人理悪魔領域ヘルゲート

アリシアの焦り

 ADの弾幕がアリシア達に注ぐ。

 アリシアは圧倒的な弾幕の中を突き進む。

 圧倒的な加速力で通常戦闘の24倍以上の速度で迫る。

 だが、敵の対応が速い。

 弾幕を避けてもすぐさま、ロックオンされ敵の砲撃の速さにアリシアは面食らう。




「速い!ウィーダル ガスタ。並みの名将ではありませんね!」




 アリシアは敵の指揮官がウィーダルである事に勘づいた。

 通信をしなくても分かる。

 戦い方とはその人の人物像を照らし出す。

 それはどんな戦法を取ろうと人間の指紋の様な特徴がある。

 アリシアは一度戦った敵の”戦紋”を忘れない。

 それを身分証明のように把握しているのだ。

 神の力の有無は関係無い。

 これは単にアリシアの戦士としての勘がそう告げているのだ。


 アリシアは通常のAPの瞬間速度の30倍の速度で弾幕を避ける。

 弾幕の層が薄い下に逃れようと一気に加速を駆けた。

 その加速は最早、目では追い切れない域に達していた。


 敵からすれば、まるで瞬間移動にも等しい速度で弾幕から消える。

 弾幕さえ消えれば、自分は容易に敵に近づき、概念照準器でロックオンすれば決着が着く。

 アリシアは一気にADの下に入り込み、そこから急加速で一気に接近を試みた。

 だが、試みた瞬間、敵の銃口が此方に向いている事に気付く。

 アリシアは直感的に砂漠を滑走しながら、後方に避けた。


 砂漠の砂がアリシアの後を追う様に砂塵を巻き上げ、更にそれを追う様にADの機銃がアリシアに向け放たれた。

 機銃により更に砂塵は舞い上がる。

 機銃は更に高速で動くアリシアに狙いを徐々に定めていく。

 狙いが精確に成っていくのを感じた。

 アリシアは狙いを付けさせない為に変速を掛けながら後退、左右に紙一重で避けながら後退する。

 ある程度、機銃の追撃から距離を離すと再びスラスターを唸らせ、砂塵を舞い上げながら上空に舞った。

 だが、気付けば全然敵に近づけていない事に気付く。




「本当にやってくれる。わたしの戦闘能力は想定した上で準備をしていた様ですね」




 アリシアの顔が微かににやける。

 久しぶりに骨のある相手との対峙に自然と心躍る感覚があった。

 彼女の心も燃やす程の敵だと彼女は直感した。

 彼女の敵からは戦いに対する想いと誠意が感じ取れる。

 その熱い想いが彼女の中に眠っていた力を呼び起こす。




「ギギ、ココは……」




 アリシアの中で目覚めた彼にアリシアは声をかける。




「起きたの?オリジン?」


「あ、イリシア……」




 目覚めた彼「オリジン」は半分寝ぼけた声を出す。

 かつて、地獄で死んだアリシアが向かった原初の世界「0次元」に存在した唯一の生命体。

 それがオリジンだ。

 アリシアの記憶等を喰らいアリシアの事や高次元、人間の事を知った彼は怒りと言う物を学び、その力でアステリスを圧倒した。

 だが、力の反動とアリシアの説得もあり、さっきまで休眠状態にあった。




「今の私はアリシアだよ」


「ギギ?アリシア?」




 オリジンは頭を働かせながら思索する。そして、直ぐに理解した。




「成程、把握した」




 彼の声は切り替わり、人間の様な喋りに始めた。




「それで僕はどうすれば良い?」




 まだまだ、機械的な抑揚の乏しい淡々とした口調が抜けないが、彼が自分の決断を下すのは速かった。

 彼は学んでいた。

 愛と言うモノがどう言った物か……だからこそ、彼は自分の出来る“犠牲”で彼女を助ける事を迷わず決めた。




「確認するけど、あなたはわたしの力を代理で使える?」


「可能だよ」


「なら、やって欲しい事があるの」




 アリシアは言葉に成らない声でオリジンに内容を伝えた。




「成程、理解した。なら、作業に入る。しばらく、不通で」




 そう言ってオリジンとのコンタクトは不通に成った。

 すると、アリシアの右肩の上で寝ているヴァルが目を覚まし、黒い瞳で周囲を見渡す。落ち着かない様子だ。

 頭を世話しなくアリシアの頬に擦り付ける。

 アリシアはヴァルを宥める。




「大丈夫だよヴァル。落ち着かないかも知れないけど、少し我慢してね」




 アリシアはヴァルに微笑みかけた。

 自分がやっている事は杞憂でヴァルに処置をする必要など無いかも知れない。

 その所為でヴァルに不安な思いをさせているのが、どうにも忍びない。

 でも、アリシアの中には言い切れない焦燥感があった。

 戦いはAD戦だけでは終わらない気がした。


 いや、終わらない。


 そう断言出来るからこそアリシアはオリジンに頼んだのだ。

 アリシアは既に別の戦いを見据え、始めていた。

 アリシアは再びスラスターを噴かせた。

 前方に自分の進撃に合わせてシオンのリフレクターが展開された。




「吉火さん。ナイスです」




 アリシアは迫り来る弾幕を避けながら、リフレクターを盾にして近づいていく。




「何!あんな事までできるのか!」




 ウィーダルは驚きを隠せない。

 複数のリフレクターを決められた配置に置く様に据える敵の技術にも驚愕だった。

 だが、それ以上に敵のリフレクターは常にAPの動きに合わせてポイントを移し、APの動きを一切邪魔する事なく的確に配置している事だ。


 ただでさえ、尋常ではない機動を見せるAPに合わせて速やかにリフレクターを展開する敵艦の恐るべき対応処理能力に驚嘆する。

 ウィーダルが同じ事を「やれ」と言われても出来る気がしない。




「敵、徐々に侵攻してきます」


「敵は我々を優先的に狙っている。バビロンRを無視しての接近。何をするか知らんが、我々に接近する事で目的を果たせるのかも知れない。だとすれば、あの先頭に2機どちらかを近づけるのは不味いな。アリシア アイを仕留めるのは実現性が無い。となれば……」




 ウィーダルはすぐさま決断した。




「各機!あのオレンジ色を狙え!最優先で撃墜するんだ!」




 ウィーダルはフィオナを優先して撃墜する事を指示した。

 アリシア アイは完全に化け物だ。

 撃墜するのはほぼ不可能だろう。

 だが、僚機はそうでは無い。

 並みのパイロットよりは腕は立つが、動きにぎごちなさとアリシアの侵攻と相対的に比べると遅い。

 恐らく、よく訓練された新兵と考えられる。つまりは弱い。


 ならば、撃墜し易い方から叩くのが戦の定石だ。

 更に加えるなら、ウィーダルが出会ったアリシア アイは強さの裏返しとしての慈愛が非常に深い。

 敵の為に涙を流す様な女だ。

 あのタイプは一騎当千であると同時に仲間を見捨てない。

 そうなれば、オレンジ色を守る為に後退する可能性もある。


 彼女は軍人として任務を遂行する事よりも何か別のモノを常に見据えて動いているような気がした。

 それが何かは分からない。

 だが、それが”慈愛を施す必要があるモノ”と言う事は理解出来る。

 必ず何かを守ろうとする彼女がいる事をウィーダルは見抜いていた。

 ウィーダルはそこまで計算した上でオレンジ色の機体ネクシル ゼデクを攻める。


 ADからの弾幕は変わる事なくアリシアに迫る。

 だが、ADから出撃した戦闘機形態のAPが隊列を組みながら、フィオナに襲い掛かる。

 ネクシル以外のAPは人型では長時間飛行できない。

 人型で飛べるネクシルは空中戦での3次元的な柔軟な運動が出来る。


 だが、その分機動性は落ちてしまう。

 今回の様な敵の弾幕が濃い状況ならネクシルの3次元的な運動性は有効だ。

 だが、そこに戦闘機を持って来られると話は変わる。

 3次元運動が出来るとしても圧倒的な弾幕の中では運動が制限される。

 その中に機動力の高い戦闘機が攻撃してくると運動性を活かせる領域”運動領域“が狭まる。

 普段なら運動性を活かせば、戦闘機形態のAPを撃墜する事は造作も無い。

 だが、運動領域はADの砲撃で制約を掛けられた中で戦闘機が機動性を活かして空を支配すれば、此方は徐々に袋小路に成る。

 敵は馬鹿では無い。

 ADの銃口は識別信号で友軍のAPには当たらないから敵はADの弾幕で機動性を十分に発揮出来ないと言う事はない。




「くそ!なんでこいつらあたしを!」




 フィオナは必死で回避行動を取る。

 敵の弾幕の雨が注ぐ中で適当に回避する事は出来ない。

 適当にやれば流れ弾に当たる。

 アリシアが渡した”聖兵の銀輝具”で”下位攻撃無効”があれば、流れ弾に当たる事は無いが、アリシアからも敵には未知の部分があるからスキルに慢心しないようにと言われている。

 フィオナはセットオブジェクト”乱戦の心得2”の能力も駆使して直感的にかつスキル”情報処理”と”反射神経”を活用して思考的に判断し的確に回避可能な座標に移動する。

 ネクシレイターと成っているフィオナは本能的に力を行使する。

 フィオナ自身は必至だが、敵のAPのパイロットからは驚嘆の声が上がっている。




「嘘だろ……あのオレンジ」


「これだけ撃っているのに当たらないとかアリかよ……」




 彼らは戦闘機形態でゼデクに左右マウントハンガーのLR300アサルトライフルの派生であるLR900アサルトライフルから銃撃を浴びせ、そのまま機動力を活かしながら、過ぎ去り空中で人型になり小回りを効かせて反転、再び戦闘機形態で攻撃する。

 これを四方八方から永遠と繰り返している。

 だが、敵はまるで全ての弾丸を見切っているかの如く回避する。

 フィオナの”気配探知”と”情報処理”により、気配を探知し敵の攻撃順序などを的確に読み情報を処理しているのだ。

 この弾幕の中、間違った動きをすれば、流れ弾に当たるのは自明だ。

 それも拙速を伴う戦闘中に的確に把握し回避するなど人間離れしているように敵には見えた。




「くそ!馬鹿みたいに多い!」




 フィオナはLR900アサルトライフルを右マウントハンガーから抜き、反撃する。

 出来る限り人を殺さない事が部隊の鉄則だが、自衛の為なら致し方ない。

 フィオナは出来る限り、コックピットを狙わずにライフルで反撃する。

 戦闘機と成ったAPの主翼部を重点的に狙う。

 概念照準器が機能すれば、人を殺さずに容易に撃墜出来るのだが、今は重力異常で使えない。

 

 フィオナは通常ロックオンで主翼部に狙いをつける。

 撃ち落としていくフィオナの元に戦闘機形態の編隊が6機で攻めてくる。

 フィオナは先頭の1機目に狙いをつける。

 だが、敵もフィオナに対する対抗策を打つ。


 敵はロックオンアラートを敏感に感じ取り、すぐさま散開、フィオナが追撃の為にライフルでロックオンした1機を追う。

 突如、別の編隊が現れ、フィオナに接近する。

 フィオナはロックオンで散開した敵に照準を向けた事で完全に新たな編隊とは別の方向に銃口が向いていた。




「しまっ……」




 言い切る前に敵からの砲撃があった。

 フィオナは咄嗟に回避を取る。だが、回避が甘い。

 フィオナは右で構えていたLR900アサルトライフルと共に右腕を破損する。

 右腕で火花が散る。

 コンディションをチェックするがもう右腕は使えない様だ。

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