キトゥハ
泥まみれの足は家に入る前に洗い、雨具は土間に吊るし、三人は火を囲んで座る。
「イティラだ……親に捨てられて森にいたのを俺が拾った……」
「そうか……」
まったくもって要点だけしか述べない説明だったが、キトゥハもそれ以上問い掛けることもなかった。
炎に照らされて浮かび上がるキトゥハの
けれど、恐ろしくシュッとしていて一部の隙もなく真っ直ぐに座るその姿全体から発せられる気配は、およそ見た目通りの年齢ではないと伝えてくる。
紛れもなくウルイよりも年上であろうと。
それと同時に、とても落ち着いていて穏やかで、イティラの両親ともまったく違っているのも伝わってくる。彼女の両親はとにかく粗野で我儘で短絡的で落ち着きがなく、一言で表すなら、
<幼稚>
な者達だった。何よりも自分が優先されるべきと考えているのが少しも隠されていなかった。
だから些細なことでキレる。自分の思い通りにならないのが許せない。自分の思い通りにするために怒鳴って殴る。
それだけだった。
<大人>ではない。
<歳をとって体だけ大きくなった子供>
だったのだ。
こうやって落ち着いてよく見ると、そんな自分の両親とまったく違っているのが察せられて、イティラも少し安心した。
けれどまだ、よく知らない相手であるがゆえの警戒までは解けない。
そんな中で、黙々と食事にする。
先にも触れたが、食事自体はウルイの家でのそれと大差なかったので、むしろホッとできた。
「すまないな。私も料理はまったくダメだから、これしか出せなくて。
妻が生きていたらもっとマシなものが用意できたんだが」
自分でもとても<料理>とは言えないものであることを自覚しているキトゥハが申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながら穏やかに言った。
しかし正直、これでも生きていくには全く問題がないので、ここにいる誰もそれを気にしてはいないが。
それよりも、ウルイが常にイティラに意識を向けていることを、キトゥハは察していた。
視線を向けるわけでも声を掛けるわけでもないのだが、イティラのことを案じているのは、多少察しのいい者であればすぐに分かるだろう。
だからキトゥハも、表情が緩んでしまう。
『ふ……思ったよりはちゃんとしてるじゃないか……』
ウルイが子供を連れていたことには最初は驚いてしまったが、ウルイの様子を見てもこのイティラという少女の様子を見てもどちらも落ち着いていて互いに相手を疎んでいるわけでないことはすぐに見て取れた。
だからもうこの時点で、ウルイが何のためにここに来て、何を望んでいて、そして自分がそれにどう応えるかも、すでに結論が出ていたのだった。
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