ただ・・ VRホラーゲームをプレイしただけなのに・・
Cytus-t
ただ・・ 軽い気持ちだったのに・・
病室の並んだ、薄暗い廊下を懐中電灯で照らしながら歩く・・
----コツコツコツ・・
響くのは、僕の足音だけだ。
窓の外は、シトシトと雨が降り続いている。 時折吹く風が、窓をカタカタと鳴らす・・
(さっきから背後に、気配を感じるな・・ 何か、悪寒もする・・ )
思い切って、後ろを振り向いてみるが・・
(やっぱり誰もいない・・ )
視線を前へ戻し、再び薄暗い廊下を恐る恐る進むと、廊下の突当りに角が見えてきた。
ここで僕は、一旦歩みを止めた。
廊下は変わらず不気味な静けさを保っている・・ 響くのは、僕の呼吸と雨音・・
再び風が、窓をカタカタと鳴らす・・
(こんなとこ、一人で来るんじゃなかったな・・ )
----キーン・・
僕は、その時、急な耳鳴りに襲われた。
「うっ・・!! 」
少しして耳鳴りが治まると、前方の廊下の角から、何者かの気配を感じた。
(なんなんだよ・・!? )
角からゆっくりと影が姿を覗かせると・・ スッ・・っと音も無く、メスを手に握った、全身浅黒く血にまみれた、小学生くらいの少女が現れる・・
「フフフフ・・ 」
「ひぃ・・!! 」
どす黒い、ベタりと湿った長い黒髪、前髪の一部は、頬に張り付いている・・
顔は・・ ど真ん中を大きく刳り貫かれ、向こう側が見えていて、口なんてないはずなのに、クスクスと笑い声を発している・・
もちろん、目だって存在していないはずなのに・・ 少女は僕の方へと真っ直ぐ、宙を滑る様に、音もたてず、じりじりと迫って来る・・
「うわぁぁぁ・・!!」
僕は、急いでもと来た方向へ、踵を返した。 そして、必死に薄暗い廃病院の中を疾走する。
「くそ・・!! これじゃあ、落ち着いて探索も出来ないじゃないか!! 」
そう言いながら、とにかく逃げ回り、あの異形のモノを巻こうと必死に走った・・
--------「おぅ! 雄二! これ、さっき偶然見つけた店に売ってたんだけど、一緒にやってみない? 」
夏休みの課題を終わらせた僕は、偶然見つけたホラーゲームを衝動買いし、帰宅途中に雄二を見かけ声を掛けた。
「おぅ! 秀夫じゃん! なんだそれ? 新しいゲームか? 」
「いや、中古品らしいよ、気になったから買ってみた! かなり安かったし・・ 」
「フルダイブ型のVRホラーゲーム、”Her Madness”だってさ・・ 」
「聞いたことないな。 彼女の・・ 狂気?? 何か、いかにもって感じだな! 」
「だろ? 何かやたらと気になって、買ってみたんだけどさ、一人じゃキツそうじゃん? だから、お前もどうかなって思って・・ 」
雄二は少し黙り、考えているようだった。
「秀夫がそのゲーム買った店って、どこにあんの? 」
「え? 学校の近くの、コンビニの裏手だよ! 連れてってやろうか? 」
「んー・・ そんなところに、店なんてあったっけ? 」
「俺も、さっき初めて見つけたんだよ・・ 」
雄二は首を傾げながら、再び考えると口を開く。
「いや、俺は、パス・・ 何か知らないゲームだし、そもそも俺がホラー系苦手なの、秀夫も知ってるだろ? ・・じゃあな! 」
そう言うと雄二は去っていった。
(しょうがない・・ じゃあ、一人でやってみるか、今夜ログインして進めてみよう・・ )
夜になり、風呂から上がると、僕は自室のベッドに横になり、説明書を確認しようとパッケージを開いた。 どうやら中古なだけに、説明書は入っていなかったようだ。
(プレイしながら覚えればいいか・・ )
”Her Madness”をセットすると、VRギアを装着し、電源を入れた。
気が付くと、この廃病院の入り口のロビーに、懐中電灯を手にし、立っていたのだった。
(オープニングとか、初期設定とかはないのかな・・?) --------
一度、後方に目をやると・・ 尚も背後から顔のない少女が、クスクスと笑い声を上げながら、追ってくるのを確認する。
スピードはそこまで早くはないようだが、それでもずっと追ってきている。
(まだついてくるのかよ!! やっぱり、一人でやるんじゃなかったな・・ )
院内の廊下を、息を切らしながらも走り、[非常階段2]と記された、金属の扉に手をかけると扉を開き外へ飛び出した。
(やった・・! 鍵は掛かってなかった・・! )
非常階段に出ると、吹き込む雨で少し濡れた階段を、必死で駆け上がり逃げた。
そして、途中で[3F]と記された扉を開き、院内へと戻った。
院内へ戻ると、すぐに大きめに作られた、ナースステーションへ駆け込み、棚の陰に身を隠し、様子を窺う・・
呼吸を整えながらも、息を殺し・・ 察知されないよう、細心の注意を払い、静かに周囲に目をやった・・
----ドクン・・ ドクン・・
心臓の脈打つ音が、大きく感じられる。
「フフフフ・・ 」
徐々に不気味な笑い声が迫ってくるのを、僕の聴覚が捉える。
(ヤツが・・ 来る・・ )
僕は、懐中電灯を消すと、身体を極限まで小さくし、棚の陰に身を隠す・・
グッと目を閉じると、手のひらを合わせ、祈りを捧げた。
(頼む・・!! 気付かないでくれ・・ どっかに行ってくれ・・!! )
「フフフ・・ 」
恐らく・・ あの異形のモノは、僕が潜むナースステーションの前で動きを止めたのだろう・・
ずっと一定の音量で、クスクス・・ という笑い声を、聴覚が捉え続けている。
僕は身体をガタガタと震わせ、額からは滝のような汗が流れる・・ そして背中にも、背筋をなぞるように、大量の汗が流れるのを感じる・・
(もう・・ ダメか・・ 俺、死ぬのかな・・ )
と、その時、徐々に笑い声が遠ざかって行くのを感じた。
僕は、ゆっくりと目を開き、正面に視点を合わせる。
ヤツが去ったあと、院内は静寂に包まれた・・ そして、一気に全身の力が抜けた。
僕はそのまま、しばらくはそこから動けないでいた・・
「よし・・ もうさすがに、いないだろ・・ 」
一度、深呼吸をし、態勢を整えると、僕は院内を探索するため、立ち上がる。
何とかヤツから逃れた僕は、周りを警戒しながら、ナースステーションを出ると廊下を歩き、進行方向の奥に見える、エレベーターホールへと向かう。 まだ、足は震えていた・・
エレベーターの前へ着くと、ボタンを押してみた。 が、やはり反応はない。
「だよな・・ とりあえず最上階から調べてみるか・・ 」
僕は、エレベーターホールの近くから繋がっていた階段を、更に上の階へと上がった。
極力足音を抑え、慎重に警戒しながら階段を上っていく。
(大丈夫だよな・・ 出てこないよな・・? )
----コツコツコツ・・
階段に響くのは、僕の足音だけだった。
この廃病院の最上階である5Fまで着くと、壁のフロア案内を確認し、一番手前の病室から順番に調べて行くことにした。
[501]と記された病室の前へ立ち、引き戸式の薄汚れた白い扉へ手を掛けると、不意に扉の向こう側から気配を感じた気がした・・ 僕は、急に鼓動が速まるのを感じた。
一度、深呼吸をし、左にゆっくりと・・ 慎重に扉を引いた・・
----ギギギ・・
と、レールが錆び付いた扉が、音を立てて開くと同時に、緊張が走る・・
が、そこには、カビ臭さと、真っ暗な空間だけが、広がっていたのだった。
病室内は、カーテンが閉まっていて暗く、懐中電灯の明かりでやっと歩けるくらいだった。
(真っ暗だな・・ なんか潜んでたりしないだろうな・・ )
ゆっくりと懐中電灯を左右、上下に向けながら奥へと進む。
視界の限られた、病室内を慎重に歩いていると、不意に僕は何かに足を滑らせた。
「うわっ・・! (なんだ・・!? )」
恐る恐る懐中電灯を足元へ向けた・・
「ひっ・・!! 」
足元を見ると、床にはまだ乾いていない、赤い血溜まりがあった。 急な血痕を目にしたことで僕の心拍は、速まった。 恐怖で反射的に辺りを懐中電灯で照らしてみるが・・ 何もない・・
(ふう・・ 何かいるわけじゃないようだな・・ )
病室の奥まで行き、恐る恐る、窓のカーテンを開くと、窓の外の雨は止み、月が顔を出していた。 その月明かりに、僕は少し安堵した。
月明かりを頼りに、病室内へ視線を戻すと、カーテンでいくつかに仕切られた、薄汚れたベッドが数台、視界に入る。
その内のひとつはカーテンが閉じられていた。 一気に緊張が走り、僕は息のんだ・・
(なんで、ひとつだけカーテンが閉じてあるんだ・・? )
ゆっくりと、カーテンが閉じられたベッドへと近づく・・ そして恐る恐るカーテンに手を掛け、一気に開いた・・
(うっ・・ )
薄汚れたベッドには、大きな黒ずんだシミがベットリと付着していた。
(これは・・ 血痕・・? )
嫌な想像をさせる光景だ・・ だが、まあホラーゲームとはこういう物だろうと、自分に言い聞かせたとき、急に足元を何かが通り抜けた。
「うわっ!! 」
反射的にベッドから飛び離れ、距離を取る。
「チュー 」
「なっ、なんだ・・ ネズミかよ・・ 」
僕は、ホッと胸をなでおろした。 一旦気持ちを落ち着かせると、何か使えそうなものはないか室内を物色した。
(この部屋は特に収穫無し・・ か・・ )
ある程度室内を物色し終えると、次の病室へ向かうことにした。
「次は隣の病室か・・ 何かあればいいのだが・・ 」
それから、ひとつひとつ、真っ暗な病室へ入り、カーテンを開け、月明かりを入れると、病室内を漁るが、一向に何も見当たらない。
あるのは、薄汚れたベッドと血痕くらいだった。
人間と言うのは不思議なものだ・・ ゲームということもあってか、徐々にこの状況に適応してきている自分がいた。
(あいつさえ出てこなければ、どうということはない・・ )
そう思いながら、何とか5Fの探索を終えた。
僕は、次に4Fの探索をすべく、階段のあるエレベーターホールへと向かうことにした。
ホールへ向かう途中、ふと、ナースステーションを見かけ、中へと入った。
(さっきは気が動転してて、頭が働いてなかったけど・・ この中になにか使えそうなものとかないかな・・ )
僕は念の為、ナースステーション内も物色することにした。
が、見つかったものと言えば、電池くらいだった。
(懐中電灯用に持っていくか・・ )
しばらくは、ヤツと遭遇することもなく、落ち着いて探索をする事ができた。
4F・3Fと順に探索を終え、次の階へ行こうと、エレベーターホールへ向かおうとしたときだった・・
----キーン・・
急な耳鳴りに襲われた・・
「うっ・・!! ヤツだ・・ あいつが・・ 来る・・!!」
僕は急いで引き返し、一番近くにある病室へ駆け込んだ。
「フフ・・ フフフフ・・ 」
(やっぱりだ・・ あいつが・・ 来た・・ )
僕は、息を殺し、病室に身を潜めると扉に耳をあてた。 そして、聴覚を頼りに扉の向こう側を徘徊するヤツの様子を窺った・・
----ギギギ・・
どこかで扉の錆びたレールの音がした。 そして、また次の扉を引く音がする・・
(ヤバい・・ あいつ・・・ 一部屋ずつ扉を開いていってる・・ )
徐々に音が近づいてくる・・ 一つ・・ 二つ・・ と扉が開かれていく。
このままでは、まずい・・ 僕は、ひとつ扉が開く音がする度に、命の危険が迫ってきているのを感じた。 僕が身を隠す病室へと、笑い声が尚も近づいてくる・・
----ギギギ・・・
そして、とうとう僕の潜む病室の扉が開かれた・・
「フフフ・・ 」
(ヤツが・・ 入ってきた・・ )
僕は、ヤツがこの部屋に入ってくる前に、急いでベッドの下へと身を隠した。
そして、ベッドの下で頭を抱え、小さく身をまるめた・・
(頼む・・!! 早くどっか行ってくれ・・!! 絶対、気付くなよ・・ )
じっと息を殺し、必死に身体の震えを止めようと、歯を食いしばる。
(生きた心地が・・ しない・・ )
この・・ 今、目の前にある恐怖の時間が、まるで永遠のように長く感じた。
----ガタン・・
扉の閉まる音と同時に、何か鈍い音もした・・ 気がした・・
が、徐々に不気味な微笑みが、遠ざかっていく。
(助かった・・ )
急に全身の力が抜けた。 そして、頭を抱えていた両腕をゆっくりと緩め、少しずつ視界を前に向けていくと、鉄のような臭いが嗅覚に刺さり、何かの物体を視覚が捉えた。
黒い毛のような塊、そのまま視界を進めていくと、赤く変色した皮膚のようなモノが視界に入ってくる。
「ん゛ッ・・!! 」
再び身体が、急硬直すると共に、両手で口を強く塞ぎ、目を見開いた・・
頭だ・・ 目や鼻や口はなく、傷口からは、血に染まった床が見えていて、首から下はない・・
目の前には、真っ赤な血溜まりが広がっていた・・
「お゛ぇ゛ぇぇ!! 」
急に吐き気を催した。 目の前におぞましい光景が広がっている。
僕は急いで後退し、ベッドの下から出ると、その姿勢のまま距離を取った。
「はぁ・・ ヒュー・・ はぁ・・ ヒュー・・ 」
呼吸は全然整ってくれない。 すぐには、立ち上がることも出来ない。
どうやら、腰が抜けてしまっているようだ。
それでも、その場所から一秒でも早く離れたい僕は、その物体を見ないよう、視線を逸らしながら、何とか病室から這い出た。
病室から這い出た僕は、扉に背中を預け、立ち上がれる力が戻るまで待つことにした。
(今、ヤツが戻ってきたら、完全にアウトだな・・ 動けないや・・ )
僕は、いつ訪れるかも分からない恐怖に耐えながらも、身体が再び動くのを待った。
「さっきのアレ・・ 誰か別のプレイヤーが、ゲームオーバーになったのか? でも、今の所、別のプレイヤーには、遭遇してすらいないよな・・ みんなやられちゃったのかな・・? 」
しばらくすると、僕はやっと立てるようになった。
ゆっくりと立ち上がると、再び下の階へと向かうことにした。
下の階へ向かうため、エレベーターホールを目指す。 先程アレと遭遇したせいで足の震えが治まらない。 それでも何とか歩きホールへ近づいたとき、ふと、違和感を覚えた。
(背後に、気配を感じる・・ 何者かに見られてる・・? )
嫌なイメージが、頭の中を駆け抜けた。 意を決し後ろを振り向いた。
(誰もいない・・? 気のせい・・? )
ひとまず視線を前に戻し、歩みを進めた。 そして、ホール脇の階段へと辿り着いた。
足音を抑え、慎重に階段を下ると[4F]と記された、壁のフロア案内を確認した。
「よし、ここも手前から調べて行こう」
僕は、ゆっくりと歩きだした。 懐中電灯で照らしながら、薄暗い廊下を進むと、[401]と記された病室が見えてきた。 ふと、また違和感を覚えた。
(やっぱり気配を感じる・・ ずっと見られてる気がしてならない・・ )
後ろを振り向き、懐中電灯で照らしてみる。 が、やはり誰もいない・・
----キーン・・
(この感じは・・ ヤバい・・ また・・ )
僕は急いで病室へ駆け込んだ。
扉に耳をあて、廊下の状況を確認する・・ が、あの不気味な微笑みは感じられない。
(あれ・・? おかしいな・・ )
とりあえず僕は安堵した。 その時、すぐ背後に気配を感じた。
(まさか・・!! )
呼吸が荒くなる。 心臓の鼓動が、うるさいくらいに感じられる。 額と背中に滝のような汗が流れる・・ 僕は、恐る恐る背後を振り返り、懐中電灯で照らす。
すると、視界に何者かの影を捉えた。
「うわぁぁぁ!! 頼む・・ 殺さないでくれ!! 」
足は震え、呼吸は更に速まり、心臓は破裂しそうだ。
その場に立っていることさえ困難だ。
(もう、ダメだ・・ 殺される・・ )
「お兄ちゃん、眩しいよ・・ 」
急に暗闇の何者かが、声らしきものを発した。
「えっ・・? 」
僕は動揺しながらも、震える手で握ったままの懐中電灯で、目の前の存在の姿を照らしたまま、目を細め凝視し確認した。
「女の子・・? 」
シャーという音と共に、急に病室内に月明かりが射し込んだ。
「これで少しは見えるでしょ? だから、懐中電灯消してよ、眩しいから」
窓際には月明かりをバックに、可愛らしい女の子がぬいぐるみを抱き立っていた。
「えっと・・ キミは・・?? 」
「その前に、懐中電灯・・ 」
「あっ・・ ご、ごめん・・ 」
僕は懐中電灯を消した。
このゲームを開始してから、初めて会った”普通の人”に僕は安堵した。
そして、徐々に心拍は治まり、汗も引いて行った。
今いる、この場所は、天国のように感じられた。
気持ちが落ち着くと、僕は目の前の少女に話しかけた。
「俺は秀夫! キミは? 」
「秀夫。 そう・・ 私は真奈。 お兄ちゃんもここに隠れにきたの? 」
「うん、そうだよ。 そっか、真奈ちゃんか、よろしくね! 真奈ちゃんもここに隠れてたんだね 」
「そう、お外は危ないから・・ 」
真奈の言う通りだ、病室の外はいつヤツと遭遇するかもしれない地獄だ。 タイミングが悪ければ身を隠せないし、ひたすら追われるだけだ。
「そっか・・ 真奈ちゃんはいくつ? 」
「9歳・・ 」
「じゃあ、小学校四年生くらいかな? 」
「ううん、三年生」
そう言いながら真奈は、指を三本立て、手で学年を示した
しばらくは、穏やかに真奈と話をしていたが、ふと、真奈が抱くぬいぐるみが気になったので、僕は彼女に尋ねたのだった。
「真奈ちゃん、そのお人形は? 」
「これは、ヒデオくん! 真奈のお友達だよ! 」
「へぇ、そうなんだ! 俺と同じ名前だね! ちょっと抱かせて? 」
「うん! いいよ! 」
そう言うと真奈は、ニコニコしながら僕に人形を手渡した。
普通のモコモコした手触りのクマのぬいぐるみだ。 真奈からぬいぐるみを受け取ると、自分の方へとぬいぐるみの顔を向けた。
「ひぃ・・!! (顔が・・ ない・・ )」
「お兄ちゃん? どぉかしたの? 」
きょとんと首を傾げながら、真奈は、僕の顔を覗き込んだ。
「あ・・ いや、お顔がなかったから、ちょっとびっくりして・・ このヒデオくんのお顔は・・? 」
「どっか行っちゃたの・・ だから探してるの! 」
そう言うと真奈は微笑んだ。
僕は少し気分が悪くなったので、ぬいぐるみを真奈へと返し、話の内容を変えることにした。
「真奈ちゃん、この病室に来るまでに、何かなかった? クイズみたいなもの・・とか? 」
「ううん・・ 真奈、何も見てないよ? お兄ちゃん、何か探してるの? 真奈も一緒に探してあげよっか? 」
「あ、ううん・・ 見てないなら大丈夫だよ! 」
「そう・・ 」
特に真奈も謎解きらしきものは、発見できていないようだった。
----キーン・・
(まただ・・ ヤツだ・・ このままでは、真奈ちゃんも危ない・・ )
僕は真奈を抱き抱えると、病室のベッドの下へと身を隠し、呼吸を整えた。
「お兄ちゃん、急にどぉしたの? 」
「しっ・・!! 真奈ちゃん、怖い人来るかもしれないから、静かにして・・ 」
「うん・・ わかった・・ 」
僕は息を殺し、耳に全神経を集中させた。
病室内は静寂に包まれている。 いつまで経っても、不気味な笑い声は聞こえてこない。
「あれ? 」
「お兄ちゃん? 」
僕はベッドの下から這い出ると扉に耳をあて、何も聞こえないのを確認すると、真奈をベッドの下から出させた。
「真奈ちゃん、ごめん、勘違いだったみたい・・ 」
「そぉなの?」
「うん、ごめんね! 」
そう言うと僕は真奈の頭を撫でた。 少し寒いのだろう、真奈の頭は少し冷たかった。
そして、少し黙り考え結論が出た。
(結局、どこに謎解きがあるかも分からないし、俺一人だとキツそうだし、今日は一旦ログアウトしよう・・)
僕はログアウトをするため、メニューセレクトの画面を開こうとした。
「えっと、メニューセレクトはと・・」
「お兄ちゃん、どぉかしたの?」
「あ、えっと・・ 俺、一回ログアウトするね! 」
「えっ・・? お兄ちゃん、どこか行っちゃうの? 」
「うーん・・ ちょっとだけ待てて・・ ね?」
真奈は僕の服の端を掴んだ。
「一人はヤダよ・・ 寂しいよ・・ お兄ちゃん、真奈こと、置いて行っちゃうの? 」
「大丈夫だよ・・ すぐに帰ってくるから! ね?」
僕を止めようとする真奈をなだめ、尚もメニューセレクト画面の表示を試みた。
だが、いくら探しても、何をやってみても、それらしい画面は現れない・・
(あれ・・? メニューが・・ 無い・・? )
その時・・ ふと、真奈ちゃんに違和感を覚えた・・
そもそも、小学三年生が、こんなゲームをやるだろうか?
むしろ、VRゲームなんて、やっていいのだろうか・・? と・・
「ダメだよ、お兄ちゃん・・ 真奈のコと、置いテ行カナイデヨ・・ フフ・・ 」
「真奈・・ ちゃん・・? 」
「ねぇ・・ お兄ちゃんノ、オ顔・・ 真奈ニチョウダイ・・ フフフフフ・・ 」
「えっ・・? 」
--------[えー、今日のニュースです。 今朝早く、東京都・・・ に住む・・ 秀夫さん・・
が・・ 自宅のベッドで・・・・ 遺体で発見・・ は・・ 顔を刳り貫かれて・・・・ ]--------
ただ・・ VRホラーゲームをプレイしただけなのに・・ Cytus-t @cytus-t7785
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