フィオナの苦悩

「喰らった!」




 致命的とは言えないがまだ、新兵同然のフィオナの中には確かな焦りがある。

 実戦での初めての被弾はフィオナの恐怖心を駆り立てる。

 肉体的な死を超越したとは言え、やはり怖い。

 被弾した事で自然と焦りが出る。

 心臓の鼓動が速まり、思考が先ほどの様には働かない。

 辛うじて避けているが、さっきよりもぎこちない。

 だが、無視出来るレベルだが、フィオナから微かな被弾が目立ち始める。




「フィオナ!」




 アリシアは咄嗟に後退しようとした。そこにリテラとシンから通信が入る。




「ネクシル1!あなたはそのまま行って!」


「ネクシル3はオレ達でなんとかする!」




 2人は断言して確信して宣言した。

 ここで彼らを信じられないようでは彼らの仲間とは言えない。

 アリシアは1人で戦争をしているわけでは無い。

 なら、頼れる時に頼る。そう決めたのだ。

 だから、アリシアは2つ返事で答えた。




「……わかった、任せます」




 アリシアはそのまま進撃を続けた。

 アリシアには分かる。

 彼らが何の根拠も無く断言しない事を必ずフィオナ助ける打開策があると……アリシアは1人で戦争しているわけではないのだ。

 仲間が信じられず、神など名乗れはしないだろう。

 

 いつもそうだ。


 バビでの作戦も天使達の力を借りた。

 戦争で傷ついた人達も自分を信じてくれるからこそ、治せたことだ。

 あの皮膚病の女の子を治したのも自分を信じて支えた人がいるからだ。

 地獄での戦いも決して1人では無かった。アリシアは常に支えられている。

 だから、自分を信じてくれる誰かに尽くせる。


 自分も彼らを信じられる。

 シンとリテラを信じ、それでフィオナがちゃんと生き残れる事を信じられる。

 神は存在する。


 だが、自分を神にしてくれる人がいなければ、神と言う地位に意味は無い。

 アリシアは信じた。

 振り返る事なくそのまま敵に進撃していく。




「シオン。リフレクターを射線上に展開して!反射させる!」




 リテラは常人なら何を言っているか分からない様な簡潔な言葉で意志を伝える。

 それを聞いたギザスは首を傾げた。


 何がしたいのか分からない


 恐らく、隠語を使わなかった辺り、何かのアドリブと思われるが、明確に何がしたいのか分からない。

 だが、吉火は2つ返事で答えた。




「了解した。リフレクター展開!」




 吉火は天使達に指示を出しリフレクターを展開した。

 リテラは銃口を敵軍がいない方向に向けた。

 そこには1枚の傾いたリフレクターがあった。




「貫通弾セット!ファイヤ!」




 リテラは”連射手1”と言うオブジェクトをセットして手持ちのG36Mk10アサルトライフルで貫通弾を連射した。

 飛んでいく貫通弾はリフレクターに目掛けて飛翔する。

 敵はその様子を見て「何処を狙っている!」と半ば馬鹿にした様な眼差しで見つめる。

 だが、その事実は直ぐに分かる。

 リフレクターに当たった弾丸はリフレクターにより反射され、傾きに合わせて有らぬ方向に飛んでいく。

 その弾丸はフィオナを追い詰めて空中で人型に変形して旋回しようとした敵に直撃した。

 貫通弾がAPの肢体を抉りながら、貫いていく。

 スキル”射撃術””射技”を併用し”動体捕捉”で全ての弾丸の動きを把握し”反射神経”によって僅かな時間に細かく銃を操作して弾道の微妙に調整する事でまるで弾丸が追尾するような軌道を見せて敵に直撃する。


 敵のAPの編隊は撃墜される。

 更に弾丸は貫通、後方の新たなリフレクターに直撃する。

 更に反射された弾丸はフィオナに向かっていたAPの編隊に直撃した。

 斜め上からの変則的な攻撃に対処出来ずAP隊は撃墜される。

 敵のAP隊の連携に隙が生まれた。




「ネクシル3!今のうちに!」


「わ、分かった」



 フィオナは戦闘機形態で一気に距離を取る。

 そして、戦艦シオンまで後退すると人型に変形して旋回行動を取り、人型になった。




「ごめん。ありがとう」


「何故、最初に謝る」


「だって、作戦の目的を果たせないまま後退するなんて……」




 フィオナは少し落ち込んでいた。

 アリシアのように任務を完遂出来ない自分の弱さを歯痒く思っているのだ。

 悔しがっているとも言える。

 良くも悪くもフィオナもリテラもアリシアに対抗意識を抱いている。

 それが彼女達を強くしたのは事実だ。

 だから、アリシアと比べがちだが、彼女は決して悪くはない。




「最初から上手くいけば苦労は無い。新兵に多くは求めていないさ。それにお前は別の目的は果たした」


「別の目的?」




 フィオナはシンの言っている事の意味が分からず、首を傾げた。




「それが果たせただけ大きな意味がある。見ろ。お前が引きつけたAPが一定空域に集まっている」




 レーダーを確認すると敵のAPが一定空域を集まっている事が分かる。

 それはフィオナに全AP戦力を向けた結果であり、フィオナは上手く囮になれたのだ。




「あ……」


「あとは一掃すればAPは全滅だ」




 シンは指揮官能力を有した”軍隊指揮射撃術1”と言うオブジェクトをセット、軍隊指揮がいつでもできる状態にしておき、射撃術による火力支援が行えるようにしてから持っていたライフルをマウントハンガーに格納した。

 すると、ハンガーのライフルが消え、量子回路にセットした”神時空術”の”空間収納”と言う技を応用した異次元格納庫から代わりに大型のガトリングガンがマウントハンガーから出現、シンはそれを装備した。




「吉火。もう一度頼む!」


「了解した」




 すると、再び敵APのいる空間を囲む様に無数のリフレクターが展開された。




「これで王手だ!」




 シンはガトリングガンのトリガーを引き、ガトリングガンの銃口が火を噴く。

 放たれた無数の重い弾丸がリフレクター目掛け駆け抜ける。

 弾丸はリフレクターに直撃した。

 それは跳ね返り跳ね返り、更に跳ね返り敵のAP部隊の四方から穿つ。


 通常の弾道軌道では無い無数の弾丸の襲来に戸惑う敵のAP隊は形骸化していく。

 ロックオン無しで四方から撃たれるこの戦術に対処出来る人間はいない。

 四方にあるリフレクターが反射に反射に反射を繰り返す。


 取り囲んだリフレクターは敵が殲滅されるまで永遠と反射し続ける。

 気づけば、半壊したAPが地面に落ちていく。

 コックピットブロックだけを残し砂漠に没していく。

 シンはガトリングガンを人間には分からないレベルで常に僅かにコントロールしてコックピットへの直撃を避けていた。

 そして、ガトリングガンの唸りが止まる。




「殲滅完了だ」




 無数のコックピットが地面に落ちている。

 辺りからは戦意停止信号が木霊する。

 条約上、戦意停止信号が出た以上敵に交戦の意志は無い。


 その場合、受理しなければならない。

 尤も、建前だけのルールで守る軍人は皆無だが、GG隊は建前では済まさない。

 人の決めたルールではあるが条約である以上厳守する。




「戦闘終了後に回収する。彼らには手を出すな。それまで彼らの周囲にリフレクターを展開せよ」




 吉火は彼らをリフレクターで包んだ。

 彼らを拘束する意味もあるが、彼らの保護を含めての対処だ。

 リフレクターに囲まれた敵兵は興味深々にリフレクターに手を当て叩いている。

 リフレクターの作用により手で叩いただけの力が彼らに跳ね返る。


 彼らの手で弾かれる様な感覚が襲う。

 彼らはそれに「おお!」と驚いた様子を見せる。

 遠くでは遠隔モニターでリフレクターに触れない様に促す吉火が見える。




「ネクシル3」


「ん?」




 シンはフィオナに声をかけた。

 何に悩んでいるか何となくわかるからだ。

 怪我の巧妙で上手くいっただけで実力でも何でもない。そして、目的を果たせた訳ではない事を悩んでいるようだ。

 だが、今それをいちいち説明するつもりはない。

 だから、端的に答える。




「良くやった」


「えぇ?」


「お前のやった事は無駄じゃない。目的は果たせなかったかも知れないが役に立ってない訳がない。お前は良くやったよ」




 フィオナの悩みは消えないが、この場を乗り越えるだけの言葉は貰えた。

 作戦目的を果たせなかった自分は無能では無いかと思い詰めたが、その必要が無いとシンの言葉で悟れた。

 フィオナはただ「うん」と素直に答えた。

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