ブラックリリーと真夜中の襲撃
「おばちゃん、ただいま~」
「ただいまです」
「あらお帰りなさい、冒険者ギルドはどうだったんだい?」
「まずまずでしたよ、とりあえず明日は討伐に行ってきますからその間リリーをお願いしますね」
「そうかい、上手くいったんなら良かったよ。晩御飯はどうするんだい、まだ食べてないんだろ?別料金にはなるけど用意はできるよ」
「じゃあそれでお願いしようかしらね、リリーもそれでいいでしょ?」
リリーの肯定の返事を聞いてから三人で食堂の方へ向かう。ご飯は相変わらずのガーリック炒飯だったけれど、リリーももはや慣れたようで黙々と胃に収めていっていった。
「あんたたちが朝に汲んだ水がまだあるからね、今日は身体拭いてから寝れるよ」
「ほんとですか!!!」
リリーの食いつきがすごい。
(かなり綺麗好きな子なのかもしれないわね。まぁ私は汗とか掻かないから砂ぼこりとかを落とせればいいんだけどね)
ガーリック炒飯を食べ終えると、おばちゃんから渡された水桶とタオルを持って二階の部屋へと戻った。「リリーちゃんの身体拭いてあげるよ~」なんて私の考えは見透かされていたみたいで、リリーちゃんは自分が先に部屋に入ると私が入る前に急いでカギを閉めた。
「ライラさんは少しそこで待っていてください!」
「え~お姉さんも中に入れてよ~」
「だめです!私が身体拭き終わるまではそこにいてください!」
(これって結構ひどい扱いだと思う。廊下に一人で立っている辛さと言ったらかなりのもの、他のお客さんが部屋に入る前私のほうをじろじろ見てくるんだもん、ある種の拷問だよこれは!)
悔しくなった私は少々の反撃を試みる。
「リリーちゃん、身体をこする音とその水音がなんだかとってもエッチだよ~」
「一人で廊下で勝手に発情しててください…この変態」
「ぐはっ!リ、リリーちゃん今なんか全身が透けてて足が霞んでる人が扉の中に入っていったんだけど、そっちは大丈夫~?」
「病院行ったほうがいいんじゃないですか?」
「ぐあ”あ”!」
「うるさいですよライラさん。もう黙っていてくれませんか?」
(リリーちゃんそっけなさ過ぎ…でもこれはこれで‥‥‥)
▼▼▼
がちゃ
「身体拭き終わりました。もう入っていいですよライラさん、ってなに息切らしてるんですか?」
「ど、どうぞお構いなく…」
ようやく中に入れてもらえた私だがリリーちゃんが使ったタオルで身体拭こうとしたら、「もう一枚あるじゃないですか!」と怒られてしまった。仕方なく新しいタオルで身体を拭こうと思うが……
「ねえリリーちゃん、ちゃんと向こうの方向いててね。なんなら布団かぶって目を閉じててね?」
実のところ私、見るのは好きでも見られるのは恥ずかしいのである。
顔を赤らめている私を見て状況を察したのか、普段セクハラされている仕返しだと言わんばかりに目を光らせるリリー。
リリーの中で何かのスイッチが切り替わったような幻聴がして、私はごくりと唾をのんだ。
「あれ、どうしたんですかライラさん。服脱がないんですか?」
リリーがにやにやと近づいてくる、一歩一歩追い詰めるようにして。
「大人のお姉さんを思わせる態度なのにこういうところは繊細な乙女なんですね~
どうします?私が身体拭いてあげましょうか?」
既に下着姿になっていた私は両手を使い、リリーちゃんに見られる面積をできる限り減らしながら後退していき、とうとう壁際まで追い詰められてしまった。
「ほら下着も早く脱ぎ脱ぎしちゃいましょうね~それともライラさんは年下の女の子に脱がされるのがお好みなんですか~?業が深いですね~」
「リ、リリー?やめて頂戴、ふだんセクハラばっかりして悪かったから…もうしないから…ね、ね?」
「やられる側の気持ちがわかってないライラさんの発言は信用できませんね。やはりここは一度痛い目に、いや気持ちいい目にあってもらわなきゃ……ねぇ?」
「あなたホントに中学生なの!?お願いもう十分わかったから―――
ブラは既に外され、下にまでリリーの細い指がかけられる。力で抵抗すれば止められるはずなのに、リリーちゃんに見つめられると抵抗する手からも力が抜け落ちていく……。そして…………
部屋に残ったのは自分の役割を十分に全うしたタオル、隅々までキレイにされ恥ずかしさのあまり布団に包まる私と、スイッチが元に戻ってブラックリリーが去ったリリーちゃん。ただし自分がやったことに対し、恥ずかしさのあまり顔から湯気を出してレッドリリーちゃんになっている。レッドリリーちゃんも布団に包まりたいのか、狭いベッドで一つの布団を私と奪い合う。
しかし結局は仲良く布団を使って寝る私たちなのだった。
▼▼▼
そしてそれから一時間ほど経った時、宿の周囲に怪しげな男たちが集まっていた。
二階建ての宿に対して、同じく二階建てであったり三階建てであったりする周りの建物。その屋上には剣や弓で武装する男たちがいた。彼らの役割は標的が逃げだした場合の追撃だ。
彼らの正体は巨大犯罪グループであるロスティオファミリーの者たちだった。彼らは今晩リリーとライラを攫って奴隷として高く売り飛ばそうと考えていて、そんな彼らの仲間は既にほかの場所にも展開していた。
宿の正面入り口には、すでに真夜中なため扉には中から
このままでは中に入れず、扉を壊そうものならその音であのババアを起こしてしまう。この人数ならば勝てるだろうが、本番前の消耗は避けたい。
そのため正面からの侵入は不可能に思われるが、彼らがそこで待っていると中からゴトリとかすかな音がして扉が開いた。何のことはない、今日宿が閉まる前に客として潜入していた仲間がいたのだ。
彼らをチンピラと侮ることなかれ。今でこそ犯罪に身をやつしているが、元は魔物と生死をかけて戦っていた冒険者なのだから。もちろん現役の冒険者もいるのだから彼らの突入のレベルは非常に高かった。彼らは自身らがあのババアと呼ぶ、一階で寝ている宿のおばちゃんを起こさないように、静かに二階へ上っていく。
その技術は魔物に気づかれないように忍び寄るため、パーティとして連携を取るためのものだ。彼らのほとんどが元にせよ現役にせよ冒険者ランク鉄だった。
ブービーなランクとは言え、幼い頃から戦ってきた彼らはプロだ。そんな彼らだからこそ楽して稼げる犯罪に手を染めたら抜け出せなかった。
彼らは二階の目的の部屋の前に到着すると、ここまで順調に行き過ぎていることに疑問を覚えた。不意打ちとはいえ鉄級冒険者の三人を瞬く間に気絶させた能力、ロスティオファミリーに喧嘩を売るという行為から、相手はそれなりに大きい組織かかなりの手練れだと思っていた。だからこそこれだけの人数を集めたというのにあまりにもあっけなくここまで来てしまった。
そして五人二組いた彼らは意を決して一気に部屋の中になだれ込んだ。
▼▼▼
キィという扉が開く小さな音と共に私の意識ははっきりと覚醒した。日本でリリーと一緒に砲弾で死にかけたことを教訓に、あれ以降いつでも突然の襲撃に対して行動できるように心がけていたことが役に立った。リリーを残して布団から素早く抜け出し、ロザリオに手をかける。相手の姿を認識すると混乱していた頭が冷静になっていき、相手の中に森にいた冒険者の姿を見つけたところで状況を察した。
(敵の数は見える範囲で十人、全員が剣や手斧で武装、リリーは…まだ寝てるみたいね)
敵と睨み合いながら横目でリリーを確認するとスヤスヤと眠っていた。
(よかった‥‥‥リリーに戦う姿を見られなくて済む)
リリーを守るためにベッドから離れ、男たちへと距離を詰めながら、隙を見せないようにロザリオを引き千切りリリーの眠るベッドのほうへ軽く放った。
その瞬間、三人の男たちが微妙な時間差で切りかかってきた。少し後ろをもう二人が追随している。彼らは私を脅威と認識したようだが、その認識だけでは甘い。
連携をしっかり取って迫りくる五人、残りの五人は逃げ道である扉と窓をふさいだ。おそらくは五人の冒険者パーティ二組で構成されていたのだろう。
まったく油断のない動きだったが、今の私には遅すぎた……
わずかに早く切りかかってきた男が、剣を振り下ろしてくる前にその腹に拳をぶち当てる。液体と気体が混じったような音を口から漏らしたその男は、後ろにいた男を巻き込みながら壁まで吹っ飛んだ。その光景を見届けることもせずに、次に近い所にいた男の懐に入り込み、その頬を片手で乱暴に掴むと窓をふさいでいた男たちに投げつけた。あまり大きな音が出ないように手加減していたのだが、少々強すぎたようで、窓際の壁にぶつかった二人の男たちは、そのまま壁を壊して外に落ちていったしまった。
「しまったな…って嘘でしょ!?」
「おい壁が壊れたぞ!!」
「野郎ども射掛けろ!近接の連中は突撃だ!」
崩れた壁の向こうに見えたのはまだ何人もいる敵、敵、敵。弓が放たれ、剣や手斧を持った男たちがこちらの部屋へ飛び込んで来た。
「鬱陶しいっ!」
更に増えた敵を殴り、蹴り、投げ飛ばしていく。今のところ一番鬱陶しいのが弓兵だ、冒険者共は連携慣れしているのか仲間の矢に当たるような間抜けはいないし、当てるような奴もいない。だけどその矢はリリーに当たるかもしれないのだ。
(こいつらの狙いはおそらくリリーの誘拐ね、私は抵抗力が強すぎるから殺すだろうけど……それにしてもリリー、まだ眠っているなんて結構大物ね)
敵にリリーを殺す気がなくとも、流れ弾が当たる可能性があるだけでも嫌だ。向かいの建物の屋上にいる射手を止めたいけれど、ここを離れるわけにはいかない。
(ここの奴らを、矢を避け、リリーを守りながら、倒す。それから弓兵ね)
私は一つの傷も負わないまま部屋にいた連中を全員倒し、隣の建物にも飛び移って弓兵すらも始末すると、またジャンプして宿の部屋に帰ってきた。
(リリーちゃんは無事!?)
そして、リリーの安否を確認しようとした私の目とベッドから上体を起こしていたリリーの目が合った。
「‥‥‥ライラさん」
リリーちゃんの目は周りで倒れている襲撃者たちと壁に空いた大きな穴を見てから、もう一度私の目に視線を合わせた。
そして私は、何か言おうとしたリリーの口に気を取られ、後ろで起き上がった男が振りかぶった剣を避け切れなかった。
「ライラさん危ない!!」
リリーがそう叫んだ時には既に男の剣は私の右肩に触れていて……
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