第42話 学校一の美少女と手を繋ぐ

 斎藤の家から徒歩十分くらいのところにかなり有名な神社があり、そこに行くことにした。

 たわいもない会話をしているとすぐに到着する。やはり多くの参拝客で混雑していて、人が途絶える事なく出入りしていた。


「結構人いるな」


「夜なのにこんなに人いるんですね」


 きょろきょろと驚嘆の声を上げながら辺りを見回している。

 テレビで見たことはあっても、実際に見るのとではやはり違うらしい。興味深そうに人混みを眺めていた。


 初めての夜の初詣にテンションが上がっているらしく、少しだけ声が高く明るい。表情もいつもの無表情ではなく、ほんのりと緩んで輝いていた。


「はしゃぐのはいいけど、はぐれないようにしろよ?」


「は、はしゃいでいません!……少しだけワクワクしていただけです。でもはぐれないようには気を付けます」


 それをはしゃぐというのではないか?というツッコミは心の中で飲み込む。

 俺の注意に冷静さは取り戻したようで、表情を引き締めていた。

 そんな素直な様子もなんだか幼い子供のようで思わず笑みが零れてしまう。


「……なんですか?」


 目を細め、ムッと睨んでくる。その頰を膨らませて睨む様子が今度は小動物ぽくって可愛らしい。


「なんでもない。じゃあ行くぞ」


 これ以上何か言ってからかうと拗ねそうだったので何も言わず先へ促す。

 あまり納得した様子ではなかったが彼女はしぶしぶついて来てくれた。


 人混みの中へ入ると、外から見ていた以上に見通しが悪く混んでいる。時々人にぶつかりそうになりながら、いつもより遅い足取りで進んだ。

 まずは手水舎を目指すことにしたのだが、その途中で彼女が多くの人の視線を集めていることに気付いた。


 別に彼女が何か目立つ服を着ているわけでもないし、むしろ着物を着ている人もいるのでそういった人の方が普通なら目立つはずだ。

 それでも彼女が注目を集めているのは、ひとえに彼女の容姿が優れているからだろう。

 さらにそこに彼女の魅力を最大限まで引き出す化粧と服装があるのだから、注目されるのは頷けた。


「……どうかしましたか?」


「いや、別に」


 やはり彼女はモテるんだなと客観的な感想を抱いたの同時に、少しだけそのことが面白くなかった。

 彼女の中身も知らないくせに、と苛立つ感情が少しだけ湧いたがそのことを口にはせず、一通りのことをして手水舎を離れた。


 彼女は少し不思議そうに首を傾げながらもとことこと後をついてこようとする。

 混んでいるので彼女を後ろにして歩くが、彼女は人が多いところに慣れていなかったらしく、人にぶつかり「きゃっ」と小さく悲鳴を上げた。


 慌てて振り返ると少し離れたところで困ったように立ち止まっている。眉をへにゃりと下げて口元をきゅっと結んでいる彼女と目が合った。


「悪い、早く歩きすぎた。大丈夫か」


「すみません……」


 急いで彼女の元へ駆け寄り声をかけると、しょんぼりとして謝ってきた。

 謝るべきは俺なのだが、今はそれを言っている場合ではない。


「あと少しだから。ほら、手を貸せ」


「えっ!?」


 謝罪なら後ですればいいし、今ここで立ち止まっている方が迷惑だ。それにまた誰かとぶつかるかもしれないので危ない。

 あと少しで混雑した場所は抜けられるので、彼女の手を引いて歩き出す。

 彼女の手を握ると何やら悲鳴にも似た声が聞こえたが、そんなことは気にも止めずとりあえず人混みを抜けるまで歩き続け、なんとか参拝の列に並んだ。


「もう少し気を使うべきだった。ごめん」


「い、いえ、それは別に……」


 列に並び一息ついたところで改めて謝る。責められる覚悟もしていたのだがそのことについて特に何も言われることはなかった。

 ただ、彼女は目を伏せてほんのりと頰を色づかせながら握った手に視線を送っていた。

 気を遣わずに置いていってしまったことを気にしていなかったことにほっと安堵しながら、彼女の様子がおかしいことに首を傾げる。どうした?と思ったところで気付いた。


「わ、悪い。急いでたから気付かなかった」


 彼女と手を繋いでいたことに気付き、慌てて離そうとする。

 だが、きゅっと彼女の握る力が強まり離すことができなかった。


「!?ど、どうした……?」


 まさか握られるとは思わず彼女の方を見ると、ぷいっとそっぽを向いて顔を隠してしまい、表情は見えない。ただ、ほんのりと耳が赤くなっているのだけが目に入った。


「……はぐれないようにするためです。ここもまだ人は多いですし」


「お、おう」


 ツンとした声で少し強めに言うと、さらにきゅっと握る力を強めてきた。

 彼女の柔らかいふにふにした手の感触が伝わってきて顔が熱くなる。なんだか無性に恥ずかしくなり、彼女の方を向けないままそっとやさしく握り返した。

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