ロアの再臨

 翌日 西側




 2日前に破壊したレジスタンスの機体情報とアリシアの能力でレジスタンスの主力アジトが分かった。

 普通ならアジトへのデータは徹底的に破壊され、断片情報しか分からず、国家軍を手を焼いていたようだが、アリシアの能力にかかれば例え、妨害されていても断片情報を基に芋づる式にアカシックレコードから情報を抜き出せる。

 ラグナロク組にそう説明すると彼らはアカシックレコードについて、根掘り葉掘り聴いてきた。

 彼らには全知全能と言う名の知識の保管庫にはアクセスできないようだ。

 どんなモノなのか、説明を求められたので簡潔に答える事にした。


 アカシックレコードとは、神力ZWNがSIMP(強い相互作用)状態となり、記憶媒体化して全ての世界の情報伝達の役割を担う神力の干渉を受けて媒体に記録された情報の事と説明した。

 ただ、それを聴いたラグナロク組は何とか理解できたが、クーガーに関しては口をポカーンと開けていたがそれでもなんとか理解していた。

 それで分かり易い例えを出した。

 神力で出来た半導体記録素子に情報が入力されているだけでアリシアはパソコンを閲覧するように読み取っていると説明してようやく、理解してくれた。


 ただ、それでもやはり、妨害はあるので全ての情報を引き出すのは難しい。

 悪魔との関連性が深いほど、情報に高度なセキュリティーがかかるようなイメージだ。

 その例で持ち出すと生前のアリシアを殺す事に加担した悪魔の協力者と思わしきロア・ムーイ関連の情報やルシファー・オルタナティブの情報などはアカシックレコードからは引き出せない。

 現実の情報媒体からは引き出せるが、アカシックレコードからは困難だ。


 試しにやってみたが、予測通りだった。

 今回の情報は干渉が少なかった為、引き出すのは容易だった。

 逆に裏を返せば、少しでも干渉があるのだから背後にサタンがいるのは間違いないだろう。




「各機。敵のアジトは砂漠の地下にある。まずは敵の注意を引く。プラン通り入口が空いたら一気に敵基地を制圧する」


「「「了解」」」




 クーガーを加えた事で小隊戦力となり色々、やり易くなる。小隊は小隊なりの運用があるのでやはり数が揃うと色々出来る。




「わたしとブリュンヒルデが陽動する。グンとゲイルスケグルは後方から援護、ヒルドはクーガーを援護して敵基地の開閉をお願い」


「「「了解」」」




 アリシアとブリュンヒルデで先行する。

 こちらの接近に気づき、敵の防衛兵器が展開され、複数のレーザー砲塔が展開される。

 よほど、基地を発見されたくないのだろう。

 APを一向に出そうとはしない。

 防衛兵器による迎撃に留めている。

 国家軍側で散々、暴れたから戦闘データが流出しているのかも知れない。その上で勝負を挑まない。

 利口な判断ではあるが、すぐに無意味になる。

 アリシアは上空に飛翔、G3SG-1バトルライフルを左手に取り出した。




「ランページ バレット!」




 ライフルの銃口から放たれた神力で作られた無数の炎の矢が大地に激突し爆散する。

 広範囲に巻かれた攻撃が地上のレーザー砲塔を全て焼き払う。

 レーザー砲塔は完全に沈黙した。

 それでも敵は何もして来ない。

 隠れていれば、バレないと思っているのだろう。

 だが、完全に隠れるならうまくやるべきだった。

 レーザー砲塔なんてモノを一度に連射するから遠くからでも熱源反応を探知できる。

 砂漠の灼熱で熱せられて分かり難いが、火星の砂粒の数を数えられる人間の前では何の意味もない。

 殲滅が目的ならそのポイントに”ドラメントバスター”を撃ち込んで終わらせている。


 だが、チャンスだ。

 今の攻撃で敵の出し物はなくなった。

 あとは、クーガーが基地を開閉して殲滅するだけ……と思ったが権能が失われた世界で絶対にうまくいくと言うのはやはり、無いらしい。

 どうやら、悪魔の手先が来たらしい。

 ロックオンアラートの鳴り響きと共に上空にいたアリシアはすぐに下降、飛んで来る弾丸を避けた。




「来たわね。第2特殊任務実行部隊“FF部隊”」




 生前、アリシアを殺した何者かがアリシアを再び、殺しに来た。

 調べて分かったが彼の裏にはジュネーブに関与する何者かがおり、宇喜多・元成の関与が疑われる。

 自分が生きている事を知れば、何かと理由を付けて来るとは思っていた。

 おおよそ、アリシアが悪事をすると言う名目でそれを阻止すると言う名の妨害をしに来たのだろう。

 レーダーに複数の反応があった。

 ルシファー オルタナティブで構成された9個中隊が魚鱗の陣で接近する。

 その最奥部に魚鱗の陣で最底の紅い機体を守るようにグレーカラーのルシファー・オルタナティブが接近する。




「生きていたのか!悪魔、アリシア・アイ」




 ツーベルトことロアの声だ。

 アリシアの殺害に加担して勲章を受けた男だ。

 そして、アリシアの故郷をめちゃくちゃにした悪魔だ。

 地球に戻った後、すぐに彼の事を調べてアストの力を借りて調べて貰ったりしたが、調べれば調べるほど最悪だった。


 無責任で中途半端な体が大きいだけの子供だった。

 人の為に軍人として戦う姿勢を共感できるが、それ以外は醜い。その一言に尽きる。

 悪魔に悪魔と言われても何とも思わないが、こう言う正義に盲目な男は自分の都合の良い事しか聴かない。

 こう言う、アニメのヒーロー気取りの男は本当に面倒だと辟易する。




「随分な挨拶ね。地球圏を混乱させた悪魔さん」


「な!オレが悪魔だと言うのか!」


「事実を言ったまでです。自分の独善を通す為にわたしを殺して地球の抑止力を削った。もし、その間に宇宙神に攻め込まれていたらどうするつもりだったの?」


「その時はオレは地球を守っていたさ」


「あなたにそれが出来たとは思えない。ただの見栄で希望的な観測でモノを語るのはやめてくれる?ハッキリ、言って不愉快です。自分は何も行動しないのに人を批判する。何?ゲームの出て来る正義の味方部隊でも気取っているの?少しの自分の行いを顧みて、悔いるべきじゃないの?」




 今のアリシアの普段の温厚で柔らかいモノ越しではなく、辛辣に相手に強気に出ている。

 それには、ブリュンヒルデでも驚いていたが、決して不思議な事ではない。

 時に高慢とも捉えられる言い方をしないと相手が耳を貸さない事もあるのだ。


 人に「不愉快」と言うのは、かなり失礼かも知れないが、この相手にはそれだけ強めに言わねばならないと判断しての事だ。

 こうでもしなければ、ロアを救う事は出来ないだろう。

 尤も、初めから望む薄ではあるのだが……。




「そんな必要はない!オレは貴様のようなインテリ気取りの過激な事をする奴を止めに来たんだ。オレを罠に嵌めた事や3均衡を脅迫した数々の悪行を止める為にな!」




 ロアを嵌めた記憶など微塵もないが3均衡を脅迫したのは事実だ。それを訂正するつもりはない。




「前者については全く記憶にないわね。だから、後者だけ語るわ。それで確かに人に迷惑はかけたでしょう。それは認めるわ。でも、わたしはその責任を負ってきた。そして、世界はあらゆる形で繋がり必ず誰かに迷惑が及ぶ、それが当たり前。でも、あなたはどうなの?自分の行いが完全な正義だと思って責任から逃げているあなたはどうなの?わたしがいなくても宇宙神と戦えるとか言ったけど、あなたにその責任が取れるの?わたしには虫けらの戯言にしか聞こえないけど」


「人間はお前が思うほど弱くはない!全てを乗り越える強さが人間にはある!」


「責任から逃れようとしたあなたが言えた口じゃないね。そんなモノがあるならとっくの昔に戦争なんて終わっているわ。それは歴史が証明している。あなたはただ、自分の都合の良い希望に縋っているだけ……証明できもしない希望に縋っているだけ」


「貴様は人間を見下している!」


「客観的に見ていると言ってくれない?寧ろ、あなたは現実逃避している」


「オレは嘘など言っていない」


「そう……なら、彼女と戦ってみる事ね」




 アリシアはブリュンヒルデをロアの元に向かわせる。




「彼女は宇宙神の1人、ワルキューレのブリュンヒルデよ」


「何!宇宙神だと!貴様、敵と手を結んだのか!」


「和平交渉って、言ってくれない?宇宙神と争わない為のね」


「貴様の言う事など信用できるか!」


「なら、止めてみたら?あなたに宇宙神を止める力があるなら彼女を止められるか行いで証しなさい」


「良いだろう!貴様に見せてやる!人類の底力を!」




(ブリュンヒルデ、本気でやりなさい。言葉は尽くしたわ。彼らは殺しても構いません)





 アリシアはテレパシーでブリュンヒルデに命令を下した。



(承知した)

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