フレンドリーファイア
復讐者はまだ、収まりがつかない感情の最中、怒りを滲ませるように分隊長を睨みつける。
沈黙したまま睨みつける彼に分隊長は告げた。
「今回は諦めろ。作戦を忘れるな」
流石に見兼ねて復讐者を止めた。
しかし、そう簡単に止まるとも思えないので、更に付け加えた。
「作戦を思い出せ。成功すれば動けないマクレーンはタダでは済まないぞ」
分隊長は復讐者を諭す。
分隊長の落ち着いた物腰のおかげか、復讐者は沸き立つ心を歯を軋ませながら抑え込み、何とか言葉に耳を傾けた。
少しの沈黙の後に不承不承ながら「分かった」と答えた。
「場所を移動する。ついてこい!」
分隊長の先導に続き復讐者も後に就いて行く。
2人はポジションを変える為に移動した。
復讐者の機体のセンサーにはもう声は届いていなかったが、遥か遠くでマクレーンの叫び声が木霊する。
「くそ!くそ!テロリストどもめ!よくも……よくもぉぉぉ!!この恨み必ず!!」
その頃、マクレーンは応急手当を受けていた。
悲鳴とも執念ともとれる様な事を発していた。
その憎悪はタンカーに運ばれながら、医務室に入ってからも廊下に響き渡る。
「殺してやる!世界にすまう外敵も!我らに従わない者は皆、ゴミだ!ゴミは処分せねば成らんのだ!!」
本来の規定数を超える戦艦の数が仇となった。
戦艦は格納庫で整備するのが基本だ。
だが、この数の戦艦を入れるスペースは無く外で整備をするしかなかった。
それが敵に付け入る隙を与えた。
エジプト基地は対応に追われていた。
思いがけない手段で敵が襲って来た事に驚いていた。
彼等は何処かで油断していた。
ルシファーを持っている敵は確かに脅威だ。
だが、只のテロ集団ではそれ以上の事は出来ないと油断していた。
尤も客観的にみれば、今回の反抗がルシファーを持つ誘拐犯とは限らない。
現場の司令官が檄を飛ばしながら指揮を執る。
「戦艦を早く収容しろ!」
「現在、やっておりますが数が多く……地下格納庫に収容するまで3時間かかります」
「何としても急がせろ!」
そこに別のオペレーターが損害報告を知らせる。
「戦艦損害率50%を超えました!」
中年の若い無精ひげを生やした司令官は思わず、頭を勢いよく掻き毟る。
予想外の出来事に多少、焦燥感を募らせていた。
勢いよく毟る事で頭に溜まったフケがパラパラと床に落ちる。
「えい!発進可能なAPを発進させろ!その中で階級が高い者を基準に臨時で隊を編成し対処させろ!直ちにテロリストを殲滅しろ!」
こうして、エジプト基地のAPはスクランブル発進をした。
発進した戦闘機形態のAP6機は魚鱗の陣形で飛行編隊を組む。
「CPより全スクランブルへ敵の狙撃から大よその場所は割り出しました。レーダーに掛からない事と火力から恐らく、歩兵サイズの兵器パワードスーツであると推測されます。発見次第攻撃を許可します。尚、皆さんのコールサインはリベンジャとします」
「リベンジャ1了解。これより敵を探索、発見次第殲滅します」
魚鱗の先頭を引っ張る隊長と成った男はチームとなったメンバーに注意喚起を促す。
「諸君、聞いての通りだ。我々はこれから我々の基地に噛り付いた馬鹿に
小隊規模と成った彼等は「了解」と復唱した。
隊長含めて計6機を3つの分隊に分け、探索を開始した。
AからCに編成した分隊が別れて広範囲を探索する。
B分隊となったリベンジャー3と4は雑談を交えながら探索を始めた。
「敵も馬鹿だよな……旧式もパワードスーツ2機で基地を攻めるなんて、正気とはおもえーな」
「まぁ……テロリストの考える事なんて大抵正気じゃないだろう。テロリストなんて人間の枠を外れた悪魔みたいな者なんだしさ」
「それでもたった2機で攻め込むなんてな。もしかして、恨みを買うような事をした奴が基地にいたのかもな」
この半分冗談交じりの雑談が長く続くと思われたがそうはならなかった。
探索から僅か数分でB分隊が2機のパワードスーツを発見した。
リベンジャー3が1に通信を入れる。
「こちらB班。パワードスーツ捕捉。現在南西に向かい逃走中攻撃開始します」
AP2機は空中で人型に変形しスラスターで落下を抑えながら、パワードスーツにライフルを向け狙いをつける。
ロックオンカーソルがパワードスーツに合わさっていく。
3つの円が1箇所に収束していく。
パワードスーツもロックオンされている事は分かっている筈だがそのまま走り続ける。
「逃げられると思っているのか!」
「これでおしまいだ!」
そして、カーソルが合わさった。
弾丸が放たれ、敵に向かって飛んで行く。
次の瞬間、引き金を引く直前で友軍が撃墜された。
友軍のリベンジャ3が4を撃ったのだ。
「リベンジャ3……何故だ……」
コックピットが破損、4の機体は砂漠に没した。
「ばっ馬鹿な!何故!体が勝手に!」
すると、3の体に変化があった。
突如、何かが体を蹂躙し自分を殺そうと自分自身のライフルでコックピットを撃ち抜こうと動作し始めた。
APはまともに操作できず、そのまま3の機体も砂漠に落ちる。
「な、何だ!これ!やめろ!やめろ!」
3はそれに抗う。抗う度に向けられた銃身がガタガタと震え、機体が軋みをあげる。
心拍数も異常なまでに跳ね上がり、いつ心不全で死んでも可笑しくないレベルまで達していた。
そこでリベンジャ1である隊長は異変に気づき、連絡して来た。
3のバイタルに異常があり、4が撃墜されていたからだ。
3は必死の思いで、まるで縋るように回線を開いた。
「リベンジャ3。大丈夫か!」
「た、隊長!助けてくれぇぇぇ!」
3は何かを怯えているのはその異常に震えた声色から理解できた。
3の何かに抗い呻く様な声が通信越しに聞こえる。
コックピット内の画像も無理やり開くと3は引き攣ったような顔をして額には脂汗を滲ませていた。
何かを恐れているように「やめてくれ……やめてくれよ……」と呻いていた。
何が起きたか分からないが明、らかに計り知れない異常が起きている事だけは理解出来た。
「3!今近くにいるC分隊を向かわせた。しっかりしろ!何があった!」
「分からない……俺は何故、4を撃ったんだ?」
「4を……撃っただと!」
隊長には一体何が起きているのか、ますます分からなくなった。
本来ならじっくりと聴きたいところではあったが、事態がかなり切迫していた。
3のバイタルは急変し今にも心不全で死にそうな域にまで達していた。
そんな中でも3はまるで懇願するように助けを乞う。
「何で俺、引き金を自分に向けてるんですか⁈隊長!答えてくれ!助けてくれ!自分がどうにかなりそうだ!このまま楽に死なせてくれぇぇぇぇぇ!」
リベンジャ1は戦域を確認した。
3の周囲に敵機はいない。
パワードスーツがいる可能性もある。
だが、救援部隊が直ぐに回収すると考えた。
リベンジャ1は鎮静剤を3に打ち込んだ。
ダイレクトスーツの首筋に仕込まれた薬が撃ち込まれたが、鎮静剤はまるで効力を為さない。
心拍数は依然として心臓が破裂せんばかりに高い。
今度はイメージ映像と音と鎮静剤を投与し興奮を抑えようとした。
その甲斐がありある程度、バイタルの安定を始めた。
画面に映る3の顔は汗が噴き出ていたが、ことなしか少し安らいだように目を閉じ息を荒立てていた。
しかし、悪魔はその程度では逃げられない。
悪魔はニヤリと出力を上げた。再び、バイタルが急変する。
さっきの比では無い程に‥‥。
「ぐあぁぁぁぁぁっあぁぁぁぁぁ!!」
3の目が魚の様にカッと見開き、体をもじりながら悶え始めた。
まるで体の中に何かが入り込んだように飛び跳ね、暴れ始める。
隊長はすぐさまイメージ映像と音、鎮静剤を使いバイタルを落ち着かせようとした。
「耐えろ!リベンジャ3!もうすぐ救援が来る。後少しもう少しの辛抱だ!」
リベンジャ1は3を励ました。
声をかけ意識を繋げようと声がはち切れんばかりに必死に呼びかけた。
自然と声に熱が籠り、1の額にも汗が滲む。
「隊長……俺、死になくないです……まだ、彼女に……指輪……渡して……」
3は走馬灯でも見ているのだろうか?いきなり、指輪の話を持ち出して来た。
大体の事は今の話から想像できる。
だからこそ、なおさら1は声を張り上げ意識を繋ぎ止めようとする。
「あ、そうだ!指輪を渡すんだろう!だったら自分の手で届けろ!きっと喜ぶぞ。これに耐えたらきっと男としても箔が着くぞ!」
「そう……だと……良いで……す……ね」
バイタルが再び安定し始めた。
「薬が効いたのか?」と不意に安堵を浮かべたが一瞬の事だ。
脈拍は一気にゼロに近づき、体温が下がり始めた。
ダイレクトスーツのカウンターショックが止まり、かけの心臓を再動させる為に電気ショックを与える。
彼は今にも事切れそうに眼が萎んでいく。
大粒の涙を残しながら、誰かの名前をしきりに呟いていた。
だが、もう力が尽きそうでその声はかすれて聴き取れない。
そして、遂には声すら聞こえなくなりカウンターショックが止まり、ダイレクトスーツが心肺停止を告げる。
その顔は涙や汗でぐちゃぐちゃになっていたが最後に一瞬だけ良い夢でもみたように朗らかで穏やかな顔をしていた。
「起きろ!起きろ!リベンジャ3!悪い冗談はやめろ!彼女とどういう関係か知らん!だがな、また会うんだろう!会って指輪を渡すんだろう!ふざけてないで起きろ!起きろよ!頼むから起きてくれ!起きてくれぇぇぇ!起きろぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
通信に隊長の雄叫びが木霊する。
救援部隊が駆けつけてコックピットを開ける音が聞こえる。
その手に胸のあたりで強く握り絞められていた。
救助に来た隊員が強く握られたその手を無理やり開けると中から一粒のダイヤモンドをあしらった結婚指輪が足元に落ちた。
その輝きは色あせる事はなかったが、どこか寂しそうな輝きを放っていた。
◇◇◇
尚、パワードスーツは既に消息は分からなくなっていた。
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