ネクスト

 2日後 生徒会会議室




 工藤とアリシアは試作機の設計プランを生徒会に申請していた。

 万高の特性上、将来士官志望の学生が多い事もあり、予算運用などは勉強の一環として生徒会で任されている。

 最低限、教師に報告する義務があり学校の経営が傾かない範囲なら、ある程度自由がある。

 軍でも兵器開発を行うようにスケールダウンではあるが、万高でも勉強の一環として同じ事は出来る。




「本当にやるんですか?」




 黄燐が工藤達に尋ねる。




「勿論だ」




 工藤は堂々と胸を張りハッキリと答えた。




「うん……だが、予算を馬鹿みたいに食うな」




 会長の竜馬が難色を示す。

 確かに予算が食うのは間違いはない。

 一見そう思われても仕方がないだろう。

 だが、それを黄燐が補足する。




「いえ、データ通りの設計ならこれはかなりのコストパフォーマンスです。おまけに製造までの計画が綿密だ。わたしは作っては良いと思います」


「ふん……ところで開発リーダー。これだけの技術どこから持って来た?」




 開発リーダーであるアリシアに竜馬が問う。

 アリシアは竜馬の問いに堂々とした態度で答える。




「それはGGマジックと思って下さい」




 正直、ご都合主義な言い訳だが、それ以上に具体的な説明をするわけにはいかない。

 だが、黄燐はその意図を汲み取る。




「機密事項か……差し詰め、君の機体のデータを流用したとみえる」


「ご想像にお任せします」


「それはある種の肯定だな。まぁ良い。会長。わたしは計画には賛成です。予算を組んでも損はないと考えます」


「オレとしては何か物が見たいところだ」




 竜馬も黄燐ばかりに考えを任せず、自分が判断出来る物が見たいと要求してきた。

 竜馬は頭脳戦は得意では無いが、こう言った意志の強さと主体性があるからこそ、黄燐を差し置いて会長座に君臨している。




「そう言う事ならここにある」




 工藤はタブレットPCを竜馬に見せた。

 その画面には4台F1カーが左右に並んでいた。

 万高には機動車両としてF1カーが存在する。

 いつからあったのかは知らないが、竜馬が入学した時からある。

 そのF1カーを繋ぐ紐の真ん中には電源コードが繋がれ、一方はカバーをかけられた丸みを帯びたモノ。


 竜馬達は一目でそれが鋼筋だとすぐに分かる。

 もう一方には何か小さい機械が繋がっていた。

 工藤がタブレットの再生ボタンを押す。

 F1カーは唸りを上げながら、前に進もうとする。


 竜馬達の見立てではあの鋼筋の量では大した力はでない。

 その予測通りF1カーに引っ張られた鋼筋はすぐに限界を迎え、カバー内で引き千切れた。

 対して小さい機械の方は鋼筋よりも遥かに小さいにも関わらず、悠々とF1カーの負荷を耐えていた。

 工藤はそのまま早送りした。

 結果、10分経っても小さい機械は壊れる事も無かった。




「あのオントロンはオレ達が作ったものだ」


「ほう。つまり、既に量産化に成功して、成果を出している訳か」


「うん。ならばオレから言う事はない。存分に作ると良い」




 その後、申請は通り2人は会長と副会長の許可証を貰った。

 こうして、アリシアの計画した新型APの設計計画は本格的に始まった。




 ◇◇◇




「……という事で予算は何とか都合がつけました。これから新型機を作る訳だが、そこで1つ提案があります」




 格納庫に呼び集まられた面々はチームリーダーアリシアからの初めての本格的な指示に誰もが待ち焦がれる様に心躍らせる。

 これから夢のような機体を作るとあって皆の士気は高かった。

 だが、その期待はある意味、斜め上を行く指示だった。




「実は作る機体の名前。まだ、決めてなくてこの計画の名前も決めていないんです。だから、皆さんが決めて下さい」




 チームメンバーはすぐに事実を受け入れられず、硬直した。




「えぇ?そうだったの?」


「てっきりネクシルMkⅡとかだと思ったぜ」




 誰もがネクシルMkⅡとばかり思っており、アリシアの申し出は予想外だった。

 アリシアからすれば、そう言う風に考えている方が予想外だった。




「いや、ネクシルはちょっと使えないよ。流石に機密入っているから……」




 幾ら最新鋭の機体を作ると言っても人間には理解出来ない量子回路やその他付随する機能を盛り込む訳にはいかない。

 万が一にも技術を公開して一部でも理解されれば、戦争を加速させるだけだ。


 今、作ろうとしている機体はそれを懸念して人間でも辛うじて分かる程度に技術レベルを落とした技術を使おうとしている。

 ネクシルに使う技術を使う訳にはいかない。

 だから、ネクシルではない……ネクシルであってはならないのだ。




「だが、ネクシルに使っている技術使っているよね?」




 工藤が何か思い当たるのか念を押して確認する。




「そうだね」


「なら、ネクストはどうだ?」


「その心は?」


「ネクシルの成層域に達する為の次世代機と言う意味だ。」


「ネクシルの”ネク”と成層域ストラトスの”スト”を合わせて次世代ネクストという意味を込めたんですね」


「あぁ。この方がカッコいいだろう!」


「うん。カッコいいはカッコいいけど、名前的に殺人加速に環境汚染しそうな名前よね」




 千鶴はどこかで聞いた様なロボットの話を持ち出した。

 隊員達もそれに同調する。




「あぁ、分かります。深刻な環境汚染を引き起こし、人の住めない環境を作るような決戦ロボット兵器になりそうな名前ですよね」


「そうそう、その内、ADを沈めてくそうな気がします。いえ!きっとします!」




 日本人ロボットオタク勢は相槌を打ちながら納得していたが、外国人であるアリシアには何の事かさっぱり分からなかった。




「何のことか分からないんですけど……」


「気にしなくて良いわよ。いずれ知るわよ。いずれね」




 千鶴は意味深な言い方をしてアリシアに説明した。

 アリシアは「はぁ……」と答えるしかなかった。

 かくして、ここにネクスト計画が始動する事となる。

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