餞別.2


「スフィヤ、体に気をつけるのよ。お父さん、ティファンの言葉をよく聞いて。あの人はね、本当はとても強い人なの。何かあっても、絶対にあなたを守ってくれるからね」

「でも僕1回だけ父さんに勝ったよ?」


「聞いたわ。でもあの人が本気になると、凄いんだから」

「母さんは父さんの闘うところを見たことがあるの?」

スフィヤが純粋な興味で目を輝かせてラズに尋ねた。


「1度だけ、ね。とても強い人だった」

「父さんは誰と闘ったの?」

「……あなたが旅から帰ったら教えてあげるわ。その頃はもう大人なのね。私のかわいいスフィヤ」

そう言ってもう一度地面に膝をついてラズはスフィヤを抱きしめた。


「ほらっ、そこ。あんまり感傷的にしない!どうせ静かなのに慣れた頃に帰ってきて、またうるさくなるわよ」

メリラとティファンが戻ってきた。ティファンは真新しい旅装束を着ている。


「それ売り物じゃない。しかも私が作ったやつ!」

「そうだっけ?誰が作ったかなんて忘れてた。でも餞別にやっちまった。文句があるならうちを辞めて独立するんだね」

「文句なんかあるわけないでしょ?むしろ感謝するわ」


「スフィヤの分もくれたよ、着てみるといい。メリラさんにお礼も言って」

「うん……ありがとう、メリラさん。母さんの次に好きだったよ」

「そこは嘘でも1番って言えないと、まだまだ子供だね」

そう言ってゲラゲラ笑うメリラは、スフィヤの頭を一撫ですると

「さーて、仕事するか!」

と再び工房へと戻って行った。


真新しい旅装束に着替えて、スフィヤとティファンは店の裏口でラズと向き合った。

「じゃあ、母さん。行ってくるね」

「帰ってくるよ。行ってくる」

「2人とも、体に気をつけてね」

「うん」

「わかってる」

家族の別れは呆気ないほどであった。夜には2人とも帰ってくるんじゃないかと言うほどの軽さがそこにはあった。

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