RN0504
???
シンはエレベーターを降り、広いエントランスホールに出た。
高さはAPが通れるくらいの広さがあり、地下壕は1本道で薄暗く灯すら付いていない。
シンはセンサーや赤外線スキャンなどをかけながら慎重に進んでいく。
「周りの様子はどうだ?」
『特に異変はありません。周辺センサーは既に死んでいます。恐らく、ここは誰の管理下にもないと考えます』
(だとしたら、一応、安全と言う事にはなる。これで監視装置付きの施設だったら不味かったな。 まぁ、オレの逃走先の候補には入れられているかもしれないな。向こうもここに監視装置がないのは知っているだろうからここを重点的に探せば、とりあえず見つけられる)
しばらく、直線を進むと1体のWMが道を塞ぐ。
敵(?)とも思ったが、こちらを手招きして案内している。
機体の挙動、仕草からして乗り手は女かも知れない。
女(?)は無抵抗な事を示しているのか、自ら背中を見せて走り始め、シンはその後を追い右へ左へと移動する。
すると、行き止まりに辿り着く。
女(?)は無邪気さを感じるような手招きをしてシンは誘う。
『その先にもエレベーターがあるようです』
「なるほど、更に地下に降りるのか」
だが、シンに選択の余地はない。
彼女(?)の招きに応じて一歩一歩エレベーターに乗るが、あくまで背中は見せないように彼女の後ろを取る。
彼女はそれに納得しているのか、気にしていないのか、分からないがエレベーターのボタンを押して下降していく。
だが、意外と呆気なく一層分降りた辺りでエレベーターは止まり女(?)は歩き始めた。
そこは恐らく、格納庫でWM用の格納庫に違いない。
だが、妙な事に格納庫は想像よりも大きめでシン達が入るにはあまりに大き過ぎる。
こちらの到着を感知して照明が点灯、女(?)は格納庫のスペースの1つに乗り付ける。
シンも彼女(?)の横につけた。
幸いと言うべきかこの格納庫の整備を荒まし見たが、APとの互換性がある整備器具が揃っている。
あの戦いで多少なり整備が必要なので助かる。
最悪、テリスの能力であるロジカライズシステムを使えば大抵、直せるがやはりこちらが直接手を加えた方が早い上、それなりにエネルギーも消費するので今のような切迫した状態でエネルギー不足になるのは望ましくない。
それに手招きされたとは言え、相手の狙いが分からない。
何が狙いでシンを匿うのか分からない。
それに人間とは理性が外れると何をしでかすのか、まるで分からない生き物だ。
例えば、世界の平和を護っていた守護者的な女を自分の独善で殺すロア ムーイとか言う無知で愚かで醜悪な路肩の糞よりも劣る穢らわしい偽善者のような奇行を働くとも限らない。
あんな「人の心の光」などと言う幻想を信じている盲信的なキ◯ガイと全ての人間を一括りにするつもりはないが、誰もが多かれ少なかれ持っている可能性ではあるので用心に越した事はない。
まずは相手がコックピットから先に出るように促して……と思ったが促す前に隣のコックピットブロックのハッチが開いた。
『促すまでもありませんでしたね』
「こちらとしては嬉しいが不用心が過ぎるな。それとも抵抗意志がない事の証か?」
すると、コックピットの目の前にショートヘアで左緑と右赤のオッドアイを持つ女性が何か得意げに両腕を腰に当てて、堂々と胸を張っていた。
服はダイレクトスーツとは違い厚手な感じがする。
耐圧服と言う印象を受ける全身密着型のパイロットスーツだ。
どうやら、武器を持っている様子もない。体術もそこまで優れているようには見えない。
「出ても問題ないか……」と思い、シンはコックピットから出た。
「ねえ?君?名前は?」
「えぇ?名前か?」
「うん、名前」
(唐突だな……それ答えないとダメか?普通はそちらから名乗るのでは?)
だが、一応助けて貰って名乗らないのは野暮だと思い、こちらから名乗った。
「シンだ」
「シン?」
「そうだ」
「わたしはRN0504だよ」
「……それは名前なのか?」
「うん、そうだよ」
(そんな名前を与える人間などいるのか?いや、待てよ。もしかして、オレと同じようにこいつどこかの実験所でモルモットに?)
「シンはどこの機関から来たの?」
「機関は知らないな。その類に所属した事はない」
「……そっか、じゃああなたは人間なんだね……」
(何故か暗い顔をされた。えぇ?ちょっと待て、オレは何か気分を害する事を言ったか?不味いな、せっかく助けて貰ったのにそれは流石に……うまく誤魔化すか?そうだ!)
「人間かどうか分からない。ここ1ヶ月くらいの記憶しかないんだ」
「えぇ?」
「気づいたらこの機体テリスと共にいた。それから世界を放浪としたんだ。そうだろう。テリス?」
『はい、彼は自分の名前以外の記憶、特にこの世界に対する知識に欠落が見られます』
(流石、相棒。こちらの意図を読んだ良い対応だ。こう言っておけば不快な想いをさせずにこの世界の事を自然と引き出せる)
「えぇ!凄い、その機体!喋れるの!」
『喋れますとも。テリスです。どうかお見知りおきよ。わたしはどんな質問にも答えられるスーパーAIです!』
(なんかノリノリだな。お前……)
「ほんと?ならさ……わたしはなんのために生きてるの?」
(また、一瞬暗くなった。テリスの発言に問題があったとは思えないが……もしかして、彼女の悩みなのだろうか?)
『その答えは簡単です。人とは元来、罪を抱える者なのです』
「罪?」
『えぇ、それは多かれ少なかれどんな人間にもある者です。ですから自分が罪人である事を自覚して謙り悔い改める事こそ人間が生きる意味です』
(結構、ストレートに言ったぞ、こいつ。初対面にそれを言ったら怒られると思うんだが……)
「わたしはどんな罪があるのかな?頭が悪い罪、人間よりも劣る罪、劣性遺伝子を持った罪?それが罪なの?」
『それは罪とは言いませんね。それは単なる身体の都合です。そうですね。あなたはお酒を飲んでいますか?』
「少しだけ」
『では、禁酒する事です。それから何が自分の罪なのか祈ってみる事です。祈りとは元来、無から有を作るとされる儀式です。あなたの分からない答えも教えてくれるでしょう』
それからRN0504は「うん、わかった」と素直に応じた。
確かに頭は悪そうに見えるが、シンはそう言う「馬鹿」は嫌いではない。
素直で従順に従えると言うのは秩序を守る上で必要なスキルだ。
いくら、社会マナーが守れたとしても社内秩序を乱すならそいつは愚か者だ。
社会人としてのマナーを守れること=大人ではないのだ。
よく法律で成人した奴が大人だと誤解するが、それは社会的な責任が伴うだけに真に大人になるには一生懸けて研鑽を積まねばならない。
積まないならそいつは体だけが大きく心だけが幼い醜悪な人間になってしまう。俗に言えば、心の成長をやめた者はいずれ、老害になるのだ。
大人とは、責任が取れる者の事だ。
自分の言動1つ取っても責任が取れるのが大人だ。
気軽に口を開いて不平不満やパワハラをするようでは体がデカイだけのガキだ。
そのように見られる事も罪なのだ。
本来は口を自制してリスクを避けるのが幸いだ。
その点、彼女は口が自制出来ているか懐疑だが、悪い言葉は発していない。
自分の罪について考える辺り見込みはある。
少なくとも、育てれば良い大人になる素養はあるとテリスは考えている。
それからRN0504と名乗る女性からこの世界についての話を聴いた。
どうもこの世界の地球では何百年か前に大きな戦いがあり、世界を破滅させるほどの災厄だったらしい。
その戦争を終戦に導いたのは”3賢者”と呼ばれる者達であり、この街の統治するロア ムーイもその1人らしい。
”3賢者”は「人の心の光」と言う……強いては人がいつか全てを支配する真の霊長となる為には人類が一丸となり、強い意志を持った個体に進化する必要があると提唱した。
その過程でそれを受け入れられない旧人類と戦争に発展したが、”3賢者”の持つ奇跡の力により旧人類側は敗北したそうだ。
生き残った人々は彼らを神と崇め、進化に至ろうとしているらしい。
それから数百年。人類を進化させる為に様々な手が模索され、遺伝子改造による優良種の作成とそれを支える”セレクション計画”を発足した。
優良遺伝子を持つ者を人工的に作り出し、社会を管理させ、エリート教育を施し、優良種の育成を行い、逆に劣性遺伝子を持つ者達を管理社会の元である種の奴隷のような生活を敷いているようだ。
劣性遺伝種は優良遺伝種から差別的な対応を受けており、優良遺伝種は自分達こそが”人間”であると呼称して、劣性遺伝種を”アヒ”と呼称している。
アヒは平均的な人間よりも劣るように作られており、知能指数は80前後、平均寿命も短めに設定され、用途に応じて多少の個体差調整が”機関”と言うところで行われ、親と言う者と過ごした事はなく”機関”と言うシステムの中で無機質に育てられるらしい。
その中でWMを操縦する兵士として調整されたR型14回目(アルファベット14番目、N)の更新を受けた0504番目の個体が目の前の彼女と言う事で名前は特に無いようだ。
0504番などと呼ばれるのが常らしい。
ちなみにR型とは右利きの個体と言う意味の安直な意味と説明を受けた。
ここまでの話を聴いて疑問だったのが、数百年前の人間であるロアを含めて”3賢者”が生きている事だ。
なんでか理由を聴いてみるとどうやら、資金力を持った優良種はIPS細胞を利用した臓器培養技術で定期的に新たな臓器を移植する事で延命しているらしい。
これらの話の結論をまとめるとこの世界のロアは恐らく、シンが知るロアと同一人物か、その関係者であり、並行世界に存在する英雄ロアの魂を受け継いだ何者かであり、シンが知っているロアよりもこの世界のロアの方が遥かに歪んでいる。
シンが知る彼は偽善者ではあったが、人の意志を尊ぶ男だった。
だが、ここのロアは遺伝子の優位性と言う訳の分からない理由で全てを決めている。
しかも、差別意志さえ植え付けている有様だ。
立場は人を変えると言うが恐らく、この世界はロアが為政者になった世界の可能性か何かだろう。
シンの知るツーベルトはいつか組織の内部改革がしたいと言っていた事がある。
この世界は力と権力を獲得して高慢になり過ぎたロアの成れの果ての世界。
あの男は理想を口にするだけで行いが伴わない雑魚だ。
そんな奴が力や権力と言う兵器を使い熟せるわけがない。
レベル1の勇者がレベル99の勇者が装備するエクスカリバーを使い熟せるわけがないのだ。
強力な力を制御できないままに全てを破壊するだろう。
ツーベルト……強いてはロアと言う男はそう言う男だ。
この世界はそんな無責任なガキが貫き通した愚かな世界だ。
いかなる奇跡を見せようとロア ムーイと言う男が見せる未来などこの程度が限界なのだ。
(どんな世界でもあの男は迷惑さは変わらないな。もし、この身で裁く力があるならありとあらゆる世界からロアの存在を消し去ってやりたいな)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます