15
——そうして。
数時間後、放課後、我が家こと五色神社の鳥居前にて。
「ね、ねえツルちゃん。どうして戸沢先生も居るのかなぁ? ツルちゃんが何かして家庭訪問とか……?」
ひそひそと耳打ちして来るカサネに、僕は眉を潜め、
「失礼な。今は学園の外だから先生じゃなくって一人の女子大生だよ。ねーモガミ?」
「……せめて人前では さん付け で呼んで下さい」
「だめです」
「むむぅ、いつの間にそんなに仲良く……ねぇイナリちゃんも何か言ってよっ」
「何かって……ん? そういえばこのセンコー一昨日の土曜に駅で見たような……あっ! こいつっ、鋏を自分の家に泊めたとか何とかって……!」
「ファッ!? と、戸沢先生、大人しそうな顔してそのおっぱいという毒牙を生徒のツルちゃんに……!」
ふふ、女の子達が姦しくしてるシーンは見てるだけで一日の疲れが消えるなぁ。『何か言って下さい』って視線送っても僕は手出さないよモガミ。(因みにだが、妹のユエちゃんは学校の用事でまだ帰って来てない)
「おやぁ? ツル君の気配を感じて来てみれば、皆来てくれたんだねー」
ひょっこり、呼んでもないのに現れたのは、白衣を纏ったウチの自宅警備だ。今は家事手伝いと呼ばないらしい。そもそも家事手伝わないしコイツ。
「あれまぁ? 見ればモガミっちも居るねぇ? 今はモガミ先生だっけー」
「ツムグ……そういえば、貴方は寺の娘でしたね。今日は貴方の弟さんに招かれたのですが……貴方を見た瞬間、嫌な予感しかしません」
「ひっどぉーい! ま、今回ばかりは否定出来ないけどぉ。とりま皆ついて来てー」
ツムグの背を追いつつ、カサネが「二人は知り合いだったんですねぇ」と口を開くと、
「……大学の、ですよ。同じサークルのメンバーなんです」
「オカルトな感じのサークルね。怪しい土着信仰がある曰く付きの村回ったりぃ、穴場な心霊スポット回ったりぃ……楽しかったな。まぁ最近大学すら行ってないわけだけどー」
「貴方、このままだと単位が足りずに留年……と、言っても今更ですね。貴方ならば最終学歴など関係なく、引く手数多でしょうし」
「いやぁ? 卒業はちゃんとするよぉ? 学費出して貰ってるしー。自分で出せるのにママが認めてくれなくてねー。ダブったらぶち殺されちまうよー」
「……何か、色んな意味で似た者姉弟、って感じだな」
「お、嬉しい事言ってくれんじゃないさーイナリっちぃ。今度また五色家皆で京都の尾裂狐本家に行っていーい? 家探しさせてよー、君ンちヤバそうな呪いのグッズ一杯あって楽しーんだよねー」
「やめてくれ……お前ら一家の所為で京都の街が百鬼夜行のパレード会場になったの忘れたのか……」
和気藹々と話を盛り上げつつ、一行はツムグの研究室内へと足を踏み入れる。
そうして皆が、件の数あるモニターを目にする。
昨夜と同じ様に、台座に刺さる三又の矛トライデントを握る僕。
昨夜と同じ様に、モニターはこの町の、それぞれ別の世界線を映し出した。
訝しげにモニターを眺めていた女の子三人は、ツムグのするトライデントの説明に各々違った反応をする。
カサネは分かりやすく目を見開いて驚き、イナリは呆れた様に唇を尖らせ、モガミは静かに目を細めた。
「へぇ、ツムグさん、遂にはとんでもない発明しちゃいましたね、SF映画みたーい。あっ、この荒れ果てた世界線でもこの神社は変わらずに在って……ん? 何か人がウジャウジャと……成る程、炊き出しかぁ。ツルちゃんやカサネ達が料理を振る舞ってるよっ、イナリちゃんの尾裂狐家の人達も居るねっ。そういえば、数年前の大震災の時もこんな光景あったなぁ」
「ふんっ。どんな理由でこんな世界になったのかは知らねぇが……この能天気な連中が健在なら、まぁ、上手く回って行くだろうよ」
どこか安心した様子でモニターを眺めるカサネとイナリ。一方、モガミはというと、
「……ツムグ。貴方が以前から目指していた並行世界の観測……いつかやるだろうとは思っていました。達成、おめでとうございます。——それはともかくとして。何故、その発表を今、私達に?」
「勿論それはぁ、このトライデントが君達と絡んでるかもだから、だよー」
「私達、に?」
「うん。君達は、今朝から……正確には昨夜からぁ、何か『違和感』を覚えてなーい?」
押し黙る三人娘。心当たりがあるのだろう。
「結論言うねぇ。三人……『別世界の自分と入れ替わっている』可能性があるんだー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます