新たな教徒と竜人

 シンは驚いた。

 正直、伝えてもダメだとも思ってもいたからだ。

 彼女には可能性はあったが、固執が酷かった。

 それはもう見るに堪えないほど酷かったので、ダメだと思った。


 ネクシレイターとは未来を見据えてしまう。

 1回の会話で何千通りの未来の可能性を見てしまう。

 前の世界の彼女は1000回聞かせても1000通りの未来を見てもネクシレイターになる可能性は無かった。

 だが、このレベットは違った。

 1000通りの中に僅かに1通りネクシレイターとなれる未来が存在した。

 だが、その未来を引けない可能性の方が大きかった。

 だが、彼女は僅かな確率を引いてみせた。

 その時、シンの中の怨恨は消えた。




「どうやら、上手くいった様ですね」




 2人が声の方を振り向くとそこには去ったはずのアリシアが立っていた。




「お前、帰ったんじゃないのか?」


「えぇ。だから、仕事を済ませて戻って来たの」




 アリシアはシンよりも高い次元にいる。

 おそらく、こうなる事をある程度分かっていたのだと思う。

 そのタイミングを計って戻って来たのだろう。




「さて、では最後に確認します。レベット・アシリータ」


「はい」




 アリシアは自分の右人差し指をナイフで切った。

 その指をレベットの口元に差し出す。




「この血は契約の血です。わたしはあなたを剣とし私はあなたに仕える者となる。この義この理に従うなら値無しに罪の赦しを啜りなさい」




 レベットはそっと彼女の右手を取りその口で彼女の血を啜った。

 すると、衝撃が奔った。

 今まで石の様に閉じていた心の目が鈍い音を立て開き、何か悪しき者との繋がりを悉く、自分の中から取り攫われ破壊され、新たに切り繋げられていく。


 石で閉じた目が完全に開いた瞬間、眩い光を見た気がした。

 あまりの輝きに一瞬立ち眩みを起こす。

 レベットとはくらりと後ろに下がる。

 頭を抱え正気に戻す為に首を振る。


 そして、目を開くとそこには一面蒼い世界が包んでいた。

 光の粒が流動する様に流れている。

 まるで世界を包む様にだ。




「えぇ?!これは?!」


「これが私達が眺めるもう1つの世界。瞬きを5回繰り返せば元に戻るよ」




 レベットは言われるがまま激しく早く瞬きを5回行う。

 すると、さっきまで見ていた現実に戻った。




「今のは……」


「目に見えない量子世界。あなたはさっきまで高次元を観測していたの」


「高次元……アレが」


「わたしの右肩に何かいない?」




 言われてみると彼女の右肩に黒い鱗に覆われた何がいた。

 黒い塊はアリシアの言葉に反応する様に動き始めた。

 レベットは何事と思い一歩後退る。

 すると、黒い塊から顔が現れた。

 その姿は伝説の生き物”竜”を彷彿とされるモノだった。

 その生き物はつぶらな黒いと赤いの瞳でこちらを見つめ「キュー」と鳴いた。






(か、かわいい)






 その小さく愛らしい姿に心打たれる。

 その生き物はずっとレベットを見つめる。

 まるで観察する様にこちらを見つめる。






(み、見られてる……)






 つぶらな瞳が食らいついて離さない。

 可愛らしい顔をしているが興味津々にこちらを見つめている。

 目を逸らし難い。

 すると、竜を忙しなくなり始め、主人であるアリシアの頬を顔で擦る。




「よしよし。大丈夫。彼女はあなたに危害を加えたりしないから大丈夫だよ」




 アリシアは小さな竜の頭を撫でる。

 竜はもう一度こちらを見つめ直した。





(また、見てる)





 すると、納得したのか、再び顔を埋めた。




「な、何だったんだろう?」


「う〜ん。警戒されていますね」


「えぇ?私、何か悪い事したんですか?」


「あなたは元々、悪魔と契約していましたからね。その残滓が強く残っているからでしょう。ヴァルはしきりに「あの変な人、何?」って不安がってましたから。あの子はそう言う事にわたし以上に敏感ですからね」


「そう……ですか。それは悪い事をしました」


「まぁ仕方ありません。後は忍耐と努力でなんとかなります。そんなに気に病まないで」




 アリシアは落ち込んでいるであろうレベットを気遣う言葉を優しくかけた。

 アリシアは時と場合を使い分けるのが上手い。

 諭そうと努める時や優しい言葉をかける時や厳しい言葉をかける時など使い分けているのだ。

 態度を変えているわけではない。

 ただ、相応しい対応をしているだけだ。

 今は気遣う言葉こそレベットに必要と判断したのだ。




「は、はい」




 レベットはその言葉に自然と安堵と落ち着きを得た。

 彼女の言葉は重くがっしりとしている事が心なしか自然と安心感を与える。

 まるで強固な柱に寄り掛かるような安心感だ。

 どんなに寄り掛かっても壊れる不安を感じさせない強い意志だ。




「さて、後3分かな?」


「3分?」


「片目だけ5回瞬きしてみて。今なら未来が見えるはずだから」




  レベットは左目で5回瞬きをした。

  確かに片目の視界には何か映る。

  そこには男性が1人自分達の前に立ちはだかる。

  自分はその男性に銃を向けていた。




「まさか……」


「えぇ、3分後そうなります。逃げる事は出来ない。なのでこのまま校庭までダッシュ!」




 そう言ってアリシアとシンは万高の校庭に向かって走り出す。

 レベットも戸惑いながら校庭に向かう。

 走りながらレベットは持参していた拳銃を取り出し、セーフティを外した。

 校庭にアリシア、シン、レベットの順番でたどり着いた。


 到着とほぼ同時に地面に何が落ちる音がし辺りに土煙が立ち込める。

 土煙が晴れるとそこには1人の男が立っていた。

 だが、様子が変だ。

 その男は黒い鱗の様な物で覆われ腕や脚は隆起している。

 片手にはブローニングM2マシンガンを保持していた。




「来ましたか。ロア」


「アァァァリィィィシィィィアァァァ!!!」




 その男は狂気に駆られた様な雄叫びをあげる。




「な、何なの?」


「アレはツーベルト・マキシモフ。ロア・ムーイと呼ばれる男だ」


「えぇ!ツーベルト!並行世界のわたしとあなたの同僚だった人よね?なんであんな……」




 レベットは開いた口が塞がらなかった。

 疑問に思うのももっともだ。

 そこにいたのは人の形をした異形の生物。

 赤紫の宝石の様な鱗に額には金の杯を模した様な刻印がある。

 その姿は竜。

 竜人と言って差し支えない存在だった。




 ロア・ムーイ(ツーベルト・マキシモフ)


 偽神の眷属 竜人


 偶像英雄




 筋力 EX54


 神力 EX36


 忍耐力 A


 因果力 EX108


 妨害耐性力 EX108



 セットオブジェクト  竜人術「神殺し」


 読心 10000 発動率EX 送心 10000 発動率EX 発動率EX 英雄因子 17230 発動率EX 身体強化 9000 発動率EX 神力吸収 8000 発動率S 神力生成 19000 発動率S 超感覚 10500 発動率EX 身体変化 4000 発動率S……




 エクストラ・スキル


 竜人の本能




「どうやら、あの後で力を得る為に肉体と精神を強化した様ですね。調整直後で情緒不安定な状態で来たようですね。そんなにわたしに勝ちたいの?」




 アリシアは淡々と分析と意見を述べる。

 その表情は余裕そうで動じている2人と違い少しも動じていない。




「全ては人類の希望を叶える為……」


「希望?」




 ロアのその言葉にレベットが疑問を抱く。




「世界に人の心の光を見せねばならん!その為にはその女は邪魔だ!」




 アリシアが呆れたようにロアに問いかける。

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