もっと幸せになるべきなんじゃないのか?
翌朝。いつものように夜が明けると同時に二人は目を覚まし、準備を始めた。
何か楽しみがあるわけじゃないので夜は早々に寝てしまい、だから朝が早くても起きられるというのもある。
しかもイティラは、ウルイと一緒にいられることが嬉しいから、起きて彼の姿を見て彼の傍にいることを実感したくて、空が明るくなり始めると目が覚めてしまうというのもあった。
『普段は起こされても起きない子供が、楽しみにしていた遠足の日には起こされなくても目が覚める』
ということがあるが、まさにそれだろう。イティラにとっては毎日が遠足のようなものだったのだ。
だからもったいなくて寝ていられない。
もっともこれは、彼女が安心してぐっすりと寝られるように彼が気遣っているからというのもあると思われる。
そのおかげで、実際、イティラの眠りは深い。少々のことでは目覚めないくらいに。だからこそすっきり起きられる。
一人で生き延びていた間はこんなことはなかった。ほんの些細な物音で目が覚めて、夜の闇が怖くて怖くて毎日泣きながら寝ていた。その所為で、すっきりとした気分で目覚めたことなどない。いつまでも寝ているとそれこそ他の獣に襲われるかもしれないから寝ていられなかっただけだ。
そしてそれは、家族といた時でさえそう。家族の誰かが、何か気に入らないことがあったといっては寝ていた彼女をいきなり蹴り飛ばすことさえ珍しくなかった。寝ていたところを何度も踏み付けられて目が覚めた直後に気を失ったことも一度や二度ではない。ゆえに、起きるしかない。
一口に『寝ていられない』と言っても、その意味するところは<両極端>と言ってもいいくらいに違っている。
それを思えば、ただ安心して寝られるだけでも、
『こんな幸せはない』
と感じられるほどだっただろう。
そう。イティラは今、<幸せ>なのだ。まぎれもなく。
けれど、ウルイにはなまじ人間の世界で生きてきたことで覚えた、
『美味い飯が食えて綺麗な服が着られてあたたかい家に住めて楽しく遊べるのが幸せだ』
という<知識>があるからこそ、
『こんなところにいたら幸せになんかなれるはずがない』
と思わずにいられなかったのだ。
そして、選んで今の生活をしている自分と、親に捨てられて仕方なくここにいるイティラ。その違いが理解できてしまうがゆえに、彼は、
『こいつはもっと幸せになるべきなんじゃないのか?』
そんな風に考えてしまうのである。
だから、今から出掛けるのだ。
イティラが幸せになれるようにと。
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