悪意なき想い
辺りに銃声が鳴り響く。
そこには傀儡とされた子供達が乗り込んだAPが蒼いAPに銃口を向けていた。
1個連隊規模の弾幕が騒音を奏で1機のAPに注がれる。
「クッ!」
アリシアは必死に避けていた。
前回の特攻後簡易ながら調べた所、「機体と機体が接触する」「機体と機体が一定範囲内に入る」「遠隔操作者の起爆信号受信」どれか1つでも該当すると機体は自爆する様に成っている。
アリシアは接近する敵機から全力で距離を取り、接触も一定範囲の近接もせず爆破の効果範囲外に直ぐに退散する。
この戦法を取るしか無かった。
しかも、動きの良い連携をしてくる。
離れるアリシアを足止めする様に遠距離からの砲撃も入れてくる。
何度も危うい場面を演じそうに成る程だ。
「シン!まだなの!」
「もうすぐ割り出す!」
シンにも特攻機が迫っていたがアリシアに比べれば、かなり攻勢は薄い。
その間にシンは遠隔操作者の場所を割り出していた。
これだけの数を高度に連携させるには、必ず近くに指揮官が居なければならない。
それを逆探知している。
それさえ消せば、3つの条件の内最大の問題の1つが消える。
勝利を焦った指揮官がいつ起爆スイッチを押すか分からないからだ。
あくまで起爆スイッチを押さないのは効果範囲外に出て、最大効果が薄いからだ。
機械の判断なら、まず押さないが相手が人間ならその限りではない。
勝利と利益に焦りボタンを押す可能性がある。
どの道、猶予は無い。
アリシアの回避にもいつか限界が来る。
仮に限界が来なくても指揮官がボタンを気まぐれで押すかも知れない。
今はシンを頼るしかない。
「見つけた!今から討つ!」
シンは見つけた。
その敵は特攻機の後方に隠れ、特攻機の中に混じっていた。
「自分だけゆっくりしていられるのもこれまでだ!」
シンはスピアを展開した。
敵の攻勢を掻い潜りスピアが指揮官機に迫る。
特攻機のワイバーンはスピアを迎撃しようとするが、スピアはまるで1つ1つが意志を持っているかの様な挙動で銃口から避けていく。
スピアはただ一点を目指し飛んでいく。
「貰った!」
そう確信した。
だが、その時スピアが撃墜された。
敵を目前に圧倒的な弾幕の前に全て吹き飛ばされたのだ。
「クソ!新手か!」
そこには2機のAPが此方に向かっていた。
1機はワイバーンMkⅡを砲戦特化させた仕様の機体。
そして、もう1機……それを見てアリシア驚嘆した。
「何であの機体が……」
「アレを知っているのか?」
「あの機体は!私の!」
その機体は紅く塗られたガンメタリックレッドで全面には重圧な4枚羽の装甲を展開したかつてアリシアの故郷を破壊した”悪魔”だ。
「アイツに!エド、エル、エイミーは!皆は!」
アリシアの声が途端に怒りで震えていた。
シンはアリシアの言動からおおよそ把握した。
「理解した。アイツらは殺人鬼という事だな」
シンは相手が明確な敵と判断し殲滅にかかる。
アリシアの声から大体はわかる。
あの紅い機体はアリシアの家族か何かを皆殺しにでもした碌でなしに違いない。
アリシアが怒るとしたらそのくらいの理由しか浮かばない。
そんな奴が目の前にいて邪魔をするなら、シンでなくても消す。
ニジェール支部の援軍として来たワイバーンに乗る女性は病み上がりの分隊長を気遣う。
「ツーベルト大丈夫か?」
「気にし過ぎだ。リリー。俺は大丈夫だ」
「そうか」
「アレがコードブルー。友軍が襲われていると報告があったけど、まさかこんな形で出会うなんて。残念だ。平和を愛する人間だと思ったのに私欲の為に友軍を攻撃するなんて!」
という風に宇喜多から報告を受けていた。
極東基地が権力拡大の為にコードブルーを独自に動かしている。
それによりペイント社ニジェール支部が被害を受けている。
それが治安に響く為、ニジェール支部の部隊援護をして欲しい。
と言うのが彼らガイアフォースが受けた依頼だ。
その際、コードブルーは殺しても良い、出来れば機体は破壊するなと言う打診付きだ。
現在、アフリカ基地は壊滅に伴い再編成を迫られている。
その間のアフリカ圏の治安維持は派遣部隊と最寄基地の1つである中東基地が指揮権を代行している。
彼等は中東基地司令の依頼でニジェール支部のサポートに現れたのだ。
付け加えるなら最新の特攻兵器がニジェール支部に配備されているから爆発には巻き込まれるなと注意された。
紅い機体はその重圧な羽に格納されたマシンガンをシンに向け発砲する。
「クソ。近づけない!」
シンは一か八か敵に停戦信号を入れた。
「停戦信号だと?」
「罠かもしれない。俺は手を止められない。代わりに出てくれ。一応、ルールだからな」
条約では敵が停戦を申し出た場合、応答しなければならない。
それが余計な戦闘回避に繋がる事もあるからだ。
リリーは通信に出た。
「おい!お前達は正規軍だろう!一体何のつもりだ!」
突然の応答にリリーはたじろぐ。
敵であるコードブルー(?)の切迫した口調が刺さる。
まるで殺意する向けていると思えるほどの気迫に迫る雰囲気だった。
だが、リリーは冷静に対応した。
「そちらの停戦の理由を聞きたい。答えろ!」
「逆に聞く!何故、俺達と交戦する!」
「貴様らが治安悪化の元凶だからだ」
「答えに成っていないな!その為なら100人見殺しにする気か!」
「どう言う意味だ?」
「あのワイバーンには子供の兵士が乗っている!それを自爆させる気かと聴いているんだ!」
リリーはその言葉に一瞬戸惑った。
だが、すぐにそれは敵の罠であり、巧妙に騙そうとしていると判断した。
理由は「そんな事実はなく聞いていない」からだ。
依頼内容にそんな事は記載されていない。
あり得ないと言う慣習が彼女の判断を鈍らせた。
一重にそれがこの女、リリーの罪だった。
「その様な報告はない。その様な事実は存在しない」
「あくまで邪魔をすると言うのか!」
「我々の任務は治安を乱すお前達の排除だ。偽の情報である以上停戦する理由は無い」
「そうか……ならば、死ね」
シンはガイアフォースに構わず、敵の指揮官を堕としに掛かる。
シンは指揮官機にライフルで狙いをつける。
だが、紅い機体はそれを邪魔をするように圧倒的な弾幕を展開し妨害する。
「あの弾幕、厄介だな。だが、パターンは読めた」
シンは紅い機体に攻撃対象を変えた。
マズルフラッシュからコンマ数秒の遅れがある。
その隙をついて彼は剣で接近しながら迫った。
かつての吉火と同じ様に……だから、敵は対策を取っているのだ。
「同じ手は喰わない!」
彼は砲撃をやめ、翼を下ろし胸部から何が発射された。
「何!」
シンは意表を突かれそれに捕まった。
「ワイヤーネットか!」
ワイヤーネットは機体に絡みつく様に食い込み身動きが取れない。
シンのネクシル テリスの体に絡みつき、思うように動かない。
このツーベルトと言うパイロットなりに対吉火戦時の失敗を2度と踏まないように対策した結果だった。
シンが吉火と同じ手を使った事が仇となってしまったのだ。
「くそ!」
シンはもがくが中々、外れない。
もがくほどにネットが食い込む。
「これで奴の動きは封じた。まずはコードブルーを叩く!」
紅い機体。
ツーベルトはアリシアに銃口を向けた。
激しい弾幕がアリシアに向かって飛翔する。
その弾幕と特攻機の弾幕が合わさり、ネクシルは徐々に被弾を見せる。
軽微なものだが、足や腕に被弾が見え始めた。
このままでは運動性を削られるのは自明だった。
「あなたはそうやってまた、私から奪うつもりなの!」
届くはずのない言葉で叫ぶ。
自分の兄弟の様に大切にしていた者を奪われた挙句、この敵は更に自分の前から子供の命を奪おうとしている。
それが自覚であれ無自覚であれ許せなかった。
同じ様に奪おうとするその事実だけで憤りを覚える。
そして、ツーベルトはまたしても彼女の目の前で奪いにかかる。
その口を以て特攻機を操る指揮官に命令を下す。
「そこの君!」
「はい、何でしょう!」
「1機でも良い。何とか新型特攻兵器を奴に取りつかせてくれ、出来なくても有効範囲で爆発させて動きを鈍らせて欲しい!そこで俺が仕留める!」
「了解した!」
そんな何気無い命令だった。
特攻機は砲撃をしながら真っ直ぐにアリシアに迫っていく。
機体は特攻用と思われる大出力加速スラスターを噴かせながら、真っ直ぐアリシアに向かっていく。
アリシアはその事実を黙って見ていた。
驚愕的で脅威を感じたが、それよりも悲しみに満ちて涙していた。
「やめて……」
思わず気持ちが口から洩れていた。
だが、願いは届かない。
特攻機は加速をかけて突っ込んで来る。
アリシアはその砲撃を体に染み付いた動きで避けながら、離れながら呟く。
「やめて……やめてよ!」
だが、機体は既に多くが爆発範囲に入ってしまった。
彼女の目から自然と涙が溢れて溢れる。
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
アリシアは一気に機体を後退させた。
それと同時に次々と機体が波を立てる様に爆発していく。
凄まじい爆風がアリシアに迫る。
爆風がネクシルの装甲を削り剥がれていく。
爆発の爆風で機体が揺れ始める姿勢が揺らぎ、機体の後方機動も速度を落とす。
「この勝負貰った!」
紅い機体は確信した。
今なら確実に堕とせるとロックオンサイトがネクシルに定まっていく。
アリシアは悲しかった。
ただただ、悲しかった。
自分の無力さに……強くなれたと思った。
そこまでで無くても1人くらい救えると思っていた。
でも、結果は誰も救えない。
手を差し伸べる事が出来る距離にいたのに届かなかった……届くに足りないほど無力だった。
「私が殺した……」
自然とその単語が口から出る。
彼女は悪くない。
それは誰が見ても明らかだが、彼女はそうは考えなかった。
手を届かせる程の力を持てなかったのも届かなかったのも結局、自分だ。
敵に原因が無かった訳では無い。
でも、彼女は学んだ。
他人を責めたところで罪人が罪人を卑下しているだけだ。
寧ろ、本当に罪人なら責められて当たり前なのだ。
だから、自分が悪い。
それが彼女の答えだ。
真に責められるのは守れなかった自分だけだと……。
「でも……」
彼女の頬から自然と涙が零れる。
「それでも!お前の首は貰っていくぅぅぅぅぅ!」
すると、アストが報告を入れコンソールに表示された。
『量子回路完成しました。モードアサルトが使用可能』
「アサルト起動!」
アリシアは透かさず実行しその姿は一瞬で消えた。
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