ユウキにとっての人類存続

 戦いの一部始終の見ていた英雄の影があった。

 アリシアですら、その存在に気づくこともなく英雄は全てを観察していた。




「なるほど、ネクシレイター。WNを自在に操る民か……」




 ユウキ・ユズ・ココは戦闘の一部始終を見ていた。

 ファザーの協力を得た彼女は高い認識偽造のスキルをファザーから借り受け、アリシア達の一部始終を見ていた。

 ロアはファザーの指示で彼女達に仕掛け、ユウキはその様子を観察していたのだ。




「報告で聞いてはいたけど、まさか神が実在していたなんてね」




 ユウキはその事実に興奮する。

 ユウキの野望を果たす上でこれだけの人材がいるだろうか?

 否、いない。





「これはチャンスだわ。彼等をベースにすれば人類種を保存する良い因子が手に入るはず」


『お気に召しましたか?』




 ユウキのパソコンに端に道化師の顔が表示される。

 不気味に笑うのが、気持ち悪いがそれでも有用な協力者なのでその辺は自制する。




「えぇ。これで人類種存続に必要なカードは揃った。あとはあの女を手に入れるだけね」


『わたしはあなたを支援しています。人類存続は必要不可欠なものです。あなたが目的を失わぬ限り私はあなたを支えましょう』




 ファザーは丁寧な口調でユウキに接する。

 ユウキも自分のご機嫌取りの為の繕いの態度だと知っていたが、そんな事は彼女にはどうでも良かった。




「最初はあなたの事を疑ったけど、話に乗ってみるものね。アクセル社以上の潤沢な資金と人材、設備。それに加えて、興味深いモノとは出会わせてくれた。アクセル社の俗物会長とは違うわね」


『お褒め頂きありがとうございます』


「ねえ?1ついいかしら?」


『何ですか?』


「あなたはなぜ、宇喜多を使おうと思ったの。別に奴に不満は無いわ。人類を選別する試練を与える上でアイツほど適任はいないわ。でも、王を自称するには役不足なんじゃないの?」


『何をおっしゃるのです。彼ほど適任な王はいませんよ。かのネブカドネザル王やアレキサンダー王、ネロ皇帝と言った人理に於ける王の有り様を体現したのが宇喜多 元成です。飽くなき野心を探求、人の上に君臨し民を絶対遵守させ配下に置き統率する。これほど王に秀でた人材はいないと思いますが?』




 ユウキはその説明に納得いくところがあった。

 王とは何かと定義するかにもよるが、少なくとも宇喜多のような王はこの地上にも存在している。

 例題として挙がった王達の在り方は確かに宇喜多の在り方と似ている。



「確かにその通りね。アイツは確かに高慢だけどそれ故に王としての資質を持っているわね。あなたの言う通りそれは歴史が証明している。WN運命論的にも人の意志が運命を左右している以上、人間が望んだ者しか王にはなれない。辻褄は合うわね」


『お分り頂けましたか?』


「えぇ、よく分かった。確かにアイツ以上に適任な奴はいないわ。だからこそ、わたしも計画を進めやすい」


『あなたの目標はいつ破滅するとも分からない人類の救済。その為にどんな環境でも生き残れる因子を持った存在を選別、繁殖させ神の誘惑で完全に管理する事ですからね』



 気分が良くなったユウキは上機嫌に自論を語り始めた。




「人間は石器時代から何も進歩していないのよ。互いに傷つけ合い傷つけた事にすら気づかない愚かな生き物。馬鹿とも言えるわね。傷つけて傷ついて理解する事もあるけど、それでは遅いわ。人類はその無自覚の所為でいつ滅んでもおかしくない。ならば、生き残りたいと言う強い意志、因子を持った者だけを残して二度戦いを起こさない様に神の誘惑で管理する。まさに真の平和じゃない」


『ですが、敵には神がいます。あなたの計画が失敗する事もあり得る』


「今まで人類を放任して来た無責任者なんて知らないわ。神が人間を支配するんじゃない。わたし達が支配するの。良い、覚えておきなさい。成功と失敗は神が決めるんじゃないわ。わたしが決めるの」




 アリシアとユウキの目標は似ているが、ユウキは自分の考えに固執していた。

 高慢で貪欲な意志など人類存続とは遠い。

 この時の彼女はそれを知っておきながら、知らないような素振りをする。

 全ては天才気取りの高慢で無知で愚かな女の権化だ。




「さて、まずは戦争の火種を作らないと」


『と言いますと?』


「人間はね。異形や異端なモノが嫌いなの。だから、ネクシレイターと言う異端を世にばら撒けば戦争が起きるわ。人間の考えを超越している分、人間には理解出来ない。オメガノアがあなたの言う通りの計画なら人間は必ず受け入れない」


『質問しても良いですか?』


「何かしら?」


『あくまで推論の域ですが、オメガノアもあなたの計画も本質的には同じモノである可能性があります。彼女に任せると言う選択肢はなかったのですか?』


「違うわよ」




 ユウキは断言した。




「あなたの推論を基にするならわたしは人類の存続させる事が目的。人類を全滅させたい訳じゃないし地球を破壊する気は無い。でも、彼女は。それに今まで人類を救う機会がありながら放任して来た奴のやる政策なんて信用出来る訳がないでしょう」


『彼女から事情を聞くと言う手もあると思いますが?』


「その必要はない。触れなくても分かるでしょ?そう言う危機感を持たないと。どの道、あの女は1度、わたしを拒んだ。これはWN運命論的にもわたしとは相容れないと言うネクシレイターの意志よ。ならば、わたしは神に反逆するわ」




 ユウキは神の廃れたこの世で神と言う者に不信感を抱く人間の1人だった。

 神がいるならなぜ、世界がこうも悲惨なのか彼女には理解できなかった。

 彼女からみれば神はただの放任主義者で無責任な者にしか見えないのだ。

 だから、そもそも事情を聴くなど論外だった。

 ファザーは少しの間、熟考してから口を開いた。




『どうやら、あなたは私が想像した通りの人間の様だ。あなたの強い意志があれば問題ないと確信出来る』


「あら、私を試したの?」


『互いに信頼する程長い関係では無いはずだが?』


「AIの癖によく口が回るわね。まぁ、その通りね」




 ユウキは自分のパソコンに向かって軍や政府向けのレポートをキーボードで打ち始めた。

 タイトルは「ネクシレイターの脅威仮説とオメガノアの齎らす未来」だ。




 ◇◇◇



 レベットをシオンに預けた。

 彼女は天使達の元で再教育を受ける事になった。

 無論、彼女は罪を清算し教徒になったので、その根回しとして現実社会でも罪に問われない様に働きかけた。


 アリシアは何食わぬ顔で登校した。

 昨日の件は学校側には発覚していない様だ。

 昨日戦った校庭を見たが、弾痕1つ残っていない。


 流石、シオンの修復部隊と感服する。

 アリシアはそのまま今日も授業を受けて5時元目のパイロット科の必修科目を受けたと言っても一般歩兵としての技能演習だ。

 ライフルを撃ち、ナイフを振り回す実技だ。

 尤も、教官である麗華以上にライフルの扱い方を教えるのが、上手ければ麗華の顔が丸潰れの授業になってしまった。

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