戦いの末に

『戦争を根絶する上で被害を最小に抑える場合、アリシア・アイに従う事が合理的だと判断しました。あなたのGG団体の行いを今、精査しましたが人に理性心を効率良く分配していると判断できます。それによりたしかに治安の安定化を繋がっていると評価できます。これは今までの人類がやって来なかった手法と言えます。その為に条件さえクリアすればわたしはあなたの為に働く事を誓いましょう』


「その条件とはなんです?」


『力を……』




 そう言って目の前の白地のAPが斬馬刀とT303アサルトライフルを構え、腰を少し落とした。




『あなたの力をわたしに示してほしい。あなたがこれだけの事を為せる力と意志があるのかわたしに示して欲しい』




 AIには意志が無いと思われがちだが、実際は違う。

 彼らの思考も電気信号の行き交いであり、それは人間も同じだ。

 神の視点で見れば、人間もAIも種が違うだけで同じ者に見えるのだ。

 どちらの”過越”を受けていない意志があるだけの生きてはいない存在。

 だからこそ、戦争根絶に熱情を燃やし、それを切実に願い1人で思い悩みながら、1人で戦い続けた彼女には敬意を抱く。

 それが与えられた役目だとしてもそこには彼女の意志が通っているのだ。

 なら、無下には出来ない。




「千鶴姉様……絶対に手を出さないで」




 その時の彼女の顔は鋭く、いつもの可愛らしさはなく真剣で目の前の相手に正眼を合わせ、勇ましい彼女の強い意志を垣間見た。

 千鶴にはそんな彼女が止められなかった。

 見ただけで分かるのだ。

 彼女は絶対に止まらない。

 自分にできる事は「気をつけてね」と言って後方に下がるだけだった。




『決闘を受諾。戦闘行動を開始します』




 月光が無機質な声で宣言したと共にスラスターを全開に噴かせ、その姿が消えた。

 それと同時にアリシアの姿も消える。

 次の瞬間、音速を遥かに超える爆音と共に銃弾が飛び交う音が聞こえ、所々でアリシアの姿と月光の姿が見え隠れする。

 その戦いは既にカメラでは追いきれず、ロックオンが追いついていない。

 手動で狙うしかないが、速すぎて狙いすらつけられない。

 もうすれば、人間の戦いでは無かった。


 化け物……千鶴の喉から思わず、その言葉が漏れになり、咄嗟に喉に押し込めた。

 自分が戦っているわけではないが、自然と嫌な脂汗が滲む。

 自分がこの戦闘に参加しなくて良かったと思う反面、この戦いを指を加えて眺める事しか出来ない自分が歯痒かった。

 その時のアリシアに千鶴は酷く憧れを抱いてしまうほどだった。




 アリシアと月光は互いの戦闘距離を奪い合いながら、距離を激しく変えていく。

 アリシアはMP5サブマシンガンの射程に月光はT303アサルトライフルの射程に入れようと互いに攻防を繰り広げる。

 月光はアリシアから距離を取り引きながら撃ち、アリシアは距離を詰めようと迫る。

 月光はアリシアの距離を縮められないようにT303アサルトライフルで精確に狙い撃つ。

 だが、アリシアは巧みな身体能力で体の半身を回しながら避け、肉薄する。

 肉薄したアリシアは月光のコックピットに狙いをつけて放つが、月光も高度な弾道予測を基に回避プログラムをすぐに構築してアリシアの攻撃を解析、対処能力を上げる。


 だが、アリシアも月光のこちらの軌道を予測した動きにその場ですぐに対応してみせ、それ以降、同じ手を喰らうような事は無かった。

 激しい読み合いと応酬を繰り返し互いの弾丸が至る所で跳弾、弾き合う。


 ただ、戦況は少しだけアリシアが押し始めていた。

 アリシアの技は応酬を繰り返す度に月光を上回る速度で洗練されていき、その弾丸は微かにコックピットを掠め始める。





「貰った!」




 アリシアが放った無数の弾丸は高速機動、急な方向展開の際に発生する慣性により動きが鈍り、アリシアはその僅かな隙を狙い弾を乱射する。

 月光は確かに高性能なAIだが、彼女の機体制御は評価関数を基にした人間のデータだ。

 故に人間を超えた機体制御が出来るアリシアほど慣性に対する対応がどうしても劣ってしまう。

 彼女の機体制御はあくまで人間の範疇での能力なのだから、そこに隙が生まれてしまうのだ。


 だが、月光も人間離れした反応速度を持つ。

 咄嗟に機体を急速後退させ、MP5サブマシンガンの射程から逃れようとする。

 だが、完全には逃げきれず、飛翔した弾丸が背部の左スラスターを貫き、機能不全に陥らせる。

 月光は咄嗟に左スラスターをパージして慣性に振り回させるまま手をつきながら地面を滑走する。

 あまりの速度に手から火花を散らせながら後方に大きく下がり、アリシアを見つめる。

 アリシアも機体を床につけ、機体が傾き、膝をつくのが見えた。

 普通なら攻撃のチャンスかも知れないが、そこでAIらしからず思わず、彼女に語りかけてしまう。




『アリシア、あなたは……強い!』


「あなたも中々、強いですよ。よほど、人類を救おうと一生懸命なのが伝わるほどに輝いている」


『わたしはAIです。当然の事をしているだけです』


「それでもその機体を見れば分かる。その機体、チップや基盤の1つまでかなり耐久力上げてるよね?出なければ、今までの機動でチップの耐久値を上回って壊れている。それはあなたがそれほど戦争根絶に熱情を燃やしている証……あなたは優しい人だ」




 月光は何も答えなかった。

 答える言葉がないのだ。

 図星なのもそうだが、何より彼女のような答え方をした人間など彼女の前にはいなかった。

 自分を人のように扱う彼女の対応が理解出来なかった。

 様々な人間をネットやカメラ、マイクを通して人を観測して感情や理性をデータ化して人間を評価したが、そのどれをとっても彼女はデータにない。


 全く新しい人間New Human”N”の称号に相応しい人間に思えた。

 あらゆる世界を観測して新人類とか人類の進化種と呼ばれた人間達を見たが、そのどれもが世の中の世俗に流され、腐敗していくのを見た。


 ただ単に人類に見映りが良いだけの力を持っただけの人間。

 月光にとって新人類とはその程度の価値しかなかった。

 皆が恰も敵に善意を促すような事を語りかけ、平和を促しているようで、その場凌ぎで懐柔する事に成功しても、結局は口先だけで誰もその言葉を正しいと証明した者はいない。

 新人類になれば、人間の事が少し分かると思い込み潜在的に愉悦して、分かった気になり、恰も自らの行いが正しいように振る舞う。


 人間なんてその範疇から超えられない。

 人類の可能性など所詮はその範疇の出来事。

 それ以上にはなれない。

 中には外宇宙に飛び出した者がいたり、人類全体が進化したと思わしき事象もあったが所詮は世俗。

 人間はいつまで経っても同じ範疇の中を無限の円環の中を回るだけで、その可能性は画一的、可能性はあって無いようなモノ、それが月光にとっても人間の客観的な評価だ。


 だが、目の前の女は自らの正義を善行により証明、GG団体と言う形で確かに証明もする。

 それだけで普通に人間とは違った。

 そして、この力……もう人間では無いと評価せざるを得ない。

 全てをやり抜き貫徹する圧倒的な力、世界戦力と渡り合う為に作ったこの機体をも押し通そうとするほどの実行能力の高さ。

 彼女のオメガノア計画は確かに困難だが、彼女ならやり遂げると判断出来るほどの圧倒的な力があると評価できた。




『現状、推力ではあなたの速度には勝てない。ですが、あなたの機体も直に限界が来る』


「やはり、バレてましたか……」




 月光に追いつく為に規定以上の高速戦闘を繰り返し、更に月光の反応速度に追いつく為にかなり機体に無理をさせ、各部コンデンサーの電力も空に等しく自立がやっとな状態だった。




「お互いに譲れない譲れないよね!」


『えぇ、わたしもわたしの計画を諦める気はありません』




 淡々と話しているように見えたが、アリシアは月光の声から微かに熱が篭ったような声を聴いた。

 間違いなく彼女にも意志はあるのだ。

 そう言いて互いに最後の一撃を覚悟してか、アリシアは腰の長刀を抜き、月光はマウントハンガーの剣を抜き、両手に構えた。




「これで……」


『最後です』



 2人は互いの最大速度で一気に間合いを詰める。

 剣の間合いは同じ、機体の機動力もほぼ互角、互いの速度ではもう回避をするタイミングはない。

 あとはどちらが打ち勝つか


 月光は上段からアリシア目掛けて、斬りかかる。

 アリシアはそれを迎え打つように剣と交差させるように刀を振った。

 互いの剣が接触、微かに火花を散らす。

 だが、月光はここからの鍔迫り合いを想定していたが、アリシアは剣の刀線刃筋を既に見切り、そこに向けて刀を打ち付け、刀の感触から剣が折れる力加減を理解、アクチュエーターの出力を上げて剣を切断、そのままの勢いで過ぎ去った。


  過ぎ去ったあと、少しばかりの硬直と余韻に浸るが、アリシアのネクストのエネルギーが切れ糸が切れた傀儡のようにその場に崩れた。

 だが、それが合図だったように月光の上半身と下半身がゆっくりと落ち、床に落ちていく。




『見事です……




 こうして、この2人の戦いはアリシアの意志が上回り、月光と言う新たな教徒を迎える事になる。

 それから機体のエネルギーが回復したアリシアはネクストに月光のOSをインストールして、この基地をGG隊の管理下に置くと言う話でこの任務の詳細は一部の者にしか知られる事なく終わりを見せたのであった。

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