明かされし古の契約

「じゃあ、あなたは何なの?後継者と伺ったけど?」


「神様に神格化された人間です」


「えぇ?それってあなたも神様って事?」


「そう言えますね(100皿完食)」




 アリシアが嘘をつく者でないのは知っている。

 作戦の為に秘匿する事はあれど語る事に嘘は交えない。

 プロファイリングでもそう出ている。

 しかし、どう飲み込めばいいのか分からない。


 普通に考えたら奇人の返答だ。

 普通ならまともに取り合うべきではないかも知れない。

 だが、アリシア・アイと言う人間を綾は少なからず知っている。


 彼女は必要な事は事実として伝える。

 何の根拠も確証も証も無い虚言を語りはしない。

 綾の中で「もう少し話を聞いてみよう」と言う気持ちが生まれた。




「俄かには信じられない話ではありますが、あなたが虚言を言っているとも思えません」


「虚言を言っているつもりもありません」


「なら、教えてくれませんか?契約の真相を?」




 アリシアは命罪流誕生の経緯を語り始めた。

 WW2終了時、日本は武力放棄をした。

 だが、神は知っていた。

 武力放棄をした日本は近いうちに他国の侵攻を受ける。

 その時、外敵から身を守る術がないまま日本が占領される。


 その結果、日本人が隷属され、神の救いが届かない環境が出来てしまう恐れがあった。

 そこで神は自分の力を分け与えた勇士を立てる事にした。

 それが命罪流の起源だった。

 神は誤って人を殺したとある罪人と”過越”の契約と掟を渡した。

 その掟を守る限り、神の力を個人に報いる形でその一族に与えると言う契約だった。


「掟を任期まで守り続ければ楽園に連れて行く」と言う契約を彼等に渡した。

 その結果、命罪流の兵士は驚異的な戦果を挙げた。

 たった1人の兵士で100人の兵士と渡り合い、人質救出作戦を難なく熟し、撃墜王を量産するなど他国に驚異的な戦果を見せる事で目に見えないところで他国に対する抑止力と成っていた。


 こうして神が福音を伝える環境を整える為に命罪流は存在していた。

 だが、命罪流の規模が大きくなるに連れ、その掟は2018年辺りから守らなくなっていた。

 世の地位や名誉に保守的になり、掟を守らなくなっていった。

 その結果、命罪流は神の加護と本来の役割を破棄した。

 その後、2020年に任期を終え、楽園に導かれるはずだったが、契約破棄によりその契約は実行されず、今に至る。




「と言うのが概要です(200皿完食)」




 綾は一通り聴き終えた。

 やはり、聴けば聴くほど信じられない話だ。

 だが、辻褄は合う。

 あの時代の命罪流の兵士の技量は今よりも高かったと言われている。


 それこそ、鳳凰レベルの剣の達人が無数にいたとも言われる。

 どんなに教育を変え、発展させてもその時代の練度に到達出来ていない。

 記録上練度が落ち始めたのは確かに2018年頃に顕著だったとされる。

 つまり、辻褄は合っているのだ。


 だが、流石に目に見えない神様を信じろと言われて信じられる者は少ない。

 特に偽神を名乗る宗派は今でもいる。

 どれが本物かいまいち分からないのだ。




「大抵は……」




 アリシアが何かを察したように口を開く。




「大抵は自分が神様だから、一番偉いから、教徒は仕えるべきと高慢な振る舞いをするのが偽物ですよ。それなら楽で誰でも出来ますから。当然、神様はそんな人間の特性を見抜いています。だから、不法を働かない真理は神様が教徒に仕えます。真理は下にしかありませんから」




 アリシアは綾が何も話していない筈なのにまるで全て理解している様な返答をした。

 綾もその返答には確かに一理あると納得している自分がいる事に気付く。




「何より。私が話しても預言者が話しても受け入れないなら救いに興味がないと見なせます。冷酷な様ですが、それがれっきとした事実です」




 綾はアリシアの人となりを知っている。

 彼女に高慢は殆どと言って良いほど無く常に謙る彼女しか見た事が無い。

 彼女の言うことに一切の矛盾はない。

 反論しようにもその余地が無く自然と黙り込むしか無い。

 綾はそれでも何とか言葉を絞り出してみる。




「私達がもう一度契約を結ぶ事は出来るのですか?」


「あなた達は知らなかったのだから、過去の責任をあなた達に問う事はしません。結ぶ事は可能です。ですが、時間はかかっても私に従順に従って貰いますよ」


「それは支配すると言う意味ではないんですよね?」


「勿論、自由の無い僕ではこちらが困ります。少なくとも人道に反する様な事は強要しません。して貰うのも困ります」


「私達は少なからず非人道的な事しているけど……」


「契約を結べば全てを許します。ですが、再犯するのは許しません。それが悪いと分かっていてやった罪なら尚更です。そう言う事をするなら事前にわたしに報せて下さい」


「契約を結ぶと言う事はあなたは福音の為に我々を使うと言う事ですか?」


「創設当時とは内容が違いますがその通りです」


「ちなみに内容は?」


「契約を結ばないのにそれを話しても意味は無いでしょう。目の見えない人間に地図の内容を説明する様なモノです。語っても理解は出来ない」




 綾は少し悩んだ。

 一番聴きたい内容を聞けなかった。

 ここで不審があるから「契約しません」とも言える。

 況して、そんな昔の契約を基に彼女に従う者がどの位いるだろうか?

 普通に考えれば小娘の言い成りになる訳ないだろうと考えるだろう。

 彼女との契約を結んで守る者は命罪流の中で果たしてどれだけいるのだろうか?

 まるでその疑問に答えるようにアリシアは口を開く。




「少なくとも叔父貴さんは守っていますよ(400皿完食)」


「えぇ?」


「もう気づいているでしょうけど、叔父貴さんは私の元にいます。あの人はあの人なりの役割を従順に行なっています。今のあの人と戦ったら私でも勝てるとは断言出来ないくらいには強くなってますよ。実際、シュミレーターで私が黒星つけられたはじめての相手になってます」




 アリシアはシオン内で叔父貴と共に研鑽を積んでいる。

 訓練の一環で模擬戦を仕掛けたのだが4対6でアリシアが負けた事があるくらいに叔父貴は成長していた。

 シオン内でアリシアが負け越したのは叔父貴だけだ。

 尤も、純粋な武術勝負のみの話だ。

 それでもその武は凄く、アリシアが武を極める為に叔父貴に弟子入りして最近では寿司を握っているほどだ。


 銃火器や御業、ネクシレウス総合的な戦闘をすれば、結果は変わっていただろう。

 だが、武術だけでもアリシアに勝つのがどれだけ難しいか、綾は知っている。

 それこそ普通に鍛えては到達しようがない程に……叔父貴も超人だが、アリシアの超人さはそれを超えている。

 それに追いつくには並み並みならぬ努力でも足りない。


 人間の思考で想像出来る努力では足りない。

 彼女の武を見れば多かれ、少なかれ、分かる事だ。

 叔父貴と引き分けていようと負けていようとその異質さは見る人間が見れば、明らかだ。


 綾は悩んだ。

 ここで受け入れないと言うのは簡単だ。

 だが、それでは大切な何かを失う気がした。



「最後に1つ聴かせて」


「何ですか?」


「あなたは何の為にこの世界にいるの?神は高次元的な存在と聞きます。態々、この地に来たのは何の為ですか?」


「何度も言いましたが救いの為です」


「救い?」


「暗闇の中でも希望を探そうと足掻く真に生きたいと願う者達を救う為に来ました」




 虚言を吐いている様には見えない。

 彼女は本気だ。

 明らかに瞳が冗談ではない目力を放つ。

 彼女は救いの為なら決して容赦しないだろう。

 例え、何が相手でも全てを跳ね除けるようなただならぬ威圧感を感じる。


 決断しなければならない。

 命罪流の本来の役割を取り戻すか?

 それともこのままにするか?

 綾は悩んだ。

 だが、不意に頭に過る。

 彼女はこれまで実現不可能とされる任務を熟し、永遠に栄えるとされた間藤家や天空寺を壊滅させている。

 更にGG団体の活動で世の中に貢献し治安維持なども行っており、高名な賞も受賞している。

 それが全て神の業、故に成せたのなら彼女に不可能な事があるのか?

 それだけの力があるなら命罪流を栄させる事も不可能ではない。




(なら、全体にとって益になる話の筈……ならば……)




 綾は決断を下す。




「命罪流としては受けられません」


「……」




 アリシアはその言葉に耳を傾ける。

 まだ、何か含んだ言い方なのが悟れるからだ。




「ですが、私個人が受ける分には全然、問題ありません」




 アリシアの顔が少し明るくなった。




「真相が分からない物に一族を巻き込む訳にはいきません。ですから、私がこの身を持って確かめます。それで良いですか?」


「成る程、尤もらしい意見です。1人の従順が多くを救うとも言います。あなたは1人を救い多くが救えるならこの話も価値があったと言うモノです」




 すると、個室のドアを開ける音がした。




「その話、オレにも噛ませてくれ」



 

 正樹もまた、今の話を聞いて何かを感じたようにいつになく真剣な表情で部屋の扉を開けた。




「正樹、あなた……」


「証人は多い程良いだろう。それに少なからず俺もアリシアやその周りの人間も見てきた。それで分かったのは俺だけ取り残されている様で寂しいて事だな。だから、そっちの世界に入ってみたいと思えた。それだけだ」


 

 

 正樹も正樹なりに決断して決めた事だとアリシアは読み取った。

 拒む理由はない。




「成る程、事情は了解しました。では、2人とも儀式を受けて貰います」




 そう言ってアリシアは手からキューブ状の装置を取り出した。

 以前、宇宙組に使ったディメンションⅤRの改良型だ。

 ここで試運転も兼ねて使う事にした。




「丁度、完成形の試運転もしたかったですから」


「えぇ?ちょっ、何を……」




 アリシアは綾が話切る前に装置を起動させた。

 辺りが光に包まれた。

 目を開けるとそこは大きな池とその辺りにある大きな石造りの神殿だった。

 周囲には木が生え池から流れる水が辺りの木に水を豊かに与える。

 その水は石造りの神殿から流れ出て、池に溜まっていく。

 アリシアがキューブ状の物体を取り出し、それが光ったかと思うと気づけば、さっきまでいた寿司屋ではない見知らぬ光景が広がっていた。

 正樹と綾が辺りを見渡す。




「ここは?」


「一体?」


「擬似高次元空間。と言えば良いかな。私達は今、あのキューブの中に入っているの」




 アリシアは2人が置かれている状況を解説する。




「あの手の平にあったアレか?」


「そうだよ。キューブと言う名のゲームの中に入った。と考えてくれれば良いよ」




 綾は感心した様に辺りを見渡す。

 その場に膝をつき土に触れる。




「本物……よね?」


「本物ですよ。擬似世界とは言え現実とそう変わらない世界ですよ。私が監修して作りましたから」


「凄い技術ですね……誰でも使えるんですか?」


「私の能力を機械的に再現してキューブにエネルギーを注いでいる感じです。起動させれば誰でも使えますがそもそもそれだけのエネルギーを持つのは大変ですよ。それは今後のあなた達の努力次第です」




 これを見ただけでアリシアの申し出を受けた甲斐があったと思えてくる。

 もしかして、アリシアはここまで想定しているのか?とすら思える。




「さて、始めますか」




 アリシアは2人を着替えさせ池に入れ頭の上から水をかけ、呪文の様に言葉を唱えた後、神殿内でブドウ酒とパンを食べさせた。

 この後、通常空間に戻った後、店を出る事になった。

 アリシアが代金を出そうとしたが、綾は断り、綾は4万4000円を支払う事になった。

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