決闘前

 18時 第3シュミレータールーム


 あの2人の伝手で広まった突然の事に外からマスコミが押し寄せ、学校側が対応に追われる。

 万高の特性上準軍事拠点と言う都合上、事前のアポ無しでは学校には入れない。

 学校側の緊急措置で学校の完備する設備でシュミレータールームの映像を直結した臨時上映設備をマスコミに公開した。


 マスコミの間では賛否が分かれていた。

 天空寺 真音土は第2の滝川 吉火とも言われるブレイバーの隊長にしてCEO。

 ブレイバーとして数々の紛争地帯でサレムの騎士を討伐、犯罪者組織とも戦って実戦経験の長さならアリシアよりも長いと世間は見ている。

 加えてアリシアよりも社会的地位もあり、女性人気が強く子供にも分かり易い正義として知覚されている。


 一方のアリシア アイは最近頭角を現した軍のエースパイロット。

 世界大戦の引き金となる多くの事件を単機もしくは少数戦力で阻み、そのどれも過酷で不可能に近いとされる任務を遂行した強者。

 色々、謎の多いとされる彼女だが、ルークスと愛くるしさがあり、女性人気もあるが男性人気が非常に強い。

 日本での知名度こそまだ低い方だが、旧バビ周辺では彼女の信者とも言える人達の信頼が根強い。

 バビに置いては年齢層を問わず彼女の人気は根強い。


 今の時代、例え日本のテレビ局の放送であろうと外からの視聴者が手軽に見えてしまう時代だ。

 一度放映すれば反響に大小あるが、世界に波及する。

 マスコミもその辺を考えながら番組化するだろう。

 今では公式の番組の枠が足りないのでテレビの番組欄に載らないテレビはネットで流す世の中である。


 マスコミが外で観戦を待っている中、学校の生徒は特等席で2人の対戦を観られる。

 シュミレーターの映像を大型モニターに直結、クーラーの効いた部屋で多くの人間が映画鑑賞する様に座っている。

 そこにはフィオナとリテラ、オリジンと正樹がいた。

 シンは先に学校を出て基地に戻り、シオン絡みの仕事に取り組んでいていない。

 連絡すると間近で見れない事が少し残念そうではあった。

 なにせ、彼はアリシアと同じくらい英雄が嫌いだ。

 シンの過去に纏わる話はネクシレイターになれば、知識の様に情報共有される。

 だから、シンがどれほど英雄を憎んでいるか良く知っている。




「あぁ、ここにいたんですね」




 すると、後ろから繭香の声がした。

 フィオナとリテラが後ろを振り返り手招きする。




「繭香!病室抜け出して大丈夫なの?」


「丁度、退院出来たんです。だから、気になってここまで来ちゃった」


「うわぁ、おめでとう!ほら、横空いてるよ!座って」


「うん」




 繭香は微笑みを浮かべながら座った。

 そこにはかつての暗い影はない。

 そんな繭香にオリジンは無邪気に質問する。




「ねね、白雪姫」


「えぇ!それ、わたしの事」


「うん、そうだよ。間違ってるかな?」


「いや、そもそも合ってないと思うけど……それが呼び易いなら別に良いよ。で、なにオリジン君」


「お姉ちゃんと戦う人白雪の親戚なんでしょう?強いの?」


「え……どうなんだろう?わたし、彼の戦闘あまり直で見た事ないから……」


「強いわよ、彼は」




 背後で声がした。

 そこには切れ目が特徴的な顔の整ったどこか太々しく堂々とした雰囲気を思わせる黒髪ポニーテールの女性が立っていた。




「どちら様ですか?」




 正樹はプライベートスタイルではなく紳士スタイルの口調で尋ねた。




「パイロット科2年。橘 千鶴よ」




 リテラとフィオナはその名に聞き覚えがあった。

 アリシアの記憶にある天使候補者であり、かなりの逸材を聴いている。




「ね?隣良いかしら?」




 フィオナは「どうぞ」と促すと千鶴は座り脚と腕を組み堂々と座る。

 フィオナ達の第1印象としては橘 千鶴は見たまんまのイメージ通りの女性だった。




「それであいつが強いか?だっけ?まぁ強いわね。何度か模擬戦したけど、中々勝てなくて」


「そうなんですね」


「中々ですね」




 リテラとフィオナは気づいていた。

 橘 千鶴のデータは既にGG隊内で出回っている。

 候補者と言う事もあり千鶴の情報は管理されている。

 その結論から言えば、千鶴は弱くはない。

 寧ろ、真土音より強い。

 まず、中々勝てないという状況が起きないほどの技量差がある。

 これはリテラ達の私見でもシオンの量子コンピューターが出した結果でも明らかだ。

 どんな勝負をしても9対1で千鶴が勝つほどの技量差だ。

 それだけを聴いた限りではやはり”英雄因子”の影響が垣間見える。




「特に接近戦での剣さばきがね。懐に入られたら最後コックピットごと一刀両断よ」


「成る程、示現流みたいな奴だな」



 正樹が何かの流派の名前を口にした事にオリジンがそれに純粋の興味心で疑問に持つ。




「示現流?」


「一太刀に全てを賭けるタイプの流派さ。脳筋とも言える」


「あーあいつそんなの習得したって言ってたわね。これは悪を断つ剣だ!とか何とか」




「どこのゼ〇ガーさんだよ」と言う正樹のツッコミを聞き流し、今度は千鶴がリテラ達に質問する。




「ところでさ。アリシアの方はどうなのよ?実際、どんだけ、強いの?」




 千鶴はパイロットとして純粋にアリシアの技量が知りたかった。

 真音土とアリシアを比較するのも決闘の醍醐味と言う趣旨で聞いているのもあるだろう。

 リテラ達も千鶴との関係を作っておきたかったので答えられる範囲で答える。




「うん……機密に関わるから全ては言いませんけど、シュミレーター上の4閣をウォーミングアップで200機撃墜してますね」


「うわぁ……それはそれで凄いは……わたしなんて40機で息を切らせるくらいなのに」


「いや、アンタも相当凄いと思うぜ」




 紳士スタイルがいつも間にか崩れてしまうほど正樹は呆れ返っていた。

 4閣シュミレーターと言う名前が付けられた鬼畜仕様とも言われる難易度のシュミレーターだ。

 あくまでシュミレーターでの話ではあるが、それでもこの難易度を1回でもクリアすれば一人前と言われるほどハードな訓練の1つで正樹は未だにクリアできていない。

 元となった4閣の戦闘データがそもそも、人外の域に達したパイロットのデータなので並のパイロットはまず、クリアできない。

 クリア確率0.0001%のゲームと思えば良い。

 それをウォーミングアップ感覚で行う兵士など人外中の人外な訳で正樹からすれば、アリシアの底知れなさの一端を聴いてある意味、打ちのめされたようだった。




「あーでも、それは専用機があるからなんだよね」




 フィオナの言葉に千鶴が疑問を持つ。




「どういう事?」


「あの子、素でめちゃくちゃ強いから普通の機体使うと1回くらいで機体が壊れちゃうんですよ。だから、普段はどんなに動かしても壊れない専用に改造された機体を使ってるんです」


「嘘でしょう。どんな機体も1発で破壊……って、ちょっと待ったシュミレーターには普通の機体しかないのよ。逆にあの子、不利なんじゃ……」




 そう言う懸念を持つのは最もと言わんばかりにリテラとフィオナが補足する。




「でしょうね。普通の機体の動きが重いと言っていました。あの子の反応が速すぎて機体側が動作読み取れきれなかったりしてぎこちなくなるんですよ」


「まぁ、分かってて勝負受けたんだろうから勝算はあるんでしょうけどね」




 リテラ達が一切不安に思わず堂々と宣言しているのを見ていると試合は心配なさそうに千鶴は思えて来た。

 だが、それはそれで新たな疑問が浮かんだ。




「ちなみにさ。決闘の理由は聞いたの?」




 千鶴にとっても多くの人間にとってそれは謎だろう。

 あの2人が何故、決闘しているのか?それが分かるのはネクシレイターとなった者だけだ。




「犬猿の仲という奴でしょうね」




 繭香がこの状況を端的に例えた。




「犬猿?あの2人仲悪いの?」


「相入れないんですよ。互いの心情が……」




 繭香が告げた事がまるで合図だったように試合開始のアラームが鳴った。

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