ロマンを福音の為に
「あぁ!全員行かなくて良いです。2人だけ行ってください」
アリシアの指示により、工藤を除いた5人はジャンケンで2人決め、プリンターに向かった。
残りの3人と工藤と千鶴、アリシアが場に残った。
「まさかだと思うが……まだ案があるのか?」
「勿論。ダメですか?」
「いや、面白そうじゃないか。話してみな」
工藤は最早、童心に帰った様に乗り気だった。
自分の顔から不意に笑みが溢れている事を知るのは工藤以外のこの場にいる面々だけだ。
「えーとですね。今回の機体は駆動系だけでエネルギーの消費が大きい機体です」
「確かに。鋼筋と違って純粋なエネルギーによる駆動だ。エネルギーは大食いだろうな」
「通常サイズの核融合炉を3つ積めば、誤魔化せなくないですけど、それでは戦闘仕様に耐えません。そこで動力部の進捗せねばなりません」
「ほう。何か策があるのか?」
「それがこちらになります」
アリシアは新たな設計図として”WNコンバーター”と書かれた図面を取り出した。
コンバーターと名前はついているが、”WNエクストラクター”とも呼べる側面の機能も有しており、空間中のWNの利用とWNの電力変換を目的とした装置と言える。
「コンバーターか……そのWNってなんだ?」
「超対称性粒子であり物理事象を司るとされる粒子です。これはユウキ博士と言う方が論文を出しています」
そう言われて千鶴が調べると論文があると言わんばかりに首を縦に振った。
「でだ、このコンバーターで電力を作る訳だな。それでどの程度のスペックがあるんだ?」
「通常の核融合の10倍のスペックがあります」
「10倍か……確かにそれなら出力不足を賄えるな。これを踏まえて予算の方はどうなる?」
工藤は神経質なのか何かと予算との兼ね合いを気にする質のようだ。
彼の心情を察するにその辺りの現実性を聴きたくなるのは頷ける話だ。
「T4タイプのオラシオⅢ、5機分ですかね」
「予想はしていたがやはり高いな……だが、試作機を作る上でこのコストならまだ安いか……コスパを考えれば現状これが最適解か。それに説明されれば確かに……緻密に考えてやがる……」
そこでアリシアはトドメの一押しを刺す。
「なら諦めますか?」
その言葉が工藤の頭に衝撃を奔らせる。
コンバーターの構造はかなり高度に緻密化された設計図となっている。
それだけではない他の資料にも目を通すと各パーツの開発までの手順計画や予算運用、各性能の計画、実践、確認、改善などのプロセスも事細かに計画化されている。
あまりの計画内容に「バケモンかよ」と心の中で呟いてしまう。
あまりに真面目に計画化され、過ぎて批判や意見を入れる余地がない。
非の打ち所がない計画書だ。
彼女がそれほど真剣にこの計画に取り組んでいる事が伺える。
逆にこの想いを裏切るような事が自然と憚られる。
全体の雰囲気としてもう既に後戻り出来そうに無い。
いや、それ以上にこの機体を作りたいと言うロマンの方が彼らの中で優っていた。
それだけ魅力的な計画なのだ。
誰もが思うだろう。
これだけの性能の物が夢ではなく現実で手が届く距離にあれば、手に入れてみたくなる。
808整備分隊の面々を含めた整備課の半数以上がロボットオタクだ。
夢とロマンのあるロボットを一度で良いから作ってみたい。
願わくば乗りたいと思っている。
最強の相棒と呼べるロボットを作る事を夢見て万高に来た学生も少なくない。
工藤とてその1人だ。
そして、今その夢の一端に触れられる機会が巡って来た。
未知の粒子を使った動力源。
その新技術を学べるチャンス捨てる奴がいるか?
否!
いない!
これほど心が躍る話は無い!
ならば、もう後に引く気は一切無い。
工藤の中でこの計画をアリシアと共に最後までやり切る固い決意が芽生えた。
「良し!こうなればとことんまでやるか!お前らそれで良いよな?」
彼等は「おう!」と単純明快に答えた。
全員同じ気持ちの様だ。
「皆さん。気持ちが固まった様ですね。ありがとうございます」
アリシアは深々と頭を下げた。
「なんだよ。もしかして、オレ達の心情丸分かりか?」
「皆さん。色々、現実見過ぎてシビアでしたからね。夢を抱いて現実に夢を壊される経験を少なからずしたと思います」
確かに理想に向かってロボットを作ろうにもアニメの主人公の様に他者と差別化する様な設計が出来たわけでもない。
自分が考えた物は大抵先に誰が考えている事などよくある話だ。
仮に差別化出来ても金が無く何か作りたくても万高の予算では限界がある。
天空寺の様な金持ちが世間に溢れてはいない。
だから皆、現実的でかつ夢のあるアリシアの計画に惹かれるのだ。
それが自分から出た計画で無くてもロボットの新たな一歩を踏み出す瞬間に立ち会える。
今の彼等にとってそれだけで十分過ぎるほど夢に飢えていた。
「つもり、オレ達は満々とお前の思惑通りに動いた訳か?」
「気に入りませんか?」
「これで夢を与えなかったらそう言っただろうな。今の俺から言えるのは最高のプレゼントをありがとうだ」
アリシアはその言葉に笑みを零す。
「それは完成するまでとっておくべきでは?」
「そうだったな。なら、完成の時までに考えるさ」
「なら、そこ言葉を聞ける様にわたしも励むとしましょう」
アリシアもまた、意志を固めた。
正義の味方を砕いた影響なのか、色んなモノが見えて来た。
(どうやら、救える者はまだ居るみたい)
そう確信出来たのだ。
ならば、自分のやる事は変わりはしない。
このロマンが福音になるように救える様に励むばかりだった。
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