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 倉敷美観地区傍の古い住宅地。

 結構な築年数の一軒家だ。まほろば堂とは目と鼻の先にある。


 午後の十時過ぎ。忍は自宅である中邑家のリビングで、ソファに寝そべりテレビを鑑賞していた。


 惚れた晴れたのよくある恋愛ドラマだが、主演のアラサー女優は古い知人が経営する事務所の看板タレント。その女社長の愛弟子なのだ。


「この娘、美人で可愛くて演技も上手いんだけど。ちょっと役のパターンが凝り固まっちゃってるわよね」


 こうやって、ついついチェックを入れてしまう忍だった。


「事務所的に清純派のイメージを大事にしてるのは分かるんだけど。悪女とかコメディとか色んな役に挑戦させないと。この先、芸能界の荒波を渡りきれないわよ」


 ウィスキーのロックグラス片手に、上から目線で駄菓子『ジューC』のソーダ味を摘まむ。地元カバヤ食品のロングセラー商品だ。


 ラムネ菓子をボリボリとかじり、ウィスキーで流し込む。ソーダ割りのつもりなのだろうか。


「母さん、今日も病室に泊まりかしらね」


 中邑家は、父親と母親と忍との三人暮らしだ。


 しかし父は半年前から重い病気を患い、近所にある倉敷総合病院で入院中。以来、母はずっと病室と家との往復生活をしている。なので最近は、家でひとりでいることが多い忍だった。


 料理は苦手だ。このところは、近所のまほろば堂に頻繁にお邪魔して、望美の手料理を真幌と共に頂いたりしている。


 白いローテーブルの上の駄菓子の水色キャップに手を掛けた刹那、横に置かれたスマートフォンに着信があった。


「はい、もしもし」

『あ、もしもし忍ちゃん? 久しぶり』

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