『鬼滅の刃』は、タブーに挑戦した作品だった?

板皮類

『鬼滅の刃』は、タブーに挑戦した作品だった?

 『鬼滅の刃』とは、もはや説明不要。

 2016年より週刊少年ジャンプで連載、2019年のアニメ化を機に、海外でもファンを増やす、今、一番ホットなコミック、アニメですが。

 不勉強だった私も、ようやく先日、アニメ全話を視聴して、最低限の語りをするためのスタートラインに立つことができました。


 で、率直な感想。

 『鬼滅の刃は、界隈のさまざまなタブーを覆した作品ではないか?』

 作品の面白さ、人気の大きさだけでなく、昨今のエンタメ事情から比較しても特異なレアなケースだと感じましたので、ここに考察をまとめたいと思います。


 ※注

 前述のとおり、筆者がしっかりと把握しているのは、アニメ化された範囲(那田蜘蛛山 → 機能回復訓練 編)まで。その後の展開は、wikiなりまとめ記事なりで、概要をざっくり把握している程度です。

 語る以上、正確な情報に最善を尽くしますが、表記が不十分な点のほか、「いまさーら」「そんなこと知ってるよ」という点もあるかもしれません。が、ご容赦を。


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 『鬼滅の刃』が、覆したタブーとはなにか。

 分かりやすいのは、キャラクターの名前でしょうか。


 公式ラジオでもネタにされていたようですが、主人公【竈門 炭治郎】からして名前の漢字の読みが分かりづらい。(正解はもちろん、かまど たんじろう)

 他の主要キャラも、

 【嘴平 伊之助】【我妻 善逸】【栗花落 カナヲ】【不死川 実弥】【悲鳴嶼 行冥】


 と、初見で自信をもって正解を言い当てるのは困難な、キャラ名ばかりです。

 (【我妻】を、あがつま、と読ませるとかひっかけですやん)


 さて、カクヨムや、小説家になろうで活躍されるライターさんであれば、『小説家になるためのハウツー本』に、一度は目を通したことがあると思います。

 が、そこで、よく語られることに、『キャラクターの名前に、読めない漢字を使ってはならない』という教えがあります。


 人というのは、たとえ目で文字情報を取り入れても、脳内では音(読み)に変換して処理します。

 【伊之助】であれば、「いのすけ」という読みで認識するわけですね。


 しかし、読めない漢字を使ってしまうと、音に変換できない。

 音に変換できなければ、キャラの名前が頭に入って来ない。


 本来であれば、【竈門 炭治郎】は作品を小難しくしてしまう、好ましくない設定なのです。でも、実際には、鬼滅の刃は世界中に受け入れられているし、難しい漢字の名前自体が作品の味にもなっている。


 なんで?

 その理由は、鬼滅の刃のキャラクターデザインが、『分かりやすさに』重きを置かれていることにあると、私はにらんでいます。


 今更、確認するまでもなく本作は、鬼と戦う鬼殺隊の戦いを描いていますが、この鬼殺隊のメンバーは、原則、同じ隊服を身に着けています。


 学生服風の黒服に、足袋を身に着けて、背中には大きな「滅」の文字。

 新キャラなり、モブキャラが現れても、この隊服が目印になって、コイツは味方であるとすぐに判別できる要領です。

 (色がつくアニメ版だと特に顕著、黒い服≒鬼殺隊だからね)


 さらに、主要キャラは、この隊服にアレンジを。

 【竈門 炭治郎】は、巨大な木箱を背負い、市松模様の羽織を上からまとう。

 【我妻 善逸】は、謎の三角模様の羽織。

 【嘴平 伊之助】は、上半身はマッ裸で、イノシシのマスクを被っている。


 一方、いわゆるその他大勢、モブの鬼殺隊隊士は、アレンジなし。

 デザインの情報量も抑えられています。


 結果的に、【コイツは、注目して欲しい主要キャラ】【コイツは、忘れてもいいその他のキャラ】ということが、情報量や、コスチュームのアレンジが入っているかの視覚情報だけで、直感的に分かるようになっています。

 (もちろん、隊服のアレンジが入り、情報量の多いのが、主要キャラだよ)


 また、キャラデザの共通点といえば、他にも。


 【蝶屋敷の住人は、みんな、蝶の髪飾りをつけている】

 【鬼殺隊をサポートする、「隠」部隊のコスチュームも共通している(黒子風のマスクをつけ、仕事内容が一見で想像できるようになっている)】

 などなど。


 敵役である鬼のデザインは、千差万別ですが――それでも疑似家族を作ろうとしているという設定の、下弦の伍・累の一派は、やっぱりデザインの共通項が多め。


 このように鬼滅の刃は、【似せるべきキャラクターは、積極的に共通点を持たせる】ことで、名前の漢字が読めなくても、なんとなく誰が何者なのかわかってしまう工夫が凝らされているのです。


 なお、このようなキャラデザの工夫は鬼滅の刃、特有かと思いきや、他の作品でも間々、用いられています。

 最近だと、大河ドラマの『麒麟がくる』でしょうか。


 本作は、主人公の明智家を始め、織田家、斎藤家、今川家と様々な勢力が登場するわけですが、


 明智家:水色

 織田家:黄

 斎藤家:黒

 今川家:青


 といった具合にテーマカラーが決まっており、合戦時にはその色の旗印や戦装束を身に着けます。お陰で、乱戦となっても、どっちがどっちの勢力なのか、一目でわかる。


 また、大勢の武将が集うシーンでは、明智光秀や織田信長、前田利家などの有名な武将には、色鮮やかな装束を着せて、その他大勢には地味なくすんだ装束を着せる。

 こうすることで、『こいつの服、色鮮やかで目につくやろ、注目人物やで』と、視聴者の視線を誘導することに成功しています。


 そういえば、鬼滅の刃のアニメでも、同じ手法が見られましたね。


■ 例1 ■

 最終選別試験に参加した、隊士候補のうち、【竈門 炭治郎】【我妻 善逸】【栗花落 カナヲ】といった後の主要キャラだけ、色鮮やかな服を着ている。

 (アニメ第4話)


■ 例2 ■

 【鱗滝】に育てられた13人の兄弟子が集合した際に、主人公と顔見知りの、【錆兎】【真菰】だけ、カラフルな上着をきている。(アニメ第5話)



 鬼滅の刃しかり、麒麟がくるしかり。

 こうやって、コスチュームの共通項で所属する勢力を示したり、重要人物かどうかを視覚的に示したりする手法は、今後のトレンドになるかもしれません。



◆追記

 「麒麟がくる」の勢力のテーマカラーは、史実や五行思想を踏まえた上で、かなり設定が練り込まれています。考察厨は大好物な内容になっていますよ。

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