神と悪魔は相いれない

「あなたは知りたいのでしょう?我々が何者なのか?その答えはこれから起きます。先程、主から連絡がありました。後2分後に我々の真の敵が現れると」


「君達の真の敵?」


「我々GGの真の敵。我々はその敵と戦う為に集められた」


「それが地球統合軍なのか?」


「そうであるとも言えますしあなた達自身とも言えます」


「我々自身だと?」


「今回は地球統合軍が原因で敵が現れるだけ。時と場合ではあなた方宇宙統合軍が敵を呼ぶかもしれない」


「話が見えんな。君達の敵とは一体なんだ?」


「そうですね。人類の業、人類の罪。それが我々の敵です」


「人類の罪だと?」




 すると、ルーは何かを察する様にテレビ画面の方を振り向いた。




「来ましたか」




 そこには紅い機体が戦域に近づいているのが見えた。

 ウィーダルはその機体に心当たりがあった。




「あの機体が敵なのか?」


「えぇ。敵です。あなた達が紅い悪魔と呼んだ敵です」


「紅い悪魔だと!?」




 たった1機の機体に何が出来るのか分からない。

 だが、「紅い悪魔」ロア ムーイはケルビムⅡを地球に降下させる陽動作戦「流星落とし」で宇宙統合軍のAP部隊を壊滅させた化け物だ。

 あの時とは機体が違うが女が嘘を言っておらず紅い塗装から関連付けるなら恐らく、ロアだ。

 機体がGG隊の機体に似ているのが気になるが、今は些細な事だ。




「1機にしか見えるが伏兵がいるのか?」




 ウィーダルは自分の考えられる可能性を示唆した。だが、ルーは首を横に振った。




「これからあなた達は信じられない光景を見るでしょう。ですが、決して目を背けてはなりません。これはあなた達の問題でもあるのですから」




 ウィーダルと部下達はルーに机の席に着く様に手で促された。

 彼等は大人しく従い席に着いた。

 彼等は知る事になる。

 人間の罪がどれだけ深いのか?

 自分達がどんな存在なのかこの戦いが物語るのだから。




 ◇◇◇



 戦場



「来ましたか。ロア」




 補給と機体の修復を終え、再び出撃したアリシアはロアと対峙する。




「あぁ。お前を倒すのは俺の役目だ!」


「まだ、自分を正義と思っているの?自身の正義を絶対視する者は破滅しますよ」


「それを貴様が言うのか!お前だって自らのエゴと独善で世界の在り方を左右しているだろう!」




 ロアは激情して反論する。

 ロアからしてみれば、「人の心の光」を信じない絶望論者が人類の希望を信じず、世界を破滅に追いやろうとしているようにしか見えない。

 彼からしてみれば、人類の未来への可能性を信じないアリシアの考えは異端であり、自分の考えと相容れない敵に過ぎない。




「そうね。否定はしません。だからこそ、わたしは誰かに仕える者でありたい」


「?」




 ロアは言っている意味が分からなかった。

 それは彼には仕える事の意味と価値を知らないから捨て石のようにその考えを捨てている事に他ならない。




「言っている意味が分かりませんか?わたしはわたしの独善で世界を振り回している。だからこそ、自分を無にして相手に謙り身を低くして自分の義が世の誰よりも優った者であろうとして証を続ける。ただ、奢り自分の正義が最初から正しいモノと自惚れ独善のままに正義を振る舞って争いを起こす貴方とは違う」


「俺が奢っていると言うのか!」


「人であれ神であれ、奢りを認識された時、その者には確かに奢りが存在する。わたしはそれを認めているからこそ正しくあろうとしている。あなたの様にありもしない独善で人を惑わし自己満足に浸って証もせず、口先だけ立派で尊大な夢物語を語る怠惰な人間と一緒にしないで」


「貴様は神と名乗りながら人の未来を信じられないのか!」


「信じられない」




 アリシアはハッキリと言い放つ。




「人に正義なんて無い。正義なんて所詮、偶像ですよ。それは歴史が証明している。人間は誰1人として自分の正義が正しいと証を立ててから行動した試しがない。いつもいつも、独善に囚われ手段と目的を履き違える。独善と言う正義を口にしてから武力を行使する。歴史はいつも正義は武力を正当化する為の方便と言っているわ」


「違う!人には正義がある!その正義を信じられない貴様は神では無い。ただの弱者だ!正義は必ず勝つ!それを最後まで信じられないお前が無力なだけだ!」


「わたしが弱者なのは認めます。ですが、あなたほどでは無い。独善は証をしない限り正義にはならない。証を見せるつよさも無いあなたが言っても説得力に欠ける。あなたはただ、良い歳して子供の夢想で世界を掻き乱す病虫に過ぎない」


「黙れ、そんな事はない!人間の可能性はいつか、時すら支配する存在になれる!」


「そうやって、明日を誇り未来なら何とか出来ると甘んじて怠惰になっている時点であなたの不純な動機と醜悪な心が浮き彫りなると気づかないの?さっきから口先だけで何一つ証しないけど、それは証する物が無いという証そのモノじゃないの?あなたは貪欲のまま戦ってばかりで人の良い業なんて何一つ行う気が無い。あなたはそうやって歴史を繰り返す」




 彼女の言葉には自然と説得力があった。

 アリシアは無名の兵士である時から自分の出来る範囲でコツコツと地道な事を続けて来た。

 意図した訳ではないが、父親の医療費の為に身を削り、子供の養育の為に身を削り、更に収入の大半を孤児院などに寄付して残りは最低限の生活維持費と仕事の資金源に回していたのだ。

 別にそれを殊更、示したかった訳ではないが、正しくあろうと努力し続けた結果、名誉貴族になった辺りからその事が露見して誰の目で見ても分かるほど列記とした証になったのだ。


 彼女の誠実な努力と愚直な献身が証として建てられ、それが自然と言動や態度に現れ説得力を増したのだ。

 正義の証とは武力やその場凌ぎの薄っぺらい言葉では紡げない。

 全ては日々の研鑽で証するしかないのだ。

 ここに来るまでに日々の研鑽を怠り何もせず、口先で正義を語るだけのロアは彼女の矢面に出ている時点で既に敗北しているのだ。




「歴史は繰り返す。その事実から目を背け自分の正義が優れたものと思い込んでいる時点であなたは奢っている。ハッキリ言います。あなたの抱いた正義はあらゆる世界、あらゆる過去で既に提唱された代わり映えのしない正義ぐうぞう。代わり映えのしない正義を過去も現在も提唱して一体何が変わるの?」




「黙れ……」




 ロアは「黙れ……」と反駁する。だが、それしか出来ない。何故なら、図星だからだ。

 だからこそ、アリシアの考えを認めたくないが、故にただ逆らう事をする。

 だが、アリシアは容赦なく攻める。




「あなたは正義という偶像に惑わされているだけ、ファザーに騙されているだけ。そうやって現実から目を背けるあなたに正義があるの?良いように扱われ、良いように利用されて自分の過去を認めず、正当化しているあなたに正義を語る資格があるのか?」




「黙れ……」




 その言葉がどこか正論である事を知る故に「黙れ」以外言えない。

 認めたくがないが為に強気な口調で反駁するしかないのだ。




「あなたは結局、自分の正義に酔いしれているだけだ。明日を誇り問題を先送りにして現在を守っているだけ。悔い改めなさいと言ったはずなのに自分の行いを一切、顧みない。そうやって人を助ける正義の味方を演じて貪欲を満たす為に正当化しているだけの愚かな弱者。それがツーベルト マキシモフという人間の本性です」


「黙れよ!」




 ロアは激情した。

 彼女の言葉がまるで雷のように騒がしく聴くに耐えなかった。

 ロアはオルタを利用して構えた銃口からレーザーを放った。

 彼の怒りを顕す様に激しい一撃がアリシアに飛翔する。


 だが、アリシアは避けない。

 徐に右手を手前に翳し、”障壁”を展開した。

 すると、レーザーはネクシレウスの目の前に直撃した。

レーザーはネクシレウスの目の前に止まりネクシレウスが右手を握るとまるで砕ける様に消えた。




「ば、馬鹿なアレでもダメなのか……」




 今の一撃は彼の自己ベストを更新する程の一撃だった。

 ネオスとなり感じ取った彼の崇拝する神の力を借り、この短時間で機体にも改良を加えた。

 なのに、届かない。




「怒りに任せた品性のない一撃では、わたしには勝てませんよ」




 アリシアは”打撃格闘コンバット1”のオブジェクトに切り替え、空中でスラスターを瞬発的に噴かし、飛び跳ね、その場の地面を蹴るように脚の反作用を利用した腰の入った左ストレートをロアに向けて放つ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る