英雄因子

 天空寺 真音土


 偽神の眷属 英雄


 役職 偶像英雄


 筋力 C+++


 神力 C++


 忍耐力 D+++++


 因果力 EX3


 妨害耐性力 EX5


 セットオブジェクト 無し


 剣術70 発動率EX 射撃術65 発動率EX 英雄因子14350 発動率EX 発動率EX 身体強化20 発動率EX 情報処理40 発動率S 豪運55 発動率EX




 読心系のスキルはないようだが、内容的に完全にギルティだ。

 まず、特出すべきは因果力EX3だ。

 数値換算するなら300000だ。

 分かり難いかも知れないが、かなり破格の数値だ。


 現状、”権能”が失われたこの世界のステータス表記は狂っているので数値化されるモノが数値化されない分からないだろうが、悪魔の妨害の影響で抽象的なランク記号で表記されEX1つがは大体100000に相当する数値だ。

 これがどのくらい高いかと言うと普通の人間が600~1000の間と言えば、如何に異常か分かるだろう。

 あのオーディンすら101200くらいなのだ。

 これだけ見れば如何に可笑しいかよく分かるだろう。


 これだけあるなら、どんな不利な状況でも絶対に逆転できる運の良さを獲得しているに等しい。

 例え、直径7kmの隕石が99.9%落下すると決まっていてもそれを300%で跳ね返す幸運を持っていると思えば良い。

 それこそ、並行世界に干渉してでも300%の奇跡を発生させる力だ。


 もっと、精確に言うなら3次元世界では100%近い不可能でも確率世界に存在する可能性……それも僅かに存在する可能性を引き出し100%以上の奇跡を起こすと言ったところだ。

 仮に彼よりも腕の立つパイロットがいてもこの因果力の前ならまず、絶対に負ける。

 これらの因果力は本来、彼自身のモノではない。

 全ては“英雄因子”と言うスキルによって為された所業だ。

 ”英雄因子”の詳細を閲覧すると使用者の因果力の補正や様々なバフとなっており、更に偽神や偽神の眷属にのみ使用可能と言う印まであった。

 これだけ見れば彼が悪魔の手先であるのは自明と言える。


 だが、観測デバイスが正しく機能し英雄である事を観測できるか確認する必要がある。

 初めての英雄との接触の為、サンプルデータを取得する関係上、まだ読み込みに時間がかかっている。

 それにこれは今後の事を想定した予行演習を兼ねた実戦だ。


 英雄とのアプローチ、作戦データの累積だ。

 彼等も英雄とはどんな者か詳しく知る必要がある。

 そして、アリシアも英雄との和解策があるのか、検討しなければならない。

 みんな多方面で学ばなければならないのだ。




「今日は示談応じて貰いありがとうございます」


「いえ、オレの方こそ応じて頂きありがとうございます」




 互いが互いに軽くお辞儀する。

 最初に口火を切ったのは真音土だった。




「それで確認ですが、あなたはオレの従姉妹である間藤 繭香に関わらない事が条件とされたいらしいですが、具体的にはどう言う?」


「言葉通りです。そちらから繭香への干渉をやめてほしい。無論、家の事情や政略結婚の類に利用する事も彼女を道具扱いする事も許しはしない。彼女の自由意志を尊重し一切妨害しないで貰いたい」


「あなたは繭香を自由にしたいと」


「そう。生まれた家に関係なく彼女の自由意志を尊重したい」




 真音土はテーブルのアイスコーヒーを啜り、鼻息でコーヒーの香りを楽しみながらグラスを戻す。




「成る程、あなたは繭香を思っているのですね。ならば、わたしとしても安心だ。実のところ叔父のやり方はわたしの目にも余っていた。止めようにも、もう止められない域に達していたんだ。叔父は頑固でしたからね。確かに繭香の為を思うなら一族との縁を絶つのも手でしょう。ですが、一応親族として確認したい。繭香の新たな保護者なり後見人は見つかったのですか?」


「後見人には滝川家に属するわたしが一番信頼する男性が名乗りを上げました。だからと言って誤解しないで下さい。彼女を滝川家に渡した訳ではありません」




 一応、名家と言う事もあり滝川家と聴けば嫌な顔をするかも知れないので誤解がないように説明をしておいたが、彼は特に嫌そうなそぶりは一切見せない。




「あなたが信頼を置く滝川家の人間と言えば大戦中の英雄 滝川 吉火少佐でしょう。確かに彼は滝川家では微妙な立ち位置だ。だが、少し不安な立ち位置でもある。そんな人間に任せるのはこちらとしても不安だ」




 尤もらしい意見だ。

 親族を心配するなら確かに気がかりな点ではある。

 英雄と聴いて自己中なサイコパスを想像していたが、どうも違うようだ。

 英雄と言えば、ロアと言うイメージが強いせいかも知れない。

 尤も口先だけ綺麗ごとを言う悪人もいるのでまだ、警戒すべきだ。




「誰も後見人だけとは言ってません。それはあくまで補佐です。保護者の方はわたしの直属の部下が名乗りを上げました」


「その人の名は?」


「ギザス ボンドフ」




 真音土は少し硬直し目をハッと開く。

 よほど、驚いているようだ。

 知り合いか何かだろうか?

 ただ、ギザスからそんな話は聴いていない。

 真音土との対話はギザスには伝えたが、もし知っているならその時、話しているはずだ。




「ギザス ボンドフって……あのギザスか!イギリスの大英雄とも言われた早撃ちのギザスと恐れられた伝説のエースパイロット。大戦後に消息を絶ったとされ一説では傭兵となったと言われる。あの?」




 知己の関係と言うよりはギザスのファンだったようだ。




「よくご存じですね?」


「あぁ。リスペクトしていますとも。イギリスを護った大英雄ですからね。1人であの4閣を抑え数多の敵を倒したとも言われる憧れですよ」


「では、そちらの不安はもうありませんよね?」




 だが、真音土は渋るような仕草を見せる。




「いえ、憧れではありますが一応、傭兵となった後の彼の人物像に対する噂は耳にしています。戦後から粗暴な振る舞いと好戦主義者になったと聞きます。その様な男に繭香を預けて良いものかと考えています」


「それは所詮過去の話です。今の彼はとても誠実で粗暴な物言いわしますがとても献身的な方だとわたしは認識しています」


「成る程、確かに噂の情報も旧い。今がその様な性格で繭香も納得しているならわたしとしは問題ありません。それに今日の朝、病室で見た彼女の顔はそれまでとは違い希望に満ちていた。それに彼女も言っていました。「これで良かった」とあなたに会った数日で繭香は本当に変わりました。まぁ、相変わらずわたしには苦手意識があるようですが」


「そうですか。では、この件は承諾して貰えますね」


「えぇ、構いませんよ。何より本人が望んでいるのを知っていますから」




 話がスムーズに進む。

 今のところ全く交渉の余地がない奇人とは思えない。

 中々、好感触ではあった。

 それに繭香の事を気遣って病室まで訪れるあたり良い人そうではある。

 だが、それだけでは判断できないのは人の複雑なところだ。


 ロアだって世界平和の為に自分を犠牲にして懸命に戦っている。

 その姿勢は素晴らしいと思うが、その中身は見るに堪えないほど汚れている。

 真音土とてそうである可能性はある。




(ここまでの様子を見る限り繭香に対する固執がある訳でもないみたいですね。繭香の事を考えている点は吉火さんよりの英雄ですね。ところで計測結果は?)


(ゲイザー3。レッドゾーン)


(ゲイザー4。レッドゾーン)


(ゲイザー2。同じく)


(彼が英雄なのはデバイス観測でも確定ですか。でも、吉火さんに近いなら交渉の余地はあるかも知れませんね。真音土に関しては関係構築を築くなりしながら徐々に改善するのが良いかも知れないかな?吉火さんのように英雄的な行いを悔いるくらいの因子があれば行けるかも知れないけど、それを判断して対応しようかな)




 と思いながらとりあえず、今日の話はこれで終わりと考えていたが彼からある話を切り出した。




「示談はこれで終わりです。次はこちらとビジネスの話をしませんか?」


「ビジネスですか?」




 思いがけない要求だった。

 まさか、示談の場でビジネスを展開するとは流石、社長と言うべきかもしれない。

 しかし、一体どんなビジネスの話をするのか?

 この前の綾みたいにGGやめて財団に仕えろとか繭香の父みたいな強行策に出られると正直、面倒なのだが……。




「単刀直入に言います。我が社が作った武装組織ブレイバーに入りませんか?」


「……スカウトと言う事ですか?」


「無論、あなたは新設部隊の長だ。入隊しないまでも共闘関係でいたいのです」




 人当たりが良い人だとは思うが正直、怪しい。

 何せ、第2連隊の事もある。

 本人の悪意は無く悪事を働くぶっ壊れ人間である可能性も懸念される。

 ここは慎重に情報を手に入れておかねばならない。




「ちなみになんでわたしなんですか?」


「あなたの行いが正義を貫く者だからです。あなたは人類の平和を守る守り手として軍とは違う独自の行動を見せ全てにおいて裁量の結果を残している。わたしのブレイバー隊も似たようなモノです。統合軍のやり方が過激な動きになりそれが世界を混沌に包んでいる。その抑止として父はブレイバー構想を立ち上げたのですが事故で死んでしまい。社長になったわたしはそれを引き継いだのです」


「あ、だから正義の味方を名乗っているのですね」


「えぇ。そして、父は死ぬ直前に教えてくれたのです。この世界には悪魔がいると」


「悪魔?」


「目には見えない高次元生物と聞いています」


「……!」

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