第26話 学校一の美少女との冬休み

 無事テストを終えたことで、残すは冬休みを迎えるだけになっていた。

 今日もいつものように彼女の家で本を借りている最中、あることが気になり彼女に尋ねてみることにした。


「本、ありがとな。……そういえば、お前って冬休み何か予定とかあるの?」


「いえ、特にありませんけど。家で読み終わってない本を読むつもりです」


 なんとなくそんな気はしていたが実際そうだったらしい。

 案の定というか予想通りというか、彼女らしい過ごし方に苦笑してしまう。


「あまり遊ぶ友人はいないですし、たまにある男性からの誘いは基本的に断っているので、どうしても空きますね」


 塩対応の彼女はガードが固いので、淡い期待を込めて誘った男子達がバッサリ切り捨てられたことは容易に想像できた。

 本当によく誘えたものである。俺ならそんな断られ方をされたら立ち直れなさそうなので出来そうにない。


「……私とそんなに過ごしたいんですかね」


「まあ、あわよくば付き合うのを狙っているんだろうな」


「付き合うなんて……興味もありません」


 今のセリフを聞いたら涙目になりそうな男性達を心の中で慰めておいた。


「なんとなくそんな気はしていたが、一片も興味ないのか?」


「ないですよ。あの下心丸出しの人達と付き合うなんて考えられません」


 彼女のような塩対応の人間に対して積極的にいける人間なんて限られている。

 本当に好意を寄せている人なら、彼女の対応に二の足を踏むだろう。

 ある意味選別された結果、彼女に話しかける人間には悪い男しかいないのかもしれない。


「……まあ、ちゃんとお前のことを見て誘ってくれる人もいるから、あんまり無下にはしないでやってくれ。下心を持っていない人間かは分かるだろ?」


「ええ、さすがに分かりますよ。あなただって違うでしょう?最初から私に興味なさそうでしたし」


「まあな」


 多少撫でたいといった欲求に駆られたことはあるが、それは小動物に抱く衝動に近い。それ以外に彼女に何かしてやろうという気は一切ない。

 もしそんなことを考えていたならば、すぐに気付いて彼女は俺から離れていただろう。


 安全な男だから一緒にいられるのであって、仮に牙の一つでも見せたら彼女はすぐにいなくなる。


 今のところ特に彼女が欲しいというわけでもないし、本を借りれなくなる方が死活問題なので、今の関係を変えるつもりはさらさらなかった。


「だから信頼してます」


「そりゃあ、どうも」


 男としてはどうなんだという信頼のされ方だが、無害な男という認識に不満はない。


「……それで、聞いてきたあなたの予定はあるんですか?」


「いや、一切ないよ。お前と同じように家で過ごすだけだ」


「じゃあ、なんで聞いたんですか?」


「いや、本の貸し借りをどうするか気になってだな。互いに出かけることは無さそうだし、当分の間はなしでいいか?」


 もともとインドア派で出かけることは億劫なタイプなのだ。

 あのシリーズは読みたいところだが、わざわざ借りに行くためだけに出かけるのは面倒くさい。


「なるほど、そうですよね……」


 俺の提案に彼女は目をぱちくりと瞬かせ、ほんの少しだけ眉をへにゃりと下げた気がした。


「……それでも構いませんが……よかったら私の家で一緒に過ごしますか?」


「はい?」


 何か考え込むようにしたかと思えば、とんでもないことを言い出した。

 思わず彼女のことを見返してしまうが、特に変わった様子はなく平然としている。


「だから、私の家で一緒に過ごしますかって言ったんです」


「いや、それは聞こえてる」


 さすがに俺の耳はそこまで遠くない。まだ現役の高校生だしな。そうではなくて、その突飛な発想に至った経緯を聞きたいのだ。


「私の家ならその本全部読めますし、いちいち持ち帰る必要もなくなります」


 なるほど、確かにそうだ。

 彼女の家なら全冊あるはずだし、一日中いるならば何冊も読めるだろう。それなら出かけるだけの価値がある。だが……。


「いや、でもな……」


 そう、相手は女の子なのだ。これで同性だったなら何も憚ることなく行くことしたが、異性なのだ。

 彼女が信頼してくれているから提案してくれたのは分かっている。

 こちらとしても別に意識していないし何かをする気もないが、若い男女が同じ部屋で過ごすというのは、なんというか心臓に悪そうで気まずい。


「いいんですか?読み放題ですよ?」


 そんな俺の苦悩をからかうかのように魅力的な言葉を口にしてくる。

 そんなこと言われてしまえばますます決断が鈍ってしまう。


「……それにもう少し感想とか語り合いたいです」


 これまでも感想を言い合うことはあったが、外であったためあまり長く語ることができなかった。やはり同じ本を好む者同士、もっと語りたかったのだろう。

 眉をへにゃりと下げて小さく望みを口に出されればもう断れるはずがない。色々思うところはあったが、彼女にそう言われてしまえば頷くしかなかった。


「……分かった。それで頼む」


「はい、分かりました」


 俺の返事にほんのりと口元を緩め、ぱあっと目を輝かせる。

 小さく笑った彼女はなんだか直視しにくく、さりげなく顔を背けた。

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