第14話 バイト先の彼女に相談してみた
斎藤には感謝している。あれだけ何度も本を貸してもらっているし、本は一冊だけとはいえ毎日持ってくるのは、それなりに面倒さもあるはずだ。
それでもきちんと持ってきて貸してくれるので、その誠実さに最近は頭が上がらなくなりつつある。
それだけお世話になっているので、何かお返しをしたいと思って考えついたのは、彼女に親友と呼べるような人物を作れるよう手助けすることだった。
だが、思いついたはいいもののどうやって手助けをしたらいいか分からない。
なにか参考になるものがないか考えたときに、バイト先の彼女のことを思い出した。
彼女にはどこか学校一の美少女の斎藤と似た雰囲気がある。彼女の話を聞けば、何かしらのヒントを得られるかもしれない。
「柊さん、少しいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
バイトが終わった後にそう尋ねると、柊さんはこてんと小さく首を傾げた。
「柊さんって親友と呼べるような人とかいますか?」
「……はい?突然なんですか?」
どこか警戒するような声。話し出してから思ったがさすがに話の内容を飛ばしすぎた。
慌てて俺は彼女の警戒を解くべく、どうしてその質問に至ったのか、その経緯を説明した。
「あ、いえ、実は…………」
「なるほど、そういうことでしたか。それなら先にそう説明してください。急に質問してくるから驚きましたよ?」
はぁ、と小さく息を吐いて呆れるように言ってくる。
「それはすみません」
「まあ、いいでしょう。結論から言うと私にはそこまで信用できるような人はいませんね。友人付き合いはしていますが、特定の誰かと親しくしたことはこれまでありません」
ツンと冷めた声でバッサリと切り捨てるようにする柊さん。どこか苦虫を噛み潰したように眉をひそめる。
彼女の返答はある意味予想通りだった。バイトでしか話さないので、それ程彼女のことを知っているわけではないが、それでも何度も同じ仕事を一緒にしていれば必然とある程度の性格は分かってくる。
無愛想で警戒心が強く、人見知りをしがちなのは、教育係として教えてもらうようになってすぐに察した。
そんな彼女に沢山の親友がいるとは思っていなかった。もし1人でも親友に近い人がいたらその人について聞いて参考にしようと思ったのだが、どうやらいないらしい。
「そうですか……」
「ただ……」
「ただ?」
いないみたいなので、彼女の話を参考にするのを諦めようと思ったのだが、彼女が何か言いかけたので聞き返す。
「前に助けてもらった人、知ってますよね?もし、親友になりそうな人という意味でならその人かな、とは思います」
「その人ですか?」
「ええ、あの人は今までで1番気を使わずに話せる人ですし、素の自分をそのまま受け入れてくれている気がするので話していて落ち着くんです。まだ出会ってからそれ程経っていないですし、ああいった感じの人は初めてなのでまだ分かりませんが……」
前の時よりもさらにふんわりと柔らかな雰囲気になって、温かな声で想いを零すように呟く柊さん。
普段のきつい態度と異なるギャップに思わず目を惹きつけられる。
彼女の言葉の端々からその人に対して心を開いているのが伝わってきた。
(おお、これは……)
ほんのりと口元を緩ませ、ふわりと花が舞うように微笑んだ姿はとても魅力的で、その話し振りから前より幾分か信頼し、仲が深まったことは容易に想像出来た。
友人か異性としてかは分からないがどこか好意を寄せているようにも見えた。
「……いい人と巡り会えましたね」
「はい、あまりあなたの参考にはならなさそうですけど」
「まあ、そうですね」
期待していたものとは違い、2人で見合って苦笑するしかなかった。
結局、信頼出来るような人物というものは、偶然的な要素が強く、俺がどうこうしようとしたところでどうしようもないのだ。
斎藤には自分で頑張ってもらうとしよう。
そう結論に至った俺は親友を作る手助けをする計画を断念した。
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