天の国の会議
天の国
天の国では慌ただしい事態が起きていた。
無限に広がる花園の大地に無機質な石で出来た大きな塔があった。
それは人間の言葉で言えば、神殿と言う名の近未来ビル。
そのビルの元には天使達の街が存在する。
商店や娯楽施設が並んでいる。
それらはビルを取り囲む木々の上に実を付ける様に建っていた。
一軒一軒に道と言う道は存在しない。
天使達は翼を羽ばたかせ店を行き来する。
そこでの取引は減る事の無い魂の貨幣タラントンとよって成り立った社会。
魂の大きさ、質、性質が貨幣の様に扱われる。
何かを購入するにはそれに相応しいだけのタラントンが求められる。
それは売り買いしても決して減らない。
幾ら使っても減らないクレジットカードの様な貨幣だ。
そして、天使達は売り買いを行う度に魂の大きさと質と性質が成長していく。
それが彼らにとって尊い価値であり大きく、質が良く、気高い偉大な魂を天使は神と定義した。
だが、繁栄を誇った天使達の街は今静けさが渦巻いている。
今、天の世界は災厄の時代を迎えていた。
主な天使達は避難所である神殿に籠り災いから逃れようとする。
そして、今天の世界にいる天使達を代表する4000人の天使「大天使」が会議を開いていた。
「諸君、集まって貰ったのは他でもない。この世界に危機が迫っている」
大天使を統括する大天使長ダビが口を開く。
ちなみにこのダビはかつて3次元世界の地球でイスラエルの王ダビデとして君臨していた人物その人だ。
此処にいる大天使全員が元は地球や他の惑星にいた人間達だ。
神の大罪時にも神に対する信仰を失わなかった者達が3次元での苦難や迫害により魂が昇華し大天使と成ったのだ。
「まずは報告を聴きたい。アステリス様の容態は?」
「ここ最近、宜しくありません。サンディスタールからの攻勢の所為でかなり疲労しております。お姿を確認したのが3人の聖徒と模擬戦を行ったのが最後、それが先日です。彼らが地球に旅立ってから体調が急変した様です」
「サタンめ。新たな神を脅威と思い此方を一気に潰す気でいるな」
続けて別の天使が報告を上げた。
「また、地球で空間の歪みを観測しました」
「空間の歪み?それはどの程度のものだ?」
「バビなる都市周辺で地獄の門が開きかけた程です」
「何だって!それは確かですか?!」
彼等にとって地獄とはある種の刑罰執行場の様な空間。
そこに介入する事は獄中の殺人鬼を外に放つのと同義だ。
それが3次元でどれだけの犯罪に相当するのかは言うまでもない。
「はい、ですが空間の歪みは近くにいたイリシア様が鎮めました」
「流石、地獄を知り尽くし神ですね。対応が速くて助かる」
ダビは彼女の働きに感心していた。
上位の神とは言え、ダビも他の天使もアステリスやアスタルホンに作れらた存在であり、親と子の関係だ。
ダビにしてみれば、アリシアとは出来の良すぎる妹のような者なのだ。
その存在が頼もしく思え、その活躍に瞠目する反面、まだ若い妹が危険な仕事をしているのが不安でならないのもまた、事実だ。
「そして、先程の情報によるとサタンが現れイリシア様に呪いを施した様です」
「呪いですか。治療の方はどうなっている?」
「天使を派遣し治療させていますが、呪いがかなり深く生きているのが不思議な状態だそうです」
「彼女のタフさに感謝しないとならないな。我々なら即死なのだろう。引き続き治療に当たらせるんだ。必要なら人員を増やしてでも治療するんだ。アステリス様も大事だが彼女とて蔑ろには出来ない。我々はアステリス様と言う盾の中で時を待つしかなかった。だが、今は盾に比類する剣を手に入れたんだ。双方を失う訳にはいかない」
ダビは一層力を込めて念押しした。
それだけ彼等にとってこの2人の女神は重要な意味も持っているのだ。
神の大罪後、神の絶対性と言われた”権能”はサタンの策略により神の教徒達の利用し「神は絶対ではない」と強く認識させる事で権能は破壊された。
教徒達の力は神により高められ、逆にそれが利用された結果だ。
御業、スキル、神術その類は”認識”により初めて物理的な事象となる。
故に強い認識で神の理、秩序、法を否定すれば、その絶対性も破壊できるのだ。
絶対である故にミスをしてはならないと言う欠点を突かれた事で絶対性に綻びが生まれ、この世から”権能”は失われた。
他の法なら神は幾らでも変更できる力はあるが、権能だけは変更可能だったがやりたくはなかったのだ。
権能を変えると言うのは神は絶対ではない事を証する。
それはつまり、神が悪とした事は悪ではないと言う事になる。
神が絶対でないならその物事を悪と断じる事が理不尽に繋がり、そのように認識されるからだ。
だが、そうなるといかなる悪をしても悪と断じられず、悪魔の不法を容認し悪魔に対して服従する事を意味するのだ。
その基準は絶対基準を司るアカシックレコードの管理天使”アーカリア”により厳密に管理されており、神だろうと悪魔であろうと干渉不可の絶対的な規定であり”アーカリアが”悪”や”失敗した”と定めれば、それが世の絶対となる。
そう言った基準を作らなければ”権能”は意味がなく神の義も完成しないからだ。
故に権能は何かを書き換えると綻びが出来るほど完成されているのだ。
極端な話だが、権能を新たに創り、書き換えるとこのような弊害が生まれる可能性もある。
例えば、神に強盗殺人を行う事が許される絶対性に書き直されれば、それが神の絶対の権能となる。
しかし、神によりその理不尽を裁く事が出来なくなる。
それは悪だとしても裁けない、故に理不尽により戦いが起こる。
書き換えるとそのような事も起き得るのだ。
権能を書き換える事は出来るが、権能を下手に書き換えると世に理不尽を巻き、悪魔に隙を与えてしまい天使達すら傷つける。
だから、アステリス様は権能を破壊される事を甘んじて受けるしかなかった。
その方が書き換えるより被害が少なくて済むからだ。
第4の時代における神と悪魔の戦いは新たな作り出されるであろう権能の主導権をどちらが握るのか争う戦いでもある。
それに勝利せねば、
「また、先ほどの交戦時にも地獄への干渉が確認され、敵性コードユウキが齎したオルタと呼ばれるサタンの力を応用したシステムによるモノと判明しています」
「あの女狐ですか。全く、何処の世界でも碌な結果を産みませんね。これだから自称天才は困る。自分の才能に溺れて見えるものも見えていない。意志と量子的な関係を知っていながら、よくあんな高慢な態度が取れる。その意志が在り方が世界を壊している。聖母気取りの英雄はこれだから本当にタチが悪い」
ダビは各世界のユウキと言う存在に辟易し思わず、愚痴が溢れる。
世界により1人称がわたし、あたしと呼称するくらいの差はあれど、どんな世界でもユウキ ユズ ココと言う定義される存在がやる事はどこも変わらない。
人類の存続を唄い、量子力学と物理現象、因果律などが意志と関係性を持っている事を科学的に知り、それに基づいて世界を荒し回るのだ。
それ故に意志と言うモノに拘りがあり、意志を強く持つ事を近しい友人などに勧める女ではあり、それが人類の存続に繋がると考えている。
だが、その女の本性は高慢であり、普段の言動からそれを窺い知る事が出来た。
高慢な品格はサタンが好み、争いを生み出す為に利用される。
その女は口先では人類の存続と謳っているが、心ではそんな事は微塵も思っていない偽善者だ。
もし、そうなら自分の意思が平和に向かうように高慢と真逆の品格を持とうと強く意志を持つはずだ。
彼女の説く理論と友人への勧め、そうして人類の存続と言う方針と矛盾しているのだ。
相反する想いは両立出来ない。
それ故に世界にはその因果が働き、人類に対して軋轢が働き世を乱す。
そして、その女が救いようがないのは物理学としてその事を知っていながら、知らないと嘯くからだ。
自分が天才であり、自分以上にこの理論を知る者がいないと自惚れ、こちらのメッセンジャーの言葉をあらゆる世界で無視している悪辣でタチの悪い自称天才あり、悪魔にまんまと利用される傀儡にして馬鹿。
更にタチが悪い事に人間レベルでは本当に天才部類なので人間が簡単に騙され易く、社会的に上の立場になりやすい事で総意志になりやすい。
以上の事から天の国から見たユウキ ユズ ココと定義される存在に対しては悪評が多い。
前々から彼女の事は悩みの種でしかない。
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