞こえ、3人が振り向くとそこには天音がいた。

 3人は即敬礼で返答、他の隊員も呼応して敬礼する。

 この時、誰もがこれから重要な話があると薄々、勘付いていた。

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