説教と言う名の福音

 アリシアは少し驚いた。

 何故なら、自分達以外にも悪魔の存在に気付いた者がいるからだ。

 確かに傍からみれば、喜ばしい事で味方になる可能性はある。

 ただ、それを一概に喜んで良いのだろうか?

 アリシアからすれば、彼の方が悪魔の手先に思えてならない。

 何せ、戦闘幇助して心理兵器の資金源を送っていた事がどうしても納得できない。

 つまり、言っている事とやっている事が全く伴っていない。

 ならば、自然と考えられるのはその悪魔がわざと真音土に情報を流し躍らせているという可能性が一番高い。




「父は過去の歴史上に現れたメッセンジャーのデータからそこに行きついたらしいです。誰かは知りませんが時代毎の平和指導者や宇宙統合政府のトップや科学者にある者の存在を伝えた者がいる様です」




 確かにそれなら知っている理由にも納得がいく。

 その伝えた人物をアリシアはよく知っている。

 過去に天の国から様々な天使が人間との和平を望み、サタンに惑わされ、戦いに興じる人間達に戦いを止めさせる為に地球に降りている。

 だが、そのメッセンジャーとなった時の人達はその多くが英雄により、計画を阻まれ或いは殺された。


 それがWNによる運命論、即ち人の意志によって決定した神への反逆の意志によるモノだ。

 そのように天の世界では受け止められている。

 民主主義と同じだ。

 国の代表を国民が選び代表が国の方針を決めた。

 決められた方針は国の意志、つまりは国民の意志としてみなされる。

 例え、どれだけ違うと主張しようと無意識では同意しての事なのだ。


 神の世界の法で、もしこの意見を違うと言うのならば選挙に参加しては成らない。

 人の理に関わった時点で共犯と変わりないのだ。

 人の理と関わろうとしない誠意が無ければそれは悪魔と同じと見なされる。


 1人の従順で多くを救うが1人の不従順で多くを殺す。


 天の世界の理でのその様な連帯責任が成り立つのだ。

 だから、真音土の父がその情報を仕入れた理由については納得はいく。

 だが、それが悪魔の作為である可能性が十分に高い。

 そもそも、人間の意志で否定された捨て石のような過去の人間のメッセージをわざわざ、拾い上げる人間がいるとは思えない。

 そもそも、その存在に気づくとは思えない。

 故にそれに気づかせた存在がいて然るべきなのだ。

 それが誰なのか言うまでもない。




「その悪魔が人の歴史を歪ませていると父は語っていました。だから、俺は歪みを正す為にブレイバーを作りました。人類の平和を守る為に」


「……」




 真音土の正義は決してロアの様に歪ではない。

 見えない敵と戦う為に1人で戦力を集めた辺り賞賛に値する。

 でも、やはり相いれない。

 アリシアとは方向性が違う。




「いくつか答えて下さい」


「何です?」


「あなたは正義の味方?」


「そうです」


「人類を救いどうするんですか?」


「勿論、平和を守り続ける」


「正義の味方としての活動内容を言えるだけ答えて」


「サレムの騎士の討伐、悪の秘密結社との敵対だ」


「その秘密結社と敵対する理由は?」


「彼等が戦争を引き起こし人類の平和を脅かしているからだ」


「あなたの力は正義の力?」


「はい」


「あなたは悪人?それとも善人?」


「少なくとも悪人ではない」


「これが最後、過去に第2連隊に介入した様ですがその理由は?」


「彼らがわたしの物資の輸送を妨害したからです」


「……」




 アリシアは淡々と質問してある結論に達した。

 伝える時が来たようだ。




「結論を言います。あなた悪魔に操られています」


「……えぇ?」




 思わぬ返答に真音土は口を開け困惑する。




「わたしもあなたと同じ悪魔と戦う者。でも、その行動原理は決して相容れない」


「君も悪魔を追っていたのか……」




 自分以外にも悪魔と戦う存在がいる事を知り、真音土は少し驚いた。

 だが、それと同時に自分とは相いれない事にも驚きを隠せない。




「わたしは悪魔の存在を人類に教えた者達の縁者です。あなた以上に悪魔について熟知している。あなたのやろうとしている事は間違いじゃない。でも、正しさが伴っていない。悪魔と変わりない所業です」


「オレが悪魔と同じだと言うのか!?」


「なら、何故戦争幇助したんですか?」


「戦争幇助?」


「あなたがバビに過剰な資金供給した事でバビ国内で心理兵器の開発が加速、わたしが止めなければ悪魔の思うツボでしたよ?」


「なんだと……」




 この反応からして本当に知らないようだ。

 だが、知らないからと言って悪くない訳ではない。

 何故なら、因果論的にはこれは彼が選択した最善の行いと言う事だ。

 ”英雄因子”の補正がある以上、彼にとって最善の計画、最善の行いが反映されるのだ。

 口先で潔白を謳おうと行いが黒である事を証する。

 それにその悪に気づくチャンスならいくらでもあった。



「それを阻もうとした第2連隊を剰え、敵と断定してセイクリッドベルを嗾けている時点であなたが悪魔に加担していないとは言い難い者ですよ」


「君は何者なんだ?」


「わたしはアリシア・アイと言う人間とも言われていますが同時に神とも言われた存在」


「神?君が?」


「あなたはわたしの話を聴きはしますが、理解はしないでしょう。ですが、それでも伝えましょう。あなたは良い様に利用されていると」




 アリシアは説明した。

 アリシアが彼に質問した内容の意味を1つ1つ説明しよう。


 1つ目 あなたは正義の味方?


 本来、世界の救うならNOと答える。

 正義、それは高慢だ。

 天の元に特別な人間がいない以上、正義と言う一個人が唱えた物を崇高なモノとするのは争いを産む素。

 では、誰もが望む正義なら良いのかと言えばそうではない。

 大衆的な正義=絶対正しいではない。

 それが成り立つならナチスのユダヤ人虐殺は正義と言う事になってしまう。

 その時代で圧倒的な支持があろうと必ずそれが正しいと言う根拠はない。

 故に口先だけで証できない正義は正義足り得ない。

 何でもかんでも武力で解決する彼がまさにいい例だ。




 それが2つ目3つ目4つ目に質問に繋がる。


 人類を救いどうするんですか?


 正義の味方としての活動内容を言えるだけ答えて


 あなたの力は正義の力?


 救うだけならその気になれば出来る。

 だが、多くの者は忘れがちだが救った事にも責任が伴う。

 仮に救っても救った者が悪事を働けば本末転倒だ。


 その悪人を救ったのは他の誰でもない。

 だからこそ、救った後は導き、示し、証を立てねば成らない。

 だが、真音土は平和を守る事を選んだ。

 それは救う事の上塗りに過ぎない。

 米の上に米を乗せているだけだ。

 戦う度に証を示さねばその分、悪事を増やすだけだ。




 その上で念の為に活動内容まで聞いた。

 だが、彼はこう答えた。


 サレムの騎士の討伐、悪の秘密結社との敵対だ。


 正義を名乗ってはいけない訳ではない。

 もしそうならアリシアの行いも悪に成ってしまう。

 だが、その境界はどれだけの証を立てたかだ。


 アリシアは自分の戦いの証として戦災孤児となった子供を引き取ったりして育てている。

 ある所では病を癒し岩から水を出した。

 駐屯地の設営を行い、過越を施し掟と戒めを与えた。


 別に神の奇跡を起こせとは言っていない。

 ただ、自分に出来る事で彼女の自分のやっている事を誠意で証したのだ。

 それが人に見られている、見られていないは関係ない。


 それが認められる物、認められない物であるかも関係ない。

 それはただの感情論だ。

 物事の正当性は悪魔に偏る悪霊か神に偏る聖霊しかない。

 証が少なければ悪霊、悪魔の理。

 証が多ければ聖霊、神の理。

 物事の正当性は証による相対的な量で決定しているだけだ。


 これは神が決めた事ではない。

 自然とその様に成っている。

 神だからと言ってこの規則から外れれば悪と変わらない。

 だが、アリシアの証の量に対して真音土の証は「敵を倒す力」だけだ。

 それ1つでは証として足りない。


 無論、種類が多ければ言い訳ではない。

 ただ、証にも低位と高位がある。

 簡単にできる事と難しい事だ。

 手間がかからないかかかるかとも言える。


 真音土の様な物欲的な行いでは低位だ。

 真音土の理屈で行えば、銃を持った銀行強盗でも盗みに成功すれば正義だ。

 だが、アリシアの戦災孤児の養育は違う。

 子供がしっかり育つ様に養育費や悪い事をしない為の教育や危険な行動をしない為の監督や育てる為に働きかつ自分が生き残らねばならない等手間がかかるのだ。


 真音土は手間のかからない「力」だ。

 アリシアは手間のかかる「誠意」を行使している。

 この時点で悪魔と神の行動原理は別れている。


 更に彼は悪を許さない。

 これは多くの人間にも言える事だが、逆の言い方をすれば、自分の悪は許容するのに人の悪は絶対に許さないと言う事に他ならない。

 神の精神である寛容から遠い考えだ。

 悪が滅びる事を是として力を振るいそれを喜ぶ、まさに悪魔の本性以外の何者でもない。


 加えて、真音土は高慢だ。

 話の内容からしてどうやらエレバンと敵対している様だが彼らの事を一方的に悪と断じている。

 エレバンの行いが世俗的に見て悪いと言う物欲的な解釈は悪魔の解釈の仕方だ。



 一般的では無い。


 異端。


 少数意見。


 みんなが望んでいない事。


 だから、悪い。


 だから、間違っている。




 そのように考えるのは悪魔の考えだ。

 実際、彼らにも言い分はあり、人口削減しなければ、人類が滅亡すると言う切実な問題を抱えている。




 世界征服をするのは異端だから悪だ。


 理由の是非も慈悲もない。


 ぶっ殺そう。




 と言う様に相手の意見を聴かず、自分の意見こそ正しいと証もしない癖に押し付け必殺技でラスボスを殺すアニメの主人公と同じだ。

 それは悪魔の考えだ。

 エレバンの行動をよく考えなかった時点で真音土の中にはただ、気に入らないから戦いたいと言う敵対心しかない。

 この考えは神に敵対しているに等しい考え方だ。

 そして、自身の正義を特別視し力として考えた。


 何度も言うが天の元に特別な人間はいない。

 特別な正義も特別な悪も無い。

 アリシアの行いとて特別では無い。

 ただ、証を立てただけに過ぎない。

 特別で無い物は悪ではない。

 だが、特別は悪だ。


 自分の行いが崇高なモノと思えば、人は証する事をやめる。

 証をやめれば正しくて当たり前と慢心し怠惰となり高慢に繋がる。

 そもそも、この世に特別な物がない以上、正義の味方等と言う特別な者は本来、存在しては成らない。

 世界の理が気に入らないから敵対して正義の味方に成ってみたと言う子供の言い分と変わらない。


 アリシアから説明を聴く度に天空寺 真音土の顔がドンドン青ざめていく。

 自分が固く信じていたつもりの事が彼女の説明一つで碌な反論一つ出来ないまま壊されていく。

 そして、彼女はトドメの一撃を刺す。




「あなた、さっき自分の事を悪人とは答えませんでした」




 アリシアの正眼を据えた瞳で殺意もなくただ淡々と事実を述べる。




「そもそも、武力行使とは誰かに許可されているのか、されていないかその差しかない。どちらも人殺しを生業とする事、本質的に善人な訳が無いんですよ。わたしもあなたも」




 真音土の心に何かがグサリと刺さる。




「そこから出される答えは1つ」




 真音土は生唾を呑む。

 正直、耳にしたくない。

 騒がしい銅鑼が目の前で大きな音を立て耳を塞ぎたくなる感覚だ。




「あなた……

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