似ている

 アリシアは砂漠の真ん中でネクシルのコックピット内で特注レーシュンを食べていた。

 ただでさえ、異常な代謝量を誇るアリシアは高カロリーを取っておかないと戦闘に支障を来たす。

 前回の戦闘データから戦闘強度と消費カロリーの関係性が分かったのでそれを基に吉火が作った。

 味は……お世辞にも良いとは言えないが、慣れれば何という事はない。

 寧ろ、空腹を凌げればどうとでもなる。


 空腹と贅沢は敵と言う価値観で動いている彼女は敵を滅ぼす為にお腹を満たす。

 アリシアが一通り食べ終えたのを見計らった様にアストが話しかけてきた。




『合流ポイントの連絡が来ました』


「出して」




 新たなレーシュンを開封し食べようとした手を止め、データを目をやる。




『街の端に廃墟……建物の高さは周囲800mの中で一番低く囲まれています。狙撃の心配もない様です。更に道が入り組んでいる為に逃走経路も複数確保が可能です。周囲にはサレムの騎士が掘った逃走用の地下経路が存在します。利用する事も可能とあります』


「よく調べてるね。流石、実戦慣れしてると言うべきかな。私も見習わないと……「それで良い」て返信しておいて」


「了解。そのように」




 アストは返信し終えるとある話題をアリシアに振った。




『シンとあなたは似ている』


「どうしたの急に?」


『何となくです。いけませんか?』


「いけなくないけど、そんなに似てる?」


『思考パターン等似ています。何よりお互いに雰囲気が似ている。血縁者ではないかと思える程に』


「私に兄妹はいないよ」


『そうですね。もしいれば、年齢的に言えばシンは貴方より歳上の様ですからお兄さんになるでしょう』


「お兄ちゃんか……もしいたら、あんな感じなのかな?」




 アリシアは想像しえない事に思い巡らせる。

 アリシアはそっとコックピットのシートに腰を下ろす。

 そして、コックピットから見える夜空を眺める。




「何処かで彼も同じ空を見てるんだよね……」




 ◇◇◇




 一方、その頃




『あなたはアリシアさんによく似ています』




 何処かの砂漠の真ん中で似たような事を言う者達がいた。




「どうした?藪から棒に?」


『何となくそう感じただけです。問題ですか?』


「いや、別に問題じゃない。そんなに似てるか?」


『思考パターンに類似性が見られます。何よりお二人共、雰囲気が似ています。まるで縁者の様です』


「俺に兄妹はいないぞ」


『存じています。もしいれば年齢的にアリシアさんはあなたより歳下ですから妹と言う事になりますね』


「妹か……もしいたら、あんな感じなのか?」




 シンは想像しえない事に思い巡らせる。

 シンはそっとコックピットのシートに腰を下ろす。

 そして、コックピットから見える夜空を眺める。




「アイツも何処かで同じ空を見てるんだよな……」




 2人は互いに想像しえない事を思いながら眠りについた。






 ◇◇◇





 翌朝、彼らはお互いに予定時間よりも早く来ていた。

 まるでお互いに図った様に顔を対面させた時は驚き、思わず銃を取り出した。


 お互いに味方と分かり、すぐに銃を下ろし、互いに早く来た目的を確認する。

 お互いに罠や見落としがないか確認しに来たという事だった。

 お互いがお互いに自分の犠牲を厭わず、相手の為に安全を確保しようとしていた。

 お互いの意志が全く同じ事に2人は苦笑した。


 2人はお互いに協力して罠などを探ったところ、実は建物の鉄筋と一体化した通電性のテザーが入り口の至るところにあった。

 しかも、鉄筋は地下の発電機と繋がっており、これが一種の電気トラップである事が分かった。


 2人は力を合わせて発電機を止め、念の為に建物のテザーを処理した。

 もし、ここに事前に来なかったと思うとぞっとしてならない。


 2人は安全をある程度確保すると作戦会議を始めた。

 そこで2人は今後の方針は話し合った。




「まずだ。俺の認識では近い将来、ADと戦わなければならない」


「そうなりますね」




 アリシアは即答した。

 シンにとっては逆にそれがなんとも言えない不安感を煽る。

 アリシアには自信があるのか?それとも単に事の重大性を理解していないのか?勇気があるのか、単なる無謀な馬鹿なのか、シンにはその辺の事が分からなかったからだ。




「加えて、今回互いの相棒はオレ達に協力させようとニジェール支部に向かわせた」


「そうなりますね」


「しかも、相棒達曰く、この件が今後に影響すると分かるが……何をどうすれば良いという指示はないし本人達も分からない」


『はい』


『その通りです』




 スマホ型PCに繋がった端末からアストとテリスが会話に入る。




「で、これはテリスが掴んでいた情報だが、将来戦うADはニジェールのどこかに存在する」


『その通りです』




 そこでアストが質問する。




『わたしはその情報を知らないが?てっきり、軍がこの地帯にADを派遣したのかと……』


『わたしとあなたでは個体差があるので得られる情報も得意不得意があるのですよ』


『なるほど、把握した』




 どうやら、TSの情報精度には個体差があり、得られる情報の内容も変わって来ると言うのをアリシアとシンは学んだ。

 この地帯にADが現れると言う認識はあったがアストは不得手なのか、それともスペックで劣っているのか、ここに軍がADを派遣すると考えていた。

 逆にテリスの方が得意なのか、スペックが高いのかADがニジェールのどこかにある事を掴んでいた。

 この2人の間ではテリスの方がアストよりも先輩のような者であり、アストとしてはテリスから学ぶ事も多い。

 2人が話を終えたのを確認するとシンは再び話を進める。



「それでだ。もうこうなったらどうすれば良いか方針を俺たちで決めねばならぬわけだ」




 シンは今、置かれている状況をまとめた。

 預言と言ってもアスト達は”確かな未来”を見ている訳ではない。

 あくまで断片的な未来であり、そこまでの道筋は分からないのだ。

「ADと戦う」と言う未来は今のところ確定済みだが、そこに行きつくプロセスが不明な状態だ。

 だが、このシンとアリシアがいれば、確定した未来の改変は可能だとアストとテリスは確信していた。

 そこでアリシアが手を挙げる。




「これはあくまで推測ですけど良いですか?」


「なんだ?言ってみろ」


「そのニジェールにあるADですけど、もうペイント社が保有している可能性はありませんか?今回の件は今後のAD戦と関係があるなら……遂最近、出来たペイント社はその確保を目的に造られた可能性はないのですか?」


『その可能性は我々も検討しました。今年の1月半ばでレベット アシリータと言う平和指導者がニジェール周辺で平和活動をしました。レベットの後押しもありペイント社が出来、治安が良好になったと聞いています』


「なるほど、治安回復させて戦時中に作られたAD回収をさせるつもりでペイント社が出来たという事ですか?」


『レベットにその意図があったかは分かりませんが依頼した軍にはその意図はあった可能性はあります』


「あの女は意図があろうとなかろうと偽善を振りまくがな」




 レベットの話をするようになってからシンが態度にも分かるほど苛ついた顔をしている。

 隠すのに必死なのが伺えるが、怒りと苛立ちが顔から溢れている。

 アリシアはスマホPCに口を添え、こっそり尋ねた。




「ねぇ?テリスさん?」


『あ、呼び捨てで結構です』


「じゃテリス。わたし何か悪い事したの?シンがすごい顔になってますけど?」




 アリシアは一瞬、苛立つシンの顔を一瞥した。

 やはり、かなり怒っている。

 自分が何か悪い事でもしたのかと思わず、罪悪感すら抱いてしまう。




『気にしないで下さい。あなたは悪くありません。ただ、昔、平和指導者に酷い目に合わされた事を根に持っているのです』




 アリシアはそれ以上、深く詮索はしなかった。

 下手に刺激して彼の気を悪くするのは良くないと思ったからだ。

 今はその話はあまり重要ではない。

 彼の為にも話を切り替える事に努める。




「そうなるとわたし達はニジェール社が持っているであろうADを破壊しないといけませんね。そうすれば、アストやテリスの預言も成立しません」





 それにシンも得心した。




「そうだな……それしかないだろう」


「ただ……問題はどうやって見つけるか?ですよね」




 現状、スマホに表示された情報を見る限りADの保管場所である基地の見取り図はあるが場所まではわかっていない。

 撃破する以前の問題だった。


 すると、気の切り替えが上手くいき、ゆとりが出来たのか、シンがある作戦を提示した。

 アリシアはその作戦に耳を傾ける。

 なんでも昔使った敵秘密基地に炙り出し法を使うらしい。

 それから10分くらい色々、話し合ったがそれ以上の案が浮かばなかった。


 その案とは、ADが格納できそうな候補地周辺のサレムの騎士の基地を襲撃する事だ。

 ADで機密レベルが高い。

 もし、基地周辺で何か起きればそれが基地に対する陽動である可能性も考慮してADの情報が万が一洩れない様に警戒マニュアルに沿って行動する。


 それが各軍機関や政府などの通信から物流に至るまであらゆるマニュアルが存在する。

 もし、基地周辺でサレムの騎士を撃墜していけば何らかの痕跡が残り、それを拾えば、AD基地の所在が分かるという寸法だ。




『それしかありませんね』


『多少、リスクありますがそれが最適解だと考えます』


「決まりだな」


「なら、それで行きましょう」




 こうして4人は作戦を開始した。

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