第28話 学校一の美少女と読書
緊張してお茶をすするが、妙な雰囲気の静寂が収まることはない。
これ以上この雰囲気に耐えきれず、唐突かもしれないが声をかけた。
「な、なぁ、本はどこだ?早く読みたい」
「あ、すみません。本はあちらの本棚にあります」
「そうか」
指し示された本棚にいそいそと向かう。なんとなくこれ以上2人きりでいることを意識したくなかった。
指定された本棚を見ると、確かにこれまで借りてきた本達がずらっと綺麗に並んでいる。
きちんと順番に並んでいるあたりが彼女の几帳面さが出ている気がした。
まだ読んでいない巻を手に取り、また席に戻る。
彼女は既に机に置かれていた読みかけの本を開いて読み始めていた。ちらっとだけこちらに視線を向けるとまた下を向いてしまった。
俺も彼女に倣って席に着いて本を開く。
読み始めた最初こそ目の前に美少女がいることに注意が逸れて集中できなかったが、すぐに本の面白さにそんなことなど忘れて読み耽った。
相変わらず面白い。よくここまで鮮やかなトリックを思いつくものだ。
最初の方は伏線の怒涛の回収が見事だったが、最近のはそれに加えてストーリでの人物の心理描写も凄い。
どの人物も魅力的で思わず入れ込んでしまうし、主人公の名推理には興奮してしまう。
こんな素晴らしい本を毎日読み放題なんて最高だ。
今年の冬休みは実に充実した日々になりそうなことに、少しだけ先が楽しみになった。
読んでいた本が終わり、今回もいい話だったと満足しながら顔を上げると、彼女がこちらを見ていることに気付く。
「どうした?」
「……前から思っていましたが、本を読んでいる時本当に楽しそうですよね」
「そうか?表情は意識したことがなかったが、実際この本は面白いからな」
彼女に指摘されるということはよほど表情が緩んでいるらしい。
かといって緩まないようにしようにも楽しいものは仕方がないし、俺の力ではどうしようも無い。
だが、やはりどんな表情をしているのかは気になる。もし気持ち悪いにやけ顔をしていたらさすがに恥ずかし過ぎる。
「……なぁ、本読んでいる時の俺ってどんな感じなんだ?」
「どう、と言われても言葉にするのは難しいですね……」
んー、と唸って考え込むように腕を組む。
やはりこういうのは雰囲気など言葉にならないものなので、説明は難しいのかもしれない。
「でも……とても楽しそうで、読んでいる時のあなたは魅力的でいいと思いますよ?だから気にする必要は無いと思います」
俺が聞いた理由を察した彼女は、ほんのりと微笑む。
ふわりと包み込むような穏やかな笑み。温かく柔らかい笑みはあどけなさがあって、一瞬言葉を失わせるほど魅力的な笑顔だった。
「……そ、そうか。次の本を取ってくる」
あまりの可愛さに見惚れてしまった。
俺が変な顔をしていないことを伝えるために褒めてくれたのは分かっているが、じんわりと羞恥が込み上げるのを抑えられない。
頰に熱が籠るのを誤魔化すように席を立つ。脳裏に焼き付いた彼女の優しい笑顔を振り払うために頭を振って、本棚へと向かった。
彼女の笑顔が見れたことは嬉しいが、どうにも心臓が落ち着かなくなる。
これから先も一緒にいるので、同じようなことが起こるかもしれないことにそっとため息を吐いた。
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