第7話 御手並み拝見2

先制されたが、こんな所でおわれない。

呼吸を整え、元いた場所へと戻る。


マリウスは再びファイティングポーズをとった。


「…案外根性あるのね。」


カエデは感心したのか、嬉しそうに目を細めた。


「まだまだ、これからです!」


マリウスはそう答えるなり、カエデへと殴りかかった。女性を殴ってはいけないと小さい頃から孤児院の先生から教えられていたので、罪悪感が凄かった。

しかしそんな迷いの拳が届く訳もなく、あっさり避けられて顔面にカウンターをくらった。


「ふごっっっっっっ………」


脳が揺れたのか、自然と視界がぼやける。

膝をつきそうになり、まずいと思った時にはもう遅かった。

ストレート。ボディーブロー。ハイキック。

まるでサンドバッグのように、為す術もなくやられ続けた。

そして最後に前蹴りが腹に突き刺さり、再び壁へと吹き飛ばされると_______________







今度は激突せず、マリウスは何故か床から数メートル離れた壁に張り付いていた。

体からは黒い炎が亡霊のようにゆらゆらとと出ていて、右手には黒い槍のようなものが握られている。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


息を切らしながら、マリウスは床に着地した。

なんとも言えない不思議な感覚だ。

別に炎だからといって熱い訳では無いが、体から何かが出ている感覚があって変な気分だ。


「おおー!!!カッコイイじゃん!」


カエデはカブトムシを見つけた子供のようにはしゃいでいる。


「…形態変化系みたいだな。だが、なにに変わったんだ?…まぁいいか。」


ロキはマリウスをちらりと見て、またすぐに読書に戻ってしまった。


「もうやだ…絶対モテるだろ………。てかこん中で俺だけはずれやん…足速いやつがモテるのは小学校低学年だけなんだよ…」


何を言っているのかよくわからないが、ユースケは涙目になって項垂れた。


********************


そこから数時間。ぶっ通しで訓練をした。

ユースケも稽古をつけてくれた。ユースケは何故か目を真っ赤にしながら襲いかかってきたので、カエデとは違う迫力があった。

ロキの終了の合図と同時に、マリウスは床に座り込んだ。


「ふぅー。お疲れ様〜!」


カエデはタオルで汗を拭きながらマリウスの肩をポンポン叩いた。


「み、皆さんありがとうございました!!!」


マリウスは頭が落ちるんじゃないかと思ってしまう速さで深々と礼をした。


「いいってことよ!…ただお礼がしたいならマジで女の子を紹介しろ。」


ユースケはマリウスの肩に手を置いたかと思うと、脱臼するんじゃないかというレベルで力を入れてきた。もう意味がわからん。


「い、痛いですよ…!!!僕高校に友達なんていないですよ…」


「あ…………そうなん。なんか、ごめん。」


ユースケはとても申し訳なさそうに手を離し、先程の強さとは真逆で、優しく背中を撫でてくれた。

なんとも言えない虚無感がマリウスを襲った。


マリウスが床に座り込んでいると、


「おい小僧ども。飯だ。さっさと行くぞ。」


1番小僧っぽい見た目のロキがそう言った。

腕を組み、貧乏ゆすりをしている。いかにも「さっさとしろ」と言いたげだ。


「はーい!」


カエデが元気に返事をして立ち上がり、3人も続いて行った。


(…まだまだ使いこなせてないけど、結構いい感じなんじゃないか…???)


まだこの能力が何なのかはイマイチ分からない。

黒い炎と、黒い槍。今日はそれの出し方を覚えた程度だ。

自分がそんなに強いなんて信じられなかったが、マリウスは今日で確信した。

毎日鍛えれば、絶対に強くなれる、と。


マリウスの表情をちらりと見たロキが前を向いたまま口を開いた。


「…言ってなかったが、こいつらは今日の訓練で能力ほとんど使ってないからな。すぐ超えられるなんて勘違いはするなよ。」


「なっ…………。」


驚きのあまり口から出た声を聞いたカエデとユースケは、振り向いて意地悪な笑みを浮かべた。


…まだ、先は長いようだ。


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