第24話 ロリコンとストーカーとカラオケ
「さて、家を出たはいいものの……マジでノープランだな」
奏多と未来さんと一緒に食卓を囲んで、姉妹だけの時間を作るべく、家を出た。
でも、全く行き先なんて考えないで出たものだから早速公園のベンチにお世話になることになってしまった。
……これからどうすればいいんだ。
「あの、雨宮くん? 一体どうしたんですか?」
「……へ? あぁ、咲良先輩」
声をかけられて、視線を上げた先にいたのは……つい最近1年間にも及ぶ片思いが成就して、イケメンでロリコンの彼氏を手に入れて幸せの絶頂にいる、合法ロリ先輩こと、佐倉真穂先輩だった。
トレードマークの銀髪が太陽光を浴びてきらりと輝いているせいで、俺は目を細めてしまった。
「いえ、ちょっと暇潰す方法を考えていたところでして……先輩はどうしてここに? いくら公園が幼女ホイホイだからって、翔也がここに来るとは限りませんよ?」
「今日はストーカーじゃありませんよ! 普通にデートの待ち合わせです!」
「まあ付き合ってるんですし、もうストーカーする必要もありませんしね」
「…………………………………………そうですね」
「ちょっと咲良さーん? 今の間はなんですか? こっち見てくださーい?」
思いっきり顔逸らされた挙げ句、答えるまでにたっぷりかかった時間……まさかこの人……付き合ってるのに彼氏のストーカーは継続してると!?
「し、仕方ないじゃないですか! 一緒にいる時では見られない翔也君のレア写真がまだまだたくさんあるんですよ!」
ジト目で先輩を見ていると、涙目で開き直った反論をしてきた。
その容姿で泣かれるとついうっかり許してしまいそうになる。……が、俺は残念ながらロリコンじゃないので、それが通用するのは翔也だけだ。
あいつなら今頃膝から崩れ落ちてる。
「それをストーカーの免罪符にしないでください! ……もしかして、ストーカーのことは翔也には話してないんですか?」
「…………………………………………そうですね」
「こっち見てくださーい?」
そりゃ言えるわけないか。
言ったら破局待った無しだろうし。
まあ、破局しても……先輩が翔也のストーカーと盗撮を引退することはないだろうけど。
「お待たせ、真穂ちゃん……と大地?」
再び、俺がジト目で冷や汗をだらだらする先輩を見ていると、幼女ホイホイに引っかかった翔也が姿を現した。
「……えっと、どういう状況なのか説明してもらっていいかい?」
「ああ。実はな――」
俺は翔也に事の発端と今に至るまでを語った。
「なるほどね。奏多さんのお姉さんが来てるんだ」
「だから、久しぶりの姉妹水入らずにしてやりたくて出てきたんだけど……」
「行き場が無くてぼうっとしていた、と……雨宮君は相変わらず、気遣い屋さんですね」
いやいや、これが普通じゃないのか?
「……だったら、僕たちと一緒に来るかい?」
「は? お前らデートだろ? それこそ邪魔なんか出来ねえっての」
「いえ、実は今からカラオケに行くところだったんですけど……流石に個室で2人きりはまだ恥ずかしいと思っていたところなんですよ」
あー……そうだった。この2人俺が強引に行動させたお陰で付き合い始めただけあって、超奥手とヘタレなんだった。
「それに……」
翔也に手招きされた俺は、仕方なく近寄った。
「個室で2人きりなんて……僕は自分を抑える自信は無い!」
「いやお前ヘタレだし大丈夫だろ」
しかし、2人がせっかくと言ってくれてるわけだし、やることも無いし、ここは素直に厚意を受け取っておくか。
「分かった、行くよ」
その一言でカラオケ店に向かって3人で歩き出した。
先頭を翔也と咲良先輩が歩いて、俺は少しだけ距離を空けて後ろからついていく。
……何か咲良先輩が歩く速度を落として、俺の横に並んだ。
……え? 耳を貸して欲しい? 先輩もかよ。
「あの、本当についてきてもらえて助かりました」
「まあ緊張するのは仕方ないですよ」
「そうじゃなくて……私、2人っきりで個室なんて、自分を抑えられる自信がありませんから!」
「本当あんたらお似合いだな!?」
でもヘタレと奥手だし、行動には絶対ならないんだろうなという確信があるのが、なんとも言えなかった。
◇◇◇
「~っ♪」
「きゃー! 翔也君こっち向いてください!」
カラオケ店に入った俺たちは、雑談もそこそこに歌い始めた。
中身はロリコンの翔也は外見だけはムカつくほどイケメンなので、マイクを持ってるだけで絵になってしまう。
そんな彼氏の姿を見て……当然、翔也大好きの合法ストーカーロリ先輩は黄色い歓声を上げて、スマホで様々な角度の翔也を激写し始めた。
……ドルオタかな?
「ふぅ、やっぱり思いっきり歌うと気持ちがいいね」
「これで歌が上手くなかったら酷評の1つでもしてやれるんだけど、歌も上手いってお前弱点とかないのかよ」
「お疲れ様です翔也君! 飲み物をどうぞ!」
「ありがとう真穂ちゃん」
翔也とは幼馴染みだからこいつのことは大体何でも知ってるけど、弱点だけは未だに分からない。果たして、幼女に弱いのはこいつの弱点と言ってもいいのかも分からない。
俺が弱点を考察している間に、咲良先輩がおしぼりと飲み物が入ったコップを翔也に手渡していた。
……マネージャーかな?
「……俺、ちょっと飲み物取ってくるわ。2人の分も取ってくるけど、何がいい?」
「いいのかい? じゃあ僕はウーロン茶を」
「私はオレンジジュースを……ありがとうございます」
ま、本来なら2人で来る予定だったんだし、しばらく2人にしてやるか。
コップを3つトレーの上に置いた俺は、ドリンクサーバーの邪魔にならないところにトレーを置いて、スマホをポケットから取り出す。
「ん? 奏多から着信?」
スマホを取り出したタイミングでちょうど奏多から電話がかかってきた。
……あいつどこかで見てるんじゃないだろうな?
『もしもし? 何だ?』
『特に用事はないんですけどせんぱい今どこにいるんですか?』
用事無いのかよ……まあいいわ。
『たまたま翔也と咲良先輩と会って、今はカラオケ』
『なるほど、簡易型のラブホテルですか』
『お前カラオケ店をそんな風に見てたのか!? 全国のカラオケ店に謝れ!』
カラオケ店に対する熱い風評被害だろそれ!
『だって今時の高校生たちは監視カメラの有る無しをリサーチしてお店を選ぶんですよね?』
『そんなの一部のお盛んな方々だけだよ! 一般人はそういう条件で店を選んだりしない!』
一体こいつの知識どうなってんだよ!? 偏見が過ぎる!
『用が無いならもう切るぞ? 今飲み物注ぎにきてるだけだから、2人を待たせてるし』
『案外、今頃……』
『切るぞ』
奏多が何か変なことを言う前に、通話を切り、スマホをポケットにねじ込んで、3人分の飲み物を注いだ俺は、部屋に戻る。
「悪い、電話かかってきて遅くなっ……た……」
「「――あ」」
部屋に戻った俺は、顔を近づけてこっちを見たまま静止している翔也と咲良先輩と目が合ってしまった。
「…………………………なんかごめん」
状況的に、まあ……その、俺は2人のファーストキスを邪魔してしまったらしく、やっぱり付いて行くべきじゃなかったと思った。
その後、誤魔化すように俺は大声で歌ったけど、居心地の悪さが拭い去れることはないまま、解散となった。
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