存在殲滅計画

「また、オルタの利用者は敵性コードロアであると判明しました」




 ダビは更に頭を抱える。気が滅入りそうな話に頭痛薬が欲しくなる。




「これはまた、最悪の組み合わせですね。英雄ロア。人理を重んじ人の可能性や人の温もりと言う幻想に縋った悪魔ですか」




 ロア ムーイと定義される存在。

 それは「人の心の光」を言い訳に世界を荒らし回った悪魔の名前だ。

 人間とは、3次元の囚人だ。

 本来なら地上とは永遠に続くことのない仮住まいと同じなのだ。

 いつか、人は地上で行われた罪、故に全滅する事が定められた秩序だった。


 ただ、それから逃れる術は神は示していた。

 過越を受ける事がベストではあるが、本質的には悔い改める事だ。

 過越を受けた上で悔い改めた方が尚良いが、神が2020年まで刑罰を執行しないようにしたのは人類に悔い改める機会と時間を与える為だった。

 そうすれば、高次元生命体へ昇華し”時”すら支配する存在になれただろう。


 だが、それもロア ムーイと言う存在一つで台無しだ。

 人理至上主義を掲げ、「人の心の光」と言うありもしない幻想を誇張し”奇跡”のようなモノを見せて民衆を先導し”奇跡”の力を人間の可能性と誇示した事で人間の中から”奇跡”を信じる者と”奇跡”を恐れる者が生まれ、新たな争いを生み人々はその”奇跡”に縋り付き、欺き、惑わされ”奇跡”と言う力ばかりに執着し、人間の力と言うモノに自惚れた事で悔い改める機会を奪われた。


 自分の対となる存在から「人間のエゴで世界がもたなくなる」と悟らされても「オレはお前ほど人類に絶望してはいない」と自分の意見と正義を押し付ける。

 相手の立場や気持ちを考えようとしない極めて”愛”の無い極めて不愉快な男だ。


 いくら悟しても相手の立場を考えず、自分の意見を押し付けたがる完全な独善主義者、それがロア ムーイと定義される存在だ。

「人の心の光」と言う暖かな気持ちがあるならそもそも、戦争など起きないだろう。

 人類が危機的な状況により争いに嫌気が指し、その場だけそのように振る舞っただけでそもそも「人の心の光」等と言うモノは無い。


 そして、ロアはそれを証もしなかった。

 証と言う行いが伴わねば義とはされない。

 彼のやり口は詐欺師と同じであり、そのような男は天の国では悪評が付けられている。

 この2つの重要なファクターを前にダビは机の上の拳をギュッと握り絞め、決断を下す決意を固める。




「この2人が地獄に干渉したと言う事はそれは人類の総意と言う事だと思うんだが、どうだろうか?」




 ダビは他の大天使に意見を求めた。大天使の1人が現状を要約し始めた。




「英雄や社会的な地位が高い者が判断した事は人類の総意と言っていいでしょう。ユウキは量子力学界でトップの座を持ち政界とも繋がりもある。ユウキ因子のオリジナルも世界の命運を左右する立場にいた事を考えると彼女の行動が人類の意思決定を司ると見て良いでしょう。ロアもあの”存在”の配下です。これは明確に敵意と受け取るべきでしょう」




 それに皆が首肯する。




「では、彼等の宣戦布告と受け取れると言う事ですね」




 ダビは真剣な表情で力を込め頷いた。すると、ある大天使が口を開いた。




「待って下さい。ダビ。地球にはまだ、救える魂がいるはずです。彼等を見捨てるのは如何なものか考えます」




 その言葉に皆が項垂れる。

 人間に反抗の意志がある以上、自分達もそれに対抗しなければならない。

 しかし、あの地球には自分達と同じ心を持った者達がいる。

 まだ、救えていないが救える魂は時代を跨ぎ、因果を受け取り世界が続く限り受け継がれる。


 2020年で救われるはずだった魂の因果も現代まで受け継がれているのだ。

 それを蔑ろにする事は彼等でも憚る。

 何より神がそれを許さなかった。


 自分が傷つこうと救える魂には手を出さないようにそして、災いが及ばない様にしていた。

 全ては自分が引き起こした神の大罪の自責に駆られている為だ。

 彼等は悩んだ。

 会議場のあちこちで各々の意見を言い合い交換していく。

 ダビはそれを見て皆に静粛する様に促す。




「これでは埒が開きません。ここは1つ彼の意見を聴いて判断しませんか?」




 すると、会議場にいた者達の目が一点に注がれた。

 その男は黙して腕を組みんでいた。

 寝ている様に見えるが、実は全ての人間の意見を聴いている。

 この集団の中で知恵の名を欲しいままにした男”ソロ”。

 かつて、ソロモンと呼ばれた裁判や最終判断を仰ぐべき知恵を備えたソロモンの知恵として知られる男「判決者」の異名を持つダビの息子だった男だ。




「ソロ。君の意見を聴きたい」




 ダビは息子だった男に謙り、意見を求めた。

 ソロは静かに目を開いた。

 紅く鋭い眼差しには何処から妖麗さも漂わせる。

 だが、何かを決める決断的な真っ直ぐした意志が感じられる瞳だ。

 ソロは静かに口を開いた。




「結論を述べよう。攻勢に出るべきだ」




 その言葉に周囲がどよめく。

 だが、ダビが右手を上げると一瞬で静かになった。

 ダビは改まって「理由を聴いて良いかな?」と尋ねた。

 ソロはダビを真っ直ぐと見つめる。




「正確には人類選別後に地球に攻撃を仕掛ける」


「その選別法は?」


「簡単な話だ。イリシア神にこれから積極的に福音を宣べ伝えて貰う。自らの事を証した上で福音を宣布するのだ。やり方は神が決めるにしてもやり方なら幾らでもある。例えば、過去にアステリス様が建てた教会の住所に人を集める様に促す。我々はその数を把握し教会に来た者には無条件で過越を施す。神を畏れ真剣に生きる事を望む者は必ずそこに現れる。そうすれば、救える民は我々やサタンの害を受けない。我々はそのまま地球人を抹消出来る」




 そう彼等は神の大罪の直後から長い時間「存在殲滅計画」を建てていた。

 それはサタンの「存在」が存在する「存在地球」並びにサタンに加担する地球人を殲滅する計画だ。

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