半人半魔の冒険譚 〜世界を救う旅へ〜

桜乃ありす

第1話 魔導士と人間

これは冒険を終えた、わたし、エタンセルの冒険譚。



わたしは魔導士を父に持ち、人間を母に持つ、半人半魔。名前はエタンセル。

「王女さま。王女さま。」

「あ、ごめんなさい。」

この人はわたしの先生。

主に王族が学ぶべき教養を教えてくれている。

そう、わたしはラントグレ国というこの国に生まれた王女。

でも、わたしの他の兄弟たちはみんな殺されてしまった。

使用人がこっそり話しているのを聞いてしまった。

『可哀想ねえ。また、王子様と王女様が殺されたんですって。』

わたしには病で亡くなったとしか言わなかったのに。

ある共通点が頭をよぎった。

お兄様方もお姉様方も、15になったらいなくなっている。

どうしてか分からないけど、悪寒が走った。

本能的に次はわたしだと感じた。

「エリィちゃん。」

「お、母様!」

「エリィちゃん、もうすぐ15歳のお誕生日ね。」

「覚えててくださったんですね。」

「我が子の生まれた日を忘れるわけがないわよ。ねえ、陛下が何かくださるそうよ。」

「何か·····。」

もしかしたら、父はわたしを殺すかもしれないと思った。

そんなこと考える自分が嫌になったけど、どうしても疑ってしまう。

「気難しい顔して·····本当に陛下そっくりね。」

思い切って、他の姉兄のこと、聞いてみよう。

「あ、あの、お母様。」

「なあに?」

「他のお兄様方の事なんですけど」

「見たの!?」

お母様に突然肩を掴まれた。

物凄い形相。生まれて初めて母を怖いと思った。

「見たの!? 見てないの!?」

「み·····ました!」

嘘。本当は何の事かも分からない。

でも、これで手がかりを掴めれば·····。

「見てしまったのなら、私も隠す必要はないわね。」

お母様の顔が冷たくなった。

冷ややかな目はわたしを刺した。

「先生にどこまで聞いたかは存じ上げないけれど、あなた、半人半魔が何か知ってる?」

「人間と魔導士の子供でしょう?」

「ふふふ。やっぱり重要なことは何一つ知らないのね。」

一呼吸置かれただけなのに、冷や汗が流れた。

「人間でも魔導士でもない忌み嫌われた存在。でも存在意義がたった一つだけある。当ててご覧なさい。」

「戦うため·····?」

「そんなことしなくても陛下はお強いわ。そうじゃない。食べ物にするのよ。」


ゾクゾクゾクッ


背中に痛いくらいに悪寒が走った。

たべもの? わたしが?

「魔導士が他の魔導士を食べると、少しだけ力を手に入れられる。でもね、これが半人半魔だったら、もっと多くの力を得ることが出来る。あなたは食べられるために生まれてきたのよ!」

わたしはそんなことのために生まれてきたの?

苦しくなった。何故かなんて考えられない。ただ、苦しい。

「早くなさい。」

「え·····?」

もしかして、陛下·····お父様の所へ連れていかれて食べられるの!?

「準備しなさい!!」

「じゅ·····準備なんているんですか·····?」

「国の外へお行きなさい。」

優しい顔のお母様がわたしを撫でた。

さっきあんなこと言った人の手なのに温かかった。

「この世界に端があることは知っているわね。それがこの国にあることも。」

「はい。」

「着替えて杖を持ってそこまで走りなさい。」

お母様はわたしに杖を手渡した。

受け取ったらもう逢えないような気がした。

だけど、生きたい気持ちの方が大きかった。

「逃がして·····くれるんですか!?」

「出て行けと言っているだけよ。」

「お母様·····ありがとう。」

わたしは走った。

お母様の言う通り、世界の端を目指して。

途中で止めようとしてくる兵士がいても、足がもつれても、走った。

手を伸ばせばもう、世界の端。

奥は真っ白で何も見えなかった。

この中に飛び込めば、わたしの存在は消えてしまうかもしれない。

手が震えた。

「いたぞ!!」

兵士が追いかけてきた!

手を伸ばして、真っ白な世界へ入れてみた。

その手を目の前にやった。

大丈夫。消えてない。

兵士の声が近くなる。

飛び込め、エタンセル!!



気絶していた。

体をゆっくり起こすと重たい。

捕まったのかしら。

そう思って顔を上げると、見たことも無い世界が広がっていた。

話す花に歌う草、空は真っ白で水のようなものは紅茶色。

太陽はなんだか青い。

猫とウサギを混ぜたような生き物が二足歩行で歩いている。

蝶々のような生き物はオレンジでなんだか大きい。

わたしは世界を出たらしい。

しばらく世界を見つめていると、急に生き物たちがどこかへ行った。

いや、逃げたという方が正しいかもしれない。

「お前、いい服着てんじゃん。」

振り返ると15歳くらいの男の子がいた。

黒髪で茶色の瞳ってことは、人間みたい。

「だ、だれ!?」

「自分の立場、分かってねえのか。ま、いいや。金品全部寄越しな。命までは取らねえでやるからよォ。」

剣を抜いた男の子を前に世界の外の厳しさを痛感した。

「あげるわけないじゃない。」

「じゃ·····死ね。」

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