第25話 変態後輩と女神な姉と日曜日
「……よし、今日はいないな」
翔也と咲良先輩のデートに付き合ってから、変態の後輩を適当にいなして、天使の姉に癒やされて、俺は普通に眠りについた。
昨日のこともあったせいで、俺が起きてからまず行ったことはベッドのクリアリングだった。
幸いなことに、ベッドにはいつものように隣に人1人分の山が出来てることはなく、俺はホッと胸を撫で下ろした。
……さらっと言ったけど、隣に1人分の山がいつも出来てるのもおかしいだろ。
「くぁぁ……眠っ……早く目が覚めたし、シャワーでも浴びるか……」
そう思い立ち、俺は着替え一式を持って風呂場のドアを開いた。
「――へ?」
ドアを開けると、中から湯気が一気に流れ出てきて、中にいた人物が驚いた声を上げる。
ほどよい肉付きのふくらはぎから、これまたほどよく肉が付いたむちっとした質感の太ももに、安産型を思わせる腰の感じと細くくびれたウエスト。そして、腰の細さのおかげでより一層存在感を放つ大きな胸。
……結論、天使がそこにいた。
「どわぁぁぁああああっ!? す、すみませんわざとじゃないんですっ!」
俺は多分、人生最大の反射神経を発揮し、リビングに転がり出た。
なんだ!? 俺はまだ寝ぼけているのか!? そうじゃないと、俺にこんなラブコメ主人公みたいなイベントが発生するわけないよな!
……美少女と一緒に暮らしてる時点でイベント発生してたわ。
「あ……あの、大地君?」
「ひぃっ!? みみみみ未来さん! あのわざとじゃないので! どうか命だけはご勘弁を!」
「お、落ち着いて? 誰もそんなことしないから。むしろ見苦しいものを見せちゃってごめんね?」
「そ、そんな! 見苦しいものだなんて!」
どうして記憶の中にある画像を現実に取り出す技術がこの世に出回ってないんだ! 今すぐ額縁に飾りたいというのに!
「とにかくすみませんでした……以後、ちゃんとノックをしてから入るように心掛けます」
「私もちゃんと鍵かけるようにするから。ねっ、お互い様!」
今、俺の中で未来さんの格が天使から女神に格上げされた。
俺は気を取り直してシャワー浴びながら、今日も朝からとんだハプニングから始まってしまったことに対して、乾いた笑いを漏らすのだった。
◇◇◇
「あ、これ司ちゃんに似合うんじゃない?」
「じゃあお姉ちゃんはこっちとか!」
とある大型のショッピングモール。
そこには仲睦まじく肩を寄せ合って服を見る姉妹をげんなりしながら見る男がいた。
……どうも俺です。
「もーっ、せんぱいも一緒に選びましょうよぉ!」
「前も言ったけど、俺に服とかよく分からないんだっての。今日は荷物持ちに徹するから、俺のことは気にするな」
元々その為にきたんだしな。
大体今日は未来さんがいるんだし、そっちに聞いた方が確実に自分に合った物を買えるだろ。
「でも、今日はせんぱいに選んで欲しい物もあるんですよ!」
「……下着とか言ったらぶっ飛ばすからな?」
「下着ですっ」
「俺のぶっ飛ばす発言を聞いてもなおそれを言いやがった!?」
メンタルが屈強すぎる!
というか服選ぶよりハードル高ぇじゃねえかよ!
「未来の妻として、せんぱいの好みを把握しておくのも大事ですからっ!」
「え? 私?」
「話がややこしくなるからお姉ちゃんは少し静かにしててください!」
「それがいつも俺がお前に抱いてる気持ちだよ!」
やっぱ天然って強い。
是非ともそのままその変態を押さえ込んでいてほしい。
そうすれば、俺の仕事も減るから。
「そうだっ! お姉ちゃんもせんぱいに下着を選んでもらったらどうですか?」
「おいなんでそうなった!?」
「つ、司ちゃん……流石にそれはちょっと……」
「いいですか、お姉ちゃん! お姉ちゃんは知らないだけで、男女で買い物に来たら下着を選んでもらうのが普通なんですっ!」
「そ、そうなの!?」
いかん、未来さんが変態に論破されかかってる。
「待て! それはどこの世界の普通だ! 未来さん、気を確かに持って!」
「お姉ちゃん! 私がお姉ちゃんに嘘をついたことがありますか!? 下着を選んでもらうことが今の流行なんです!」
「たった今現在進行形で嘘ついてるよな!?」
自分の下着を選んでもらう為だけにそんなしょうもない嘘をつくな!
「お姉ちゃん! これも経験です!」
「そ、そうだねっ! せっかくだし……大地君、私のも選んでもらえるかな?」
「未来さんっ!?」
ぐっ……奏多はともかく、未来さんは完全に悪気がないっていうのが……断り辛い!
俺にこの女神の頼みを断れっていうのか……!
「……………………………………ハイ、ヨロコンデー」
迷った末に、俺が出すことが出来たのは……まるで居酒屋のバイトの様な事務的極まりない返事だった。
◇◇◇
「せんぱい、こっちのデザインとこっちのデザインどっちが好きですか?」
「リョウホウ、スキ」
「じゃあこの黒とこの白のはどうですか?」
「リョウホウ、イイ」
「……わたしとお姉ちゃんどっちが好きですか?」
「未来さん」
「もぉー! なんでですかぁー!」
知能を殺しててもそんな幼稚な引っかけにかかるかよ。
「でもせんぱいがいつにもなくわたしを見てくれてるので幸せです!」
「目のやり場が無いからお前見てるしかないだけだ!」
周りは女性と女性用下着にしか無いような空間で俺はどこ見てればいいんだよ! 呼吸の仕方すら危ういわ!
「大地君? これとこれならどっちが私に似合うかな?」
「……えっと、じゃあこの白の清楚系なやつで……」
「なんでお姉ちゃんの時だけ真面目に答えるんですかぁー! 清楚系のが好みならわたしの時にもそう言ってくださいよ!」
「バッカお前! 今のは俺の好みじゃなくて、なるべく当たり障りのない回答をしただけだ!」
「んー……じゃあ当たり障りじゃなくて、大地君の好みは?」
「黒が大好きっす。今度は嘘じゃないっす」
はっ!? しまった、ついうっかり本音を!?
「じゃあわたしも黒にします!」
「いや、お前は絶対黒じゃなくて白……あ! わ、忘れろ!」
「ばっちり聞いちゃったので無理です! わたし記憶力いいので! 白ですね!」
だーっくそ! つい口が軽いまま勢いで喋っちまった!
「もういいだろ! 俺はその辺ブラブラしてるからな!」
「はぁーい! 待っててくださいね、せんぱい! 家に帰ったらすぐにお披露目しますから!」
「せんでいい!」
「じゃあ私も要望通り、黒のを買っちゃおうかな」
「マジっすか!?」
「むぅーっ……せんぱいのバカ! そんなに姉妹丼が好きですかっ!」
「やめい! 周りのお客さんが凄い目で俺を見てんだろうが!」
というか俺がどれだけ未来さんを選択しても、やっぱり自分の存在をねじ込んでくるんだな!? というか姉妹丼って!
周りからの視線に耐えきれなくなってきた俺は、ランジェリーショップから脱兎の如く駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます