騎士の名に懸けて
『それが謝ってる人間のすること……っ!?』
憤るイティラとウルイに、クヴォルオは語った。
「お前達のような平民は
実は言えば此度のことは、殿下の単なる我儘だった。隣国との約定を破ることにもなりかねないと何度も進言させていただいたが聞き入れていただけなかった。殿下にも焦りがおありだったのだろう。第一王子と第二王子が順調に功を重ねていた中で、自身が出遅れているという思いもあられたのだと。
やむを得ず陛下のお耳に入れるために早馬を出したのだが、それが届くまでにと、殿下が家臣を脅して私兵を動かされたのだ。今、陛下の勅命を携えた早馬が我らを追ってこちらに向かっているはずだ。
私はその一部始終を見届けるためにここにいる。そもそもは殿下が納得してくだされば帰るつもりだった。カシィフスが現れたのはまったくの偶然だ。確かに奴が潜伏しているという見立てはあったがな……」
けれど、そんな彼の言葉に、
「……私達がそんな話、信じると思うのか…! こんなことされて……っ!」
イティラは、怒りのあまり体が震え出していた。ウルイに酷いことをしておいて勝手なことばかりを言う人間に対する憤りで、頭がおかしくなりそうだった。
「ああ、貴君らには私の言を信じる義理は確かにない。しかし、私には嘘を言う理由がない。そんな嘘で貴君らを丸め込むよりも、この場で国に仇なす者として切り捨てた方がよっぽど手間が省けるというものだからな」
「……な……っ!?」
「貴君らが承諾してくれるのであれば、此度のことは、騎士クヴォルオ・マヌバゾディの名に懸けて穏便に済ませることを約束しよう」
すると、クヴォルオが語り終えるのを待っていたかのように、崖の上が突然騒がしくなり、
「殿下! 殿下ぁ! 陛下からの勅命です! 直ちに兵を引き上げ、領地へお戻りになるようにと……!!」
国王からの勅命を携えた伝令が息も絶え絶えで告げるのが、崖下まで届く。
「……!」
瞬間、クヴォルオの体から力が抜けるのを、ウルイは感じた。表情が緩むのを、イティラは見た。
これにより、ようやく、本当に終わったのである。
「……! 総員、撤収!! 屋敷に戻るぞ……!!」
明らかに不満げな声ではありつつ王子が命じると、兵士達にもホッとした空気が広がる。
結局、今回のことは王子の独断による暴走であると、この場にいた兵士達全員が知っていたということだ。
イティラとウルイは、ただただ、自分達にはどうすることもできない、<雲の上の者達の厄介事>に巻き込まれただけだったのである。
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