眠る子供.4
「……しきたりだって言って、ずっと自分を宥めて来たのね。でもあなた、本当は寂しかったのよ。私にも怒鳴ったじゃない「僕が耐えて来たのはなんだったんだ」って」
「そんなこと思ったこともなかった」
「私の勝手な推測だけど、あなたはきっと寂しかったのよ」
「じゃあ僕は相当勝手だね。その寂しい思いを息子にまたさせようとしてたんだから」
「そうかしら。そこは違うんじゃないかと思う」
「どうして?」
「しばらくは自分がついて、旅のあれこれを教えるつもりだったって最初に言ってたでしょ?それでも勝手な理屈だと思うけど、あなたはきっと同じ体験を分かち合う人が欲しかったのかなって思った。それが自分の子供だったなら、って。だって、しきたりだからって頭ごなしに押し付けるだけなら、そんなことは思いもしないでしょうし、今日の夕食にも来なかったんじゃない?あなたは、1番みんなが幸せになれる方法を探していたのよ。自分も幸せになれる方法を。とても不器用だったから、身勝手に見えたけどね」
「参ったな…いつの間にそんな風になったんだい?」
「子供を育てるとね。教えられることがたくさんあったの」
「羨ましいな。君と過ごせたらよかった。スフィヤとも」
「…今からじゃダメなの?」
「えっ?」
「それって、今からでもできることなんじゃないの?って」
「それは…できないよ。僕はまだ自分の中の血に未だ引き摺られている。昔に話したのと同じだ。沸き立ち始めたら抑えが効かない。君に代償なんてものまで押し付けた男だぞ?」
「それは、時が経てば無くなるものではないの?」
「…わからない。両親以外で大人になった一族のものと会ったことがないから…両親とも20年以上会っていない」
「そう…少しだけ夢を見たの。家族3人で暮らせる夢。でもそれは難しそうね」
「僕は君に何もあげれないな…自分で自分が憎くなるよ」
「あなたはこれをくれたじゃない」
そう言って銀の羽を取り出すラズ。
「12年も前の贈り物が唯一で最後だなんて情けないよ」
そう言って苦笑いするティファン。
「スフィヤもあなたがいなければ出会えなかった」
「……人間の娘と結ばれる話なんて聞いたことがなかったから、ずっと不安だった。君を忘れたこともなかった。たった1人でスフィヤを産んで育ててくれてありがとう。君がいなければ僕も、この子に出会えなかったんだよ」
そのやり取りを聞いて、眠っていたはずのスフィヤの頬が笑う。ティファンのしてきた旅の話、幼い頃のラズの話、2人の話の種は尽きることがないようで、大人たちの囁く笑い声は、明け方近くまで続いていた。
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