裁判.1

 半日も経たない内に、2人は地下牢から連れ出されていた。衛兵たちに取り囲まれたままで、異国の宮殿の中を移動する。

 めちゃくちゃに付け足して造られたような荒れた街の様子と違い、計算されて造形された様式を持った宮殿の内装に、ティファンは正直驚いていた。この宮殿には古い歴史があるのかもしれない。そしてこの国にも。

 いつからあんな歪な建物がのさばるような場所になったのだろうか。徹底した客観的立場から見ても、そこにある意外性に驚きを禁じ得なかった。

 

 一方でスフィヤは黙り込んではいたものの、ふてた態度を隠すような真似をする気配は一切なかった。というよりも、自分の中で考えたいことが山ほどあるのだろう。機械的に連れられるままに動いているが、物思いにふける若者の姿がそこにはあった。


「お前たちはこれから裁判にかけられる」

一つの扉の前に連れて来られて、衛兵たちが一斉に立ち止まった。

「裁判ですか」

「そうだ。王による判決が下されて速やかに終了する」

「……随分変わった裁判だ」

ティファンの皮肉を聞かないフリをして、衛兵が扉をドンドンと叩く。重たい木の動く音と共に、裁判が開かれる部屋への入口が口を開けた。


 てっきり専用の部屋でもあるのかと思っていたが、部屋に入るとそこは謁見室としか思えない作りをしていた。等間隔で並んだ衛兵と、最も奥には玉座と思しき、重厚な椅子が1つと、そこに座る人影。いくつもの縦長の窓から差し込む光が、夕暮れの色をしていて、部屋全体が赤茶けて見える。


 玉座の前まで連れて来られると、2人はその場で膝をつかされた。手には当然縄が付けられているので、普通であれば逃げることなどできる状態ではない。ティファンはとりあえず様子を見ることにした。即刻何か攻撃されるようであれば、縄を溶かしてでも逃げればいい。心配なのは先ほどからボンヤリとして見えるスフィヤだったが、いざとなれば自分1人でも息子を庇って、この程度なら何とかできるだろうと、長い旅の経験がティファンに余裕を与えてくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る