家族.1

ラズの予測は当たっていた。息を切らして市場へとと取り着くと、不自然に子供を背負った男が歩いている。背負われている子供は見間違いようがない、自分の息子スフィヤであった。


「いまさら何をしてるの?」

スフィヤを背負った男の肩を掴んで、声をかける。この男が誰なのかラズには確信があった。

「……驚いた。君だったのか」

「君だったのか、じゃないわ。スフィヤを連れて何をしているの?それにその子は大丈夫なの?倒れたと子供たちに聞いたわ」

「倒れたわけじゃない。眠らせただけだ」

「いったいどうしてそんなことができるの?」

「それは君も知っているだろう。僕は鬼神の血を引いてる。多少は魔術じみた真似ができるんだ」

「そうじゃなくって!なんでそんな酷いことを、その子にできるのかってことと!」

「それは……僕はこの子の父親だ。僕らの一族として、子供に伝えなければいけないことがある。人目見てわかった。この子は僕らの一族と」

「一族なんて知らない。私や本人の意思も聞かずに拐うなんて最悪の所業よ。大声で騒いだら人が来るわよ。ここは私の住む街なんだから。私の働く店だって、そこの角を曲がればすぐよ」

「君はあの村を出たのか!?」

「出たわ。お腹の子の父親を咎められてね。でもそんなことはどうでもいいの。あなた、私が出会った頃のままだと、正直みくびってるでしょ?でも今じゃ考えることも、動くことも自分でできるようになったのよ。全部その子の為に身につけたの。どういうつもりかわからないけど、こんな真似するなら私と闘ってちょうだい。スフィヤのためなら死んでも死なないから、私」

「僕と闘うなんて正気で言ってるのか?君は見ていただろう?その……色々と」

「あなたが化物を退治する勇姿も目に焼き付いてるわ。それでもスフィヤのためなら、私は何も迷わない」

「いや……やめてくれ。そんなこと僕にはできない。君はこの子の母親で、僕は父親で、つまり、僕らは……ただの他人じゃないんだ。それに、君は悪人でもなんでもない。君の主張が正しいという人が大勢いるだろう」

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