拷問.2

 1時間ほどが経過しただろうか。牢の床は飛び散った泥水でビショビショになっていた。

「頑固なガキだ。親父はとっとと逃げちまうし、屑親子だな」

「はあっ……はぁっ……」

スフィヤが睨みつけると、腹に蹴りが飛んできた。

「うげぇっ」

「お前は相変わらず反抗的だし。物わかりの悪い奴だ。母親に習わなかったのか。歳上の言うことは聞くもんだって」

「はあっ……はあっ……母さんは、危ないことはするなって言ってただけだ」

「ぎゃっはっはっはっは、じゃあお袋さんの願いは叶わなかったなあ。まさか息子が異国の牢屋で拷問されて、やがて根負けして死ぬまで我が国のために働くことになるなんて」

「そうだな……はあっ……危ないことはしないようにと、言いつけは守ってきたし、父さんが言ってた僕の知りたいこともわかった。母さんには悪いけど、少し危ないことをさせてもらう」

「何言ってんだガキ。頭がとうとういかれたか」

「……言ってろ、野蛮人。この拷問の借りを返させてもらう」

スフィヤがそういった瞬間、地下牢の空気は一気に張り詰めた。数人がかりで拷問していたが、誰も皆、動くことができなくなった。スフィヤの髪を鷲掴みにしている衛兵でさえも。


「なんだ……」

「なんだか、急に静かに……」

「えっ」

その次の衛兵の言葉は、言葉にならなかった。落ちてきた天井がその男を生きたまま押し潰してしまったから。

「なっ、これは……」

「どうする……一時撤退するか」

「落ち着け。じきにおさまるだろう。それは事故」

続いて落ちてきた天井がスフィヤを掴んでいた衛兵を押しつぶし、スフィヤは自由の身になった。膝を払ってゆっくりと立ち上がるスフィヤ。残った衛兵たちが唖然としてスフィヤを見ている。

「何ボーッとしてるんだ。俺の顔に何かついてるか。……ああ、散々顔を洗ってくれたもんな。お礼をしなきゃ」

そう言うと牢の床に散らばっていた泥水はズルズルと動き始め、衛兵の体に纏わりついて、その頭部を液体の中へと引きずり込んだ。息ができずもがく衛兵が、少しずつ動きをゆっくりとさせて、やがて脱力して倒れていく。地下牢にいた衛兵が全員片付いたのを見届けると、スフィヤは踵を返して地下牢の出口へと向かう。スフィヤが地下を出た瞬間、凄まじい音を立てて地下牢は砂の地盤に飲まれて潰れてしまった。

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