無限とも思える

イティラとウルイが自分達と共に戦ってくれていることは、その場にいた兵士達も全員、察していることだった。


にも拘らず<王子>は、二人もろともカシィフスを射殺すことを命じた。


ただ、第三者の目からは非情なように思えるこの判断も、おそらく、<王子>の立場からすれば、むしろ合理的なものだったのだろう。


なにしろそこにいるのは得体のしれない二人組。しかも片方は、カシィフスと同じく<獣人>だ。


となれば、確証もなく、


『自分達の味方である』


と断定することはできなかったに違いない。となれば、むしろそれを上手く利用して、国に仇成す<テロリスト>を討ち取ろうとするのは、自然な発想だったと思われる。あくまで立場の問題なのだ。


クヴォルオもそれを理解すればこそ、敢えて王子に異を唱えなかった。唱えなかったものの、今、この二人を失うのは決して得策ではないと、経験豊かな<武人>としての彼の勘が告げていた。現状、拮抗しているのは、二人の働きがあればこそだ。それが失われれば、カシィフスは兵士達をまず狙うだろう。そして狙われた兵士は、なすすべもなく殺されるに違いない。そこまでの力の差があるのは紛れもない事実。


ゆえにクヴォルオは、敢えて自分の傍に常に二人が位置するようにし、連携攻撃に加わった。


それは、即席とは思えないほどに、息の合ったものだった。


クヴォルオの意図をイティラとウルイも察し、体の大きな彼を盾として隠れ蓑として利用し、攻撃を行う。


ごお、と彼が槍を振るい、カシィフスが身を躱すと、そこへイティラが跳びかかる。イティラが掃われると、さらにウルイが反対側から短刀を突き出す。


本当に、普通の人間なら決して凌ぎ切れるとは思えない見事な攻撃だった。


だが、それでも、カシィフスには届かない。


イティラ達の側にも被害は出ていないとはいえ、まったく有効なダメージを与えられていない。


逃がさないように、離れれば崖の上から無数の矢が雨のように降り注ぐものの、当のカシィフス自身に逃げようという意図が見えなかった。この状況でさえ、勝つ自信があるということなのだろう。


恐らくは、無限とも思えるスタミナがその根拠になっているのだと思われる。


なにしろここまでもう数分間、一瞬も気を抜かずに全力で動き回っているはずにも拘らず、一向に疲れを見せないのだ。


確かに獣人のスタミナは、人間の比ではまったくない。


しかもこれほどの能力を有した獣人ともなれば、それこそ人間の感覚からすれば<無尽蔵>とも言えるものかも知れない。


そうしてここにいる者達が力尽きたところでゆっくりと<料理>し、そして王子の命を狙うつもりなのだろう。


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