これ以上は……
『これ以上は……ダメだ……』
自分に対して明らかな親愛の情を向けてくるイティラに、ウルイはそんなことを考え始めていた。
正直、軽く考えていたというのはある。彼自身、十二歳の時に人間社会を見限って獣のように生きてきたこともあって、自分と他者の関係というものについて疎かった。
それでも一応、知人と言うか友人と言うかという存在はいたものの、その相手とはごく
しかし、現在、ウルイが唯一、『人間の感性でもって』やり取りができる存在だ。
加えて、
『あいつなら、子供にも慣れてるはずだ……』
そんな考えが頭をよぎる。
だから、少なくとも、自分よりはきっと……
「明日は、少し遠出する……」
家に帰ると、ウルイはイティラにそう告げた。
「はい…!」
『どこに?』とか、『なぜ?』とか、彼女は問い掛けることもなく応える。彼女にとってウルイの言うことは<絶対>であり、疑問をさしはさむ隙などなかったのだ。
何しろ彼は、イティラの存在を丸ごと肯定してくれている。さすがに今の暮らしでは甘やかしてはくれないし楽で豊かで心地好い環境は与えてくれないが、その一方で彼女を蔑ろにはしないし、虐げもしない。彼女にできることは彼女にやらせつつ、できないことは力を貸してくれる。
それが徹底されていた。
ゆえに今も、イティラは言われるまでもなく自ら進んで火を
これも、ウルイが命じたわけじゃない。イティラ自身が彼に教えを請うてできるようになったことだ。少しでも役に立って、彼の負担にならないようにと。
家族と共にいた頃にも雑用を押し付けられていたがまだ幼すぎて大したこともできず、それで怒鳴られたり殴られたり蹴られたりもしたことですごく苦痛だった。なのに、ここでは最初、雑用を押し付けられたりしなかったから、逆に不安になって自分から手伝いを申し出たら「ありがとう……」と感謝してもらえて、それが嬉しくて、進んで手伝うようになったというのもある。
そうしてイティラが鍋の用意をしている間にウルイは手際よく蛇を捌き、その肉を串に通していく。
それが終わると今度は、すぐに部屋の隅に置かれていた<真っ直ぐな細い木の枝>を手に取り、それを短刀で削り始めた。
<矢>を作っているのである。これはまだイティラには難しいからだ。
こうして、することがある時には共に淡々と役目を果たす。
それが二人の生活なのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます