不穏.2
人混みを掻き分けながら前へと進む。宮殿広場は地獄のような有様になっていた。磔にされた十数人の男たちの家族や友人たちが恩赦を求め、無実を叫び阿鼻叫喚としている。
血の臭いが濃い。見上げれば、数mはありそうな杭の上に男たちがまとめて縛りつけられている。着ている服は赤く染まり、裾から血が滴っている。磔にされる前に拷問があったのだろう。
「どけてくれ、通してくれ」
「……」
「誰かうちの夫を助けてよぉ。一体何をしたって言うのよぉ」
兵士たちが並んでいる一帯より先へは誰も立ち入ることができないようで、磔られた男たちの元へは民衆はたどりつけずにいた。その人の渦を掻い潜るようにティファンとスフィヤが最前列にたどり着く。
「何者だ。この先へは誰1人通すなと命令されている」
「昨日の手配犯の旅人親子だ。昨日の衛兵が顔を見ればわかるはずだ。あの人たちは無実だ。すぐに降ろして手当てを」
「なぜ貴様の命令を聞かねばならない。私の任務は、ここから先に誰も通さないことだ」
「父さん、話にならない。まずは磔にされた人をなんとかしなきゃ」
「もう一度だけ言う。僕と息子が昨日の市で騒ぎを起こした手配犯だ。無関係な人たちを降ろして、僕らを拘束しろ」
「私の判断することではない。とにかく手配犯だろうと、誰であろうと、この先へ通すわけにはいかない」
「……ならば通させていただく」
次の瞬間、列になった兵士たちは皆地面に伏していた。強烈な砂嵐が彼らの体を横切ったのである。しかし不思議と民衆たちにはそれは届くことはなかった。痛みに呻き、伏した兵士を跨いで磔にされた男たちの下へ歩み寄る。
「いま助ける。信じてくれ。痛めつけたりしないと誓う」
ティファンはそう叫ぶと、スフィヤと目を合わせて互いに頷き合い、2人とも磔台へとよじ登って行った。十数人を磔にした十数本の磔台を、1つ1つ登って、男たちを縛る縄をナイフで切っていく。ドサリと力なく倒れ込む体をもう片方の腕で支え、器用に木登りから降りてくるようにして男たちを助ける突然の救世主の出現に民衆は戸惑っていたが、衛兵たちが相変わらず痛みに呻いて地面に寝転がっているのを見ると、各々の身内のもとへと駆け寄って、抱きしめたり支えたりしながら去って行った。
地面に降ろした体を抱きしめたまま泣き続けている女がいた。その女の肩を14、5の娘が抱きしめている。
「どうしてこんなことに……」
その男はスフィヤが助けに行った男だったが、たどり着いた時には既に息絶えていた。それでも他の者たちと同様に、彼の体を丁寧にほどいて地面に並べたのだが、むしろ余計な期待を持たせた残酷な行為だったかもしれないとスフィヤは胸を痛めた。
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