災いは盗人のように

 万物は、0の世界から“言葉”が生じた。

 こうして、世界は成った。






 世界はそこから始まった。





 誰かが夢を見る。

 自分と言う生き物は眠らない事を知っている。

 それでも夢を見るのは意識を低次元に落とす時か低次元での出来事を思い出す時だ。

 その女性が人間に成りすました時の事だ。


 自分を希望の光と信じて、共に歩んだ民が彼女にはいた。

 民達は過酷な中でも、決して希望を捨てない良い民だった。

 求める物を得、自分の求めに応じて修練の日々を過ごし、自分の為に人間と言う存在を変えるほどの苦しい努力を積んでくれた素晴らしい民がいた。

 だが、ある日。全てが終わるはずだった日に彼女は失敗した。

 失敗と言う概念が無いとまで言われた自分が敵の策略で失敗したのだ。

 それが人間なら、ある程度許容されただろう。


 しかし、それは民にとっては自分と言う定義の根底を覆すモノであり、最大の裏切りでもあった。

 裏切ってはならないと教えた自分が最後の最後で裏切ってしまったのだ。


 その日を境に世界から「権能」と言う絶対的な法則が砕け消滅した。


 絶対的な存在が裏切ったと認識され言葉にされた時、言葉は紡がれ絶対法則の1つを破壊したのだ。

 それが後に災厄と言われた第4の時代の始まりでもある。




 ◇◇◇






 どこの誰が始めたのか、わからないがその日は唐突に訪れた。


 西暦2315年 12月24日


 後の歴史で”業火のクリスマス イヴ”と呼ばれた出来事。アメリカ ワシントンDCと中国香港に2つの小型水爆が落とされた。

 当時、様々な情報が錯綜する。

 結局、両国ともお互いの国が戦犯だと言い張り、世界を巻き込み緊張状態となった。

 問題はそのまま国連にもっていかれた。




 12月31日

 年越しのムードを味わう事も出来ず、世界中のメディアが行く末に固唾を呑んで見守った。

 今後の世界の行く末を左右する大きな転換期として世界中の人間がこの事件に注目した。

 しかし、世界中の人間は思ったはずだ。

 戦争になるわけがない。

 そう……その認知は間違ってはいない。誰もが思っただろう。誰かが何とかする……軍が何とかする……国連が何とかする……人間は愚かではないから大戦みたいな事にはならないだろう。



 誰もが当たり前のような日々が続くと信じた。ただ、それは輪廻ロンドの様に時代を繰り返すだけだ。

 時代が……人がそれを望んだのだ。だから、それは誰もが望んだ結果、誰もが望んだ因果であり運命であり未来だった。

 故に人は繰り返す事を分かりながら怠惰を抱え、悔いない事を選び、同じ過ちを繰り返す。




 2316年1月2日


 人類4度目の戦争


 第4次世界大戦勃発


 アメリカと中国は互いに相容れぬ敵として対峙した。

 互いの国の首相の意志の下、両国の基軸に戦争が起きた。

 この時代、中国も民主化していたが一党独裁の歴史があったせいか、アメリカ合衆国と同様に大統領令に準ずる権限を首相が有していた。

 それはこの時代のアメリカも同様だ。


 戦争のきっかけは些細な事で、中国側の潜水艦がアメリカに間接的に攻撃されたと言う殆ど言い掛かりに等しい言い分から中国がソルをアメリカに向けて撃った事だ。

 アメリカはそれを迎撃するがそれを機に両国の間には深い溝が出来た。


 開戦直後は核攻撃による報復合戦を繰り広げていたが、互いに一度撃ち込まれた経験がある為、警戒心が強く国に着弾する前に迎撃されてしまう状態が続いた。

 それでは問題が解決しないと判断した両国は自国の正義の名の下に侵略戦争を開始した。

 国土拡大、増強を図る為に大義名分を掲げ近隣諸国の隷属を開始した。


 その過程で多くの国が失われたが、国の存続の為に新たな国家を樹立する国まで現れ世界は混沌としていく。

 初期こそ戦争は戦闘機や戦車を作った戦闘をしていたが、開戦直後に両国で開発されたある兵器で戦争の転換期を迎える。


 電子兵装技術の異常発達により戦域に広範囲に展開可能なHPMハイパワーマイクロウェーブにより電子機器搭載兵器やAI兵器が無力化され電子兵装に頼っていた戦闘機や戦車、コンピュータ関連の兵器が一切使用出来なくなった。

 その影響で一時期は歩兵による昔ながらの戦いが主流になったほどだった。


 だが、それを打開する兵器が日本の兵器会社から現れた。

 APアーマードプロモーターという人型兵器であり斑鳩重工主導でローゼンタールと共同開発で作られた兵器だ。


 この時代の戦場にはHPMハイパワーマイクロウェーブが張り巡らされている。

 AI兵器やコンピューターを重視した兵器の使用不能となり、ミサイルの射程も短くなってしまった。


 そこでAPは「コンピューターや電子機器に依存しない兵器」と言う思想を基に人間の動きを兵器化したモノだ。

 コンピューターによる依存性を軽減し電子機器センサーを廃し重要箇所を“ブラックボックス”と呼ばれる保護装置の中に入れた兵器だ。

 従来兵器に無い3次元的機動や機体重心変化システムの導入により1つの兵器に陸戦兵器と空戦兵器としての能力を集約した。


 APの登場で戦術は大きく肥大化を果たした。日本で初めて使われたAPはその多大な戦果によりすぐさま世界に波及した。

 反面、これまで以上のパイロットの質が求められ人数確保のため男女問わず徴兵制を導入するようになり戦争はさらに激化した。


 そして、この戦争で数々の英雄が生まれ、その中でも特に優秀な4人を”4閣”と呼ばれたAPパイロットが生まれた。

 だが、戦争中期になり変化が現れた。宇宙の民と呼ばれる宇宙に住まう者達による宣戦布告無しの攻撃で戦いの舞台は宇宙にまで広がった。

 何の前触れもなく宇宙統合政府が管理する1つの直径1km級の資源衛星が地球に向けて加速、アメリカと中国の基地に命中、巨大なクレータが出来た。


 それに対して当時に中国やアメリカは早急に対処した。両国とも宇宙統合政府を敵と認定し電撃作戦により宇宙の民の統治に成功した。

 WW4中は宇宙の民との間でそれ以上の事は起きなかった。

 だが、統治した事で得た莫大な資源により、戦争末期に両国はAPに変わる新たな最恐の兵器を作りあげた。




 対国家戦略兵器 ADアーマードデストロイヤー




 全長1000m前後に成る強大な兵器でありAPと違い代替可能な多数の凡人でコントロール可能な国家戦力と戦う事を想定した殺戮兵器だ。

 その巨体を活かした火力と防御力、超弩級の高出力動力による多重バリアシステム。ADを前にAPの実用性は失われ戦争末期はADが闊歩かっぽする時代と成った。


 その破格の破壊力による爪痕はあまりに大きく幾つもの国が消えた。ADの排除の為にソル(核融合爆弾)の使用を強行する国まで現れた。

 だが、ADの重力制御バリアとエネルギーバリアの多重構造の前には核ですら歯が立たなかった。寧ろ、無暗に地球を傷つき世界は疲弊した。

 十年間の戦争の末、世界全体で予測以上の消耗により戦争は終戦した。終戦後、国家間同士で復興と平和構築の為、国家を統一した地球統合政府がわずか1年で設立された。急速な統合化は弊害を残しつつも15年の月日が流れた。


 これまでの世界の流れで変わった事は3つあった。


 1つ、各宗教の形骸化、新たなテロリズムの発生だ。

 特に聖書の黙示録の預言が24世紀に成っても預言は成就されなかった影響が大きい。

 それに端を発してWW4で余裕を失った人々から旧時代宗教などに対する信仰が完全に消えた。

 各宗教圏の神に対する信仰心が消えた事で旧時代宗教などの3宗教は形骸化。各宗教圏などは邪教とされ信者は迫害を受け、イスラム過激派と交わった。

 そして、平和を築く新たなテロリズムとしてテロ組織”サレムの騎士”が誕生した。


 2つ、戦争の勃発の防止策として情報統括システム“ファザー”が全世界の情報を管理する事に成った事だ。

 旧アメリカの”エシュロンシステム”を活用し、復興とインフラの整備の際に必ず、それを統括するファザーの管理下に入ると言うモノだ。

 そうする事でテロやその他の事件を未然に防ぐ事を政府は名目としている。

 ちなみにサレムの騎士の目標は「ファザーや統合政府による支配から真の平和を勝ち取る」と言うのが彼らの主張だ。


 3つ、戦争再発防止の為にファザーにより齎された情報を判断し政府の行動を決める3人3均衡を設けた事だ。

 政治、情報、軍から抜擢された彼等が世界の運行を指揮していた。

 政治からは実質のトップ ビリオ ハーバード。情報からはエシュロンの中核たるファザーを管理するCIA長官ヒゥーム エルハス。軍からは全軍の総司令官であるリオ ボーダー。


 過去の教訓から大統領令のような絶対命令権が廃止されその権利を3つに分割し3者が均衡を保つ為に用意されたシステムだ。過去の歴史の様に簡単に戦争が出来ない様になっている。


 例えば、大統領には軍の指揮権もなく軍の指揮権は実質、リオ ボーダーが握り派兵や戦略兵器の使用は3均衡の合意の下で行う。

 だが、有事の際はリオ ボーダーの判断で戦略兵器の使用などは許可されている。公には戦争再発防止法に則った制度ではあるが、それはただの欺瞞だった。

 何故なら、リオ ボーダーの判断一つでそれらの制約は意味を為さない。


 彼らがその気になればいつでも戦争ができる抜け穴を用意しているのだから……つまり、ようにしていると言う事だ。

 この世界は平和なようで実はかなり危ない橋を渡っている事はこの世界の誰も気づいていない。

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