まるで違う

『よくあることだ』


ウルイがそう告げたように、狩りが失敗することなど珍しくもなかった。今回はたまたまイティラが毒蛇に慌ててしまったことで悟られたが、まったく関係ない小動物が足元を横切ったりして、それで鹿が逃げてしまうことも実際にある。


だからウルイは気にしていなかった。そんな当たり前のことを子供の所為にしてキレる大人達の姿を思い出して、自分はそれはしないでおこうと彼は思っていた。


そんな彼の姿を、イティラは目を輝かせて見ている。


自分の両親や兄姉達とはまるで違う彼のことを。


確かに愛想はよくないし、遊んでくれるわけでもないし、優しい言葉を掛けてくれるわけでもない。だけど彼は、決して彼女のことを<物扱い>もしなかったし、見下したり軽んじたりするような態度も見せなかった。


非力で頼りない彼女を、ただあるがままに受け入れてくれた。人間でも獣でもない見た目のことも、触れてはこなかった。


それは彼女が気にしているから気を遣っているというよりは、単に、彼にとっては『別にどうでもいいことだから』というのが、態度から伝わってきた。


だから彼女も、自分にできる精一杯のことで、彼との生活を成り立たせようと考えた。


よく利く耳と鼻で、彼の狩りを助けた。


ウルイとしても別にそこまで期待していなかったものの、彼女のおかげで効率よく狩りができるようになったのは事実だ。それを考えれば、一度や二度の失敗など、物の数ではない。


彼は、そういう風に、『自分の思い通りにならない』ことにいちいちキレるのではなく、きちんと正当に評価することを心掛けていた。


一にも二にも自分の都合ばかりを優先して、ちょっと思い通りにいかないからとキレる大人達を馬鹿にしていたから、自分はそうはなるまいと考えていただけだった。


もちろん、何でもかんでも少女の気持ちを酌んでやることはできない。子供だからいろいろ遊びたかったり美味しいものも食べたいと思っているだろう。しかしそれは自分には叶えられることじゃなかった。


精々、


「野イチゴだ……食べるか…?」


たまたま目に着いたところに生っていた野イチゴを摘んで、差し出すくらいだ。


「うん……♡」


さっきの失敗のことは吹っ切れたらしい彼女の笑顔を見て、ウルイは内心、ホッとしていた。


自分のような人間の下にいて彼女は苦痛ではないのか?ということはいつも気になっていたのだ。


だから彼女が笑顔になってくれると、彼も安心できた。


そしてそれは同時に、イティラにとってもホッとできる瞬間だった。


自分が嬉しそうにしていると、ウルイの目が優しくなるのだ。


両親や兄姉達に虐げられてきた彼女は、他人の感情を敏感に感じ取るクセがついていたのだった。


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