復讐者と報復者の帰結
2342年 1月中旬
アフリカ エジプト基地
テロリストを殲滅すべく艦隊戦力が集まっていた。
エジプト基地に配備されている陸戦戦艦では足りないので、近隣地区の基地から戦艦を借り受けていた。
今、エジプト基地には多くの陸戦戦艦が鎮座し、まさに圧巻の一言に尽きる。
何の作戦か分からない者達からすれば、「只事では無い」事だけは明らかだった。
部隊の指揮を預かるのは作戦会議に参加した上級士官グスタフ マクレーン大佐だ。
そこに部下が報告に来た。
「大佐。戦艦の規定数まであと3割を切りました。このまま行けば予定より早く準備完了です」
マクレーンは葉巻を噴かせながら、振り返る事無く「ご苦労」と労いをかけ、部下を下がらせた。
再び高級なトルコ産の葉巻を咥え、深く息を吸い、葉巻の味を楽しみ心を落ち着かせる。
「これで何とかなりそうだ」
彼は胸を撫で下ろし、安堵する。
予定よりも多くの戦艦が確保できた事でルシファーへの勝機が出た事もそうだが、彼自身が放火と言う行為に加担していたからだ。
それがバレずに済むと成れば、心胆は不敵な笑みで満ちていた。
国力が求められる現状なんとしても戦力を確保したい。
世論はWW4での事があり、軍備拡張を毛嫌いしている。
だが、統合政府の完全な樹立には戦力が必要なのだ。
その為の放火だ。それにより人員は増え軍備も相対的に需要が上がる。
世論の知らない所で戦力が上がり、それに見合う物が必要なら用意するしかない。
結果、経済が回り世論の私服も肥え、世論の反感も買わない。
彼は放火行為を貪欲に正当化する。
経済にとっての金は血液の循環だ。
それが回る事を誰も咎めない。故に正義と考える主義者だ。
しかも、事実上徴兵は存在しないのだから、そう言った人員は存在しない。
人員を使ってやりたい事をさせる事も可能なのだ。
マクレーンもその考えに賛同し、自分の私利私欲もあり、この作戦に参加したのだ。
「テロリストがあのような要求をした事には焦ったが……ふふふ、これで降雨の憂いは断たれたな」
マクレーンは勝ち誇った笑みを浮かべる。
負ける訳が無い……これだけの艦隊がたかが塵の様なテロリストに負けるはずがないと頑迷ともとれる確信に満ちていた。
そして、この艦隊の一部を自分が指揮するとなれば、愉悦から自分が力に陶然とし自画自賛とばかりに自分の力を褒めたたえるように不敵な笑みが思わず零れる。
だが、そんなマクレーンを見つめる影達がいた。望遠鏡からマクレーンの口の動きで会話を読み取りながら2つの影は見つめていた。
「あれがグスタフ マクレーンか」
「あぁ、そうだ!悪魔のマクレーンで間違いない!」
男の内の1人は思うところがあるようで、訛りの強い言葉で感情を顕に言葉に力が入る。
その顔は望遠鏡越しに炯々とマクレーンを睨みつけ、顔は険しく憎悪を浮かべていた。
「聴いた話だが、お前はマクレーンと何か因縁があるらしいな」
もう1人の男が力説する男の気持ちを受け取り、殊更ともとれる質問を投げ掛けた。
一応、分隊長として男のメンタルに影響すると推移し、打ち明けた方がメンタルが落ち着くと考えての質問だ。
メンタル不安定では作戦にどんな影響があるかわからないからだ。
「あの男は逃亡中のサレムの騎士が村に逃げ込んで来ただけなのにオレ達が匿ったと濡れ衣を着せたんだ!俺の村を焼き払ったんだ!彼奴は軍人の皮を被った悪魔だ!」
復讐者は自らの込み上げる感情を噛み締め、切歯扼腕して力説する。
その脳裏には焼き払われた故郷が浮かぶ。
仲間や家族の断末魔と激しい銃声の音が今でも脳裏に焼きつく。
逃げ惑う仲間達は自分の背後で射殺されていく。
燃えたける村の中を一度だけ振り返るとそこには地面に這いつくばる自分の母親の蟀谷に無慈悲に弾丸を叩き込む悪魔の姿だった。
「この世界に入って分かった。あいつらはサレムの騎士を逃した汚名を濯ぐために「匿っているサレムの騎士を引き渡せ」と要求して来た。オレ達はそんな事は知らないしやってもいない。なのに、あいつらは要求に応じなかった事を口実にオレ達をテロリスト扱い。虐殺の動機を作りAPの空爆でサレムの騎士ごと俺の家族や仲間諸を纏めて吹き飛ばした!俺は村に隠れていたサレムの騎士のお陰で運良く逃げられた。だから、仲間の無念を晴らす為に此処にいる!」
復讐者は自分の内に秘めたたまっていた感情を吐き出した。
分隊長はこれで少しは不安要素が抜けたと安堵する。
寧ろ、この男はマクレーンに対する感情でこの作戦に対する士気が高いと判断できる。
やはり、勢いのある兵士の方が10人の勢いのない兵士よりも役に立つ。
上手く手綱を握れば、上手く事が運ぶかもしれないと考えた。
「そうか。お前も大変だったのだな。我々も同じだ。訳も分からずいきなり攻撃され、虐げられ宇宙は自由を奪われた。使い捨ての道具の様に扱われている。私がこうしている間も仲間は迫害を受けている。私はそれを救わねば成らない!」
復讐者は自分と同じ境遇の者がいると感じシンパシーを感じる。
2人の中には他人では推し量れない不思議な信頼が結ばれていた。
一重に迫害された者同士が感じる共感かもしれない。
「あんたは仲間を救う為に!」
「お前は復讐を果たす為に!」
「「この作戦失敗は出来ないな!!」」
2人の中には復讐と報復の炎が燃えていた。
仲間を奪われ、サレムの騎士と成った男と苦しむ仲間を解放する為に戦う宇宙の男は互いに手を取り合いしっかりと握り締めた。
「我々は我々の作戦を実行するぞ」
「あぁ!」
2人は背後には今は旧式となったパワードスーツが装着ハッチを解放した状態で待機していた。
相当年季が入っているようで砂漠の迷彩色に塗られたペイントは色あせ、急いで修理したが所々錆びつき装甲には弾痕や破損した痕が残っている。
第4次大戦が起きる前までは主力兵装だったパワードスーツだったが、HPMの登場でAP以外の電子機器類が真面に機能しなくなった事で戦場から消えた骨董品だ。低烈度紛争地帯ではまだ使われる事があっても、もうほとんど活躍の機会はない。
だが、この2人は躊躇う事無くこの機体に乗り込んだ。
何故なら基地周辺は例外だからだ。
HPMでミサイルによる防空兼が作れないと言う事情から基地周辺では原則としてHPMを展開する事は禁止されている。
ミサイルが廃れたこの世界でもやはりミサイルの使える場合、かなりのアドバンテージが得られる。
特に高速で飛来するAPに対して誘導兵器はお手軽に当て易いと言う利点からの判断だ。
更に付け加えるなら基地周辺の街にHPMの影響が及ぶ可能性を懸念しての事でもある。
そう言った事情から基地周辺にはHPMは展開されていない。
その代わり巡回兵の数は馬鹿みたいに多い。戦争とは最新鋭兵器だけでは勝てない。
時に非対称的な旧式兵器が戦果を上げる可能性も否定できない背景から基地も敵が旧式兵器で攻めてくる事を想定はしている為に巡回は多い。
だが、幸か不幸か今まで基地襲撃の経験がないだけあり、巡回ルートは複数あってもワンパターンだ。
そのパターンさえ見切れば、後は容易に基地まで接近できる。
基地までの経路の防犯カメラは仲間のハッキングで対処され、人気のない夜の内に人に気づかれないように移動すれば問題なかった。
更に幸運だったのが、パワードスーツが移動したには関わらず気づかない程、巡回の兵士の気持ちは緩んでいた事だ。
そのお陰で基地を見渡せる丘に昨夜からずっと待機出来た。
陸戦戦艦が射線に通る丘をポジションに取り、パワードスーツをスタンバイした。
HPMの存在でお役御免に成った骨董。
だが、今回の作戦にこれほど打って付けな物はない。
2人はパワードスーツに乗り込み大型の対装甲ライフルを構えた。
「準備は良いか?」
「あぁ、いつでも良いぜ。ただ、頼みがある」
復讐者の声色に不思議と熱が籠る。
「何だ?」
「1発目はマクレーンを狙わせてくれ」
復讐に燃える男は気持ちが奔り目の前にいる復讐相手を速く殺したい様だ。ここで無理に止めるのも得策でないと分隊長の男は判断した。
「良いだろう。戦場で流れ弾に当たる奴はいる。マクレーンがその1人になるだけだ」
「感謝するぜ」
復讐者は高鳴る気持ちを今か今かと待ち侘びながら、ライフルを構えた。隣の男の合図を待つ。
復讐者の手にじんわりと汗が滲み高鳴る心拍数がその時を今か今かと待ち侘びる。
作戦開始時刻が刻々と迫る。カウントが進み3、2、1とカウントが入った。
そして、0になった瞬間、復讐者の今まで抑え込んでいたモノがたがが外れ解き放たれる。
「マクレェェェェェン!!」
すると、マクレーンの前をトラックが通り復讐者は不意を突かれた。
だが、作戦は予定通りに行われ、協力者は整備で開けられた戦艦のフロート部を撃ち抜いた。
それに兵士が混乱する中で協力者は確実に整備中の戦艦を狙う。
トラックが現れた事で焦った復讐者は慌ててマクレーンに引き金を引いた。
しかし、トラックと荷台の間を通る際に僅かに弾丸の軌道がズレた。
弾丸はマクレーンの胴体ではなく右足を吹き飛ばした。
トラックが通り過ぎたのと共にマクレーンは地に崩れはち切れんばかりの断末魔を挙げる。
その断末魔に部下が集まりマクレーンを取り囲む。
「くそ!邪魔だ!」
復讐者は敵の部下と纏めてマクレーンを吹き飛ばそうと狙いをつけた。
しかし、丁度そこに装甲車が現れ、マクレーンを守る様に射線の邪魔をした。
どうやら、こちらの位置はある程度絞られた様で装甲車で迎撃しようとしている。
「邪魔だ!ってっんだろ!」
パワードスーツの対装甲ライフルの弾が装甲車を吹き飛ばした。
しかし、装甲車の機能は奪えても原型はとどめている。
ただの壁と成り果てた装甲車の装甲がマクレーンまでの射線を遮る。
「くそ!くそ!くそ!」
復讐者はムキになり、装甲車の影にいるマクレーンに向け何発も何発も撃ち込んだ。
だが、装甲車を貫通した時には既にマクレーンはいなかった。
「そこまでだ」
分隊長は制しした。
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