14
特に授業中もイベントなどなく、時間だけ過ぎて行く。
「うーん、暇だなぁ。前みたいに『テロ』とか『ロボット部の反乱』とか『宗教戦争』とか起きないかなぁ」
「物騒な事言わないで下さい」
「おや? 目の前にモガミが居る。これは夢?」
「何を寝ぼけて。今はお昼休みですよ」
そうらしい。そしてここは——テーブルを挟んで二つソファーがある——どうやら生徒指導室のようだ。進路の相談やら問題のある生徒を指導する部屋。僕の行きつけ。モガミとの逢瀬場所。
「それで……はい。リクエストのあった肉そばです」
使い捨てのどんぶりには既に茹で終えたそば。湯気は立っていない。モガミはその上に煮た鶏胸肉のスライスと小口ネギをタッパーから取り出しのせる。最後に、水筒に入ったツユを注いで、完成。
モガミの出身山形県のグルメ、冷たい肉そばだ。
「おお、んまそー。いただきまーす(ズルズル……)うん、んまいんまい。濃いめのツユと柔らかな鶏肉が最高だね」
「そうですか」
モガミは短くそう返し、自分の弁当を食べ始めた。僕一人分だけの為にここまで用意してくれたらしい。出来た女やで。
「にしても。今更だけど、よく生徒指導室使う許可下りるよねー。モガミは優秀だけど、それでもまだ教育実習生って立場なのに」
「鋏さんは学園を代表する問題児なので、特に何を言われるという事はないです。教師が皆匙を投げる中、私が自主的に『鋏さんの指導をする』という提案に、首を振る者は居ませんでした」
「そこまでヤンチャしてた覚えは無いんだがなぁ」
ロボ部反乱の時に巨大ロボを撃退して、結果的に校舎の一部を斬り落としちゃったのが原因かしらん。
「そういえば……貴方の姉もこの学園の生徒会長だったらしいですね、先生方に聞きました。運動、成績、人望共に完璧で、同時にトラブルメーカーでもあったと」
「あー、らしいね。何か学園の校舎をロボットにしようとしたんだっけか。全然成長しないねぇ」
「それで……彼女が卒業し落ち着いた所で、間も置かずに貴方が入学して来て、先生方は頭を痛めたそうですよ」
「なんだ、僕が先生らに目を付けられてるのはアイツ所為か、許さんっ。帰ったら仕置きだな……(ゴクゴク)ぷはぁ、ご馳走様、余は満足じゃ」
「お粗末様でした」
「じゃあ次は冷やしラーメンをお願いしようかしら」
「図々しいですね」
「えー、いいじゃんいいじゃん。だってモガミ、もうすぐ教育実習終わるっしょ?」
「……まぁ、そうですね」
中高の教育実習は、基本三週間程と決められている。一か月も無い。それで、終わり。
「鋏さんは……寂しい、ですか?」
「え、なんで?」
「え?」
「? 僕は既にモガミの家を抑えてるから、君が学園に来なくてもいつでも会えるし」
「ああ……成る程……いや、何か元彼がストーカー化した時の台詞みたいですね」
ふぅむ。人を平気でストーカー呼ばわりする毒舌部分はいつもの彼女だが……しかし——このしおらしい表情といい、この僕を見る熱っぽい瞳といい——この違和感は、今朝も別の女の子達で感じたソレで……。
「まぁ、でも。教育実習の期間が終わっても、学園にはちょくちょく来ますよ。事務のアルバイトをしないかと声を掛けて頂いたので」
「なぁんだ、じゃあここでの密会はまだ出来そうだね。てか、もしかして、僕と離れたくないが為にそのバイト引き受けたんじゃ?」
「…………」
「そもそも、まだ大学四年次でもないのにこうして無理して教育実習に来てるのも、僕に会いたいからでしょ?」
「…………」
……。ねぇモガミ、僕達、付き合っちゃう? と心の中で問い掛けると、
「何を言ってるんですか」
「お?」
「もう付き合ってるでしょう」
「おー?」
よし、分かった。
放課後はモガミも我が家に招待しよう。
色々と確認する為に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます