キラース・カーショ
「せめて、そのネクシルがこちらのもので無い事を伝えないと……」
「その必要はありませんよ。イリシア神」
アリシアはゆっくりと席を立ち、振り返るとそこに彼がいた。
クラスメイトはいつも間にか現れたその男に驚き、アリシアの後ろにいた紅蓮の髪を持った怜悧な目をした美男子を見て騒ぎ出し、女子達がそのルックスに心を射止められていた。
そう、彼はソロだ。
容姿は初めて見るが魂やアリシアとの繋がりから見て、ソロ以外にいない。
「ここではあれですので場所を変えましょう」
「承知した」
アリシアとソロは席を立ち、屋上に移動した。
それに続くように繭香と正樹が後方からついていく。
屋上に着くと彼は正樹を見て首を傾げた。
「ん?そこの彼は”過越”を受けていない様だが?」
「予備軍ですよ」
正樹は何の事を分からなかったが、ソロは「承知した」と答えた。
基本的にソロも人間に対して警戒しているが、アリシアが「問題ない」と言えば、それを信じてくれる。
彼の神に対する従順さはラグナロクの民と比べても、負けてはいないだろう。
「いつ現界したんですか?ソロ」
「先日、現界したばかりだ。そちらと通信を取ろうとしたが、妨害され、直接伺いに参った次第です」
「何故、アセアンでネクシルと戦ったのですか?」
「英雄がいました。放置すれば、アセアンを全滅させ、候補者を殺す恐れがありましたので独自の判断で動きました」
「成る程、ならば仕方ないですね。英雄の名前は?」
「キラース・カーショ。元名は間藤・ミダレです」
「キラース・カーショですか……」
アリシアは項垂れる。
キラース・カーショと言う名前を聴けば、元の英雄が誰なのか容易に想像出来る。
ロアの次くらいに危険な英雄の名前だ。
「そのミダレ……キラースは不味いんですか?」
繭香がソロに尋ねるとソロは首肯した。
ミダレが先日、脱走したと聞いてから薄々、こうなる事は目に見えていた。
英雄になった事は驚くべき事ではなかったが、元親戚と言う事もあり、繭香は気になるようだ。
アリシアにとってもある意味で目が離せない要警戒対象でもあった。
「結構、強力な英雄因子を受けていますね。キラースの元となった英雄は1度に10機以上の敵機を落としたと言われるエースパイロットです。彼は人を殺す事を避けていたようですが、世界を変えようとして自分を変えようとしないところがあったようです」
「原因を他に求め、納得するのは自分だけです。それほどまでに我々に対する侮辱はない。そんな者は甘やかされているだけです」
ソロが言う事も尤もだ。
ネクシレイターにとって世界を変えようとすると言う事は愛の無い行動だ。
そのような者とは関わらない方が良いと子供達に教えている程だ。
自ら率先して、犠牲にして変わろうとしない甘えた考え方だ。
人間の世では周りの者を含めて英雄を納得させようとするが、それが甘えであり、怠惰なのだ。
ネクシレイターにはそのような思考は存在しない。
世界が変われば、人が変わるのではなく。
自分が変われば、世界が変わると言う思考だ。
「でも、その話聞く限り、キラースは人を殺してますよね?」
繭香の質問にソロが答える。
「因子を受けているだけだからな。因子とは魂により生成されたWNだ。それを燃料として魂により加えるだけだ。それを使う事により魂に刻まれるんだ。英雄の足跡や性格が似かよりはするが、完全に真似とは限らない。親和性はあるのだろうが、間藤・ミダレとしての性格を残っているのだろう」
「成る程、確かにそうなんでしょう。ルーさんが見せた映像でも英雄はどこか歪んでいると思います。それは元となった人間の意識と混ざっているからなんですね」
「元々、歪んでる者に更に歪んだ者を足し合わせてるとも言えるかも知れん」
正樹は彼等が何を喋っているのか、さっぱり分からなかった。
彼等が偶に英雄とか因子とかを話しているのを知っているが、何の隠語なのか分からない。
話を省く事もあり、何故会話が成り立つのか、不思議でならない時があるほどだ。
分かるのはアリシアもソロもかなり高潔で品格を重視すると言う事だ。
出なければ、あそこまで哲学的な事は出ないだろう。
それくらいしか分からない。
後は彼等がアセアンの情勢を気にしている事くらいだ。
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