第16話 変態後輩と告白現場

「おー、相変わらずモテるなーお前」

「あははー。それほどでもー! わたしにはせんぱいさえいればいいのでぜんっぜん嬉しくないですけどねー」


 GW明け初日の学校。

 ……最早当たり前のように2人で登校することになってるのはおかしいと思うけど、そんなことはさて置いてだ。


 俺と奏多の下駄箱は何故か背中合わせの位置に配置されてしまっているせいで、靴を履き替える瞬間までこいつと一緒にいないといけない。


 下駄箱を開ける瞬間に後ろで何かが落ちる音が聞こえて、振り返ると奏多の下駄箱から手紙らしき物体が数枚落ちたのが見えた。


 ……外見はいいからなーこいつ。


「わたしがせんぱいとラブいことになってるというのは学校中の噂になってると思うのに……もしかして言うほど有名じゃないんでしょうか?」

「その噂は即刻否定したいとこだ……」


 というかラブいってなんだよ。

 思いつつ、俺は自分の下駄箱を開けると、中から手紙の山が流れ落ちてきた。


「わあ、せんぱいモテモテですね! わたしも鼻が高いですぅ! ところでどこの誰がわたしのせんぱいを誑かそうっていうんですかぁ? ちょっとお話したいので1枚1枚差出人の名前を聞いても?」

「怖えよ!? 目のハイライト消しながら背後に立つな! ……ってかこれ差出人書いてない物ばかりだぞ?」


 試しに1枚手に取って、手紙を開けてみる。


「――奏多司と別れろ。さもなくば今日が貴様の命日だ……これ脅迫状じゃねえか!? もしかしてこれ全部!?」


 なんて暇な奴らだ! たった1人の可愛い女子と付き合ってるという噂に踊らされて相手の男を集中狙いなんて!?

 こんなことしてる暇があるなら別の子見つけた方がいいのでは!? ってか俺別に付き合ってないしね!


「なぁんだ! ただの脅迫状ですか! ラブレターじゃなくてよかったです!」

「よくねえよ!? 俺の命が脅かされてんだよ!」


 なんで俺がこんな目に合わないといけないんだ……ってか、これ処理するのも俺? クソッ……面倒くせえ!

 とは言え……このままにしておくわけにもいかねえよなぁ。

 渋々落ちて散らばった手紙を拾い集めていく。


「お手伝いしましょうか?」

「いや、お前は先に行ってろ。遅刻したら困るだろ」

「それはせんぱいもじゃないですか……」


 奏多がしゃがもうとしたのを、俺は手で制した。

 ……バカ野郎共のせいで遅刻するのは俺だけで十分なんだっての。

 まあ、まだ遅刻するほどギリギリじゃないからそうはならないだろうけどな。


「司ー、おはよー」


 お、ちょうどよく奏多の友達がこいつを呼んでくれたな。


「ほら、友達が呼んでるぞ。早く行け」

「う、うー……! もうっ! せんぱい、もうっ!」

「牛の真似はいいから」


 奏多は俺と友達を何度か見比べた後、友達の方に小走りで駆けていった。

 友達の所に着いてからも、何度もチラチラこっちを振り返り、やがてようやく奏多の姿が見えなくなった。


 ……やれやれ。やっと行ったか。

 ああいう部分があいつのモテる要因の1つなのかね。


◇◇◇


「す、好きですっ! 俺と付き合ってください!」


 ……俺もしかして、告白の現場をちょうど目撃しちゃってる?


 飲み物を買いに自販機へ向かう為、1階の廊下を歩いていると、窓の外から男子生徒の声が聞こえてきてしまって、思わず立ち止まった。

 

 あー、窓ぐらい閉めておいてやった方がいいか? ……あれ、告白されてるのって、奏多か?


「ごめんなさい。わたしには好きな人がいるので……お付き合いは出来ません」


 やっぱり奏多だ。

 姿がちょっと見えにくかったけど、声で確信した。


「……その好きな奴って、例の先輩?」

「はい! わたしの大好きな人です!」


 ……俺のことだけど、何て言うか……告白しといて別の男が大好きだと言われるとか残酷だな。

 あとやっぱり有名人なんだな、俺。全然嬉しくないけど。


「その先輩のどこがいいわけ? この間ちょっと見に行ったけど、あの人がいつも一緒にいる先輩の方がカッコよかったし、正直……俺も負けてないと思う」


 おーおー。自信たっぷりなこって。

 一緒にいた別の先輩ってのは、翔也のことだな?


「うーん……別に顔だけで好きだって言ってるわけじゃないですよ? もちろん顔も好きですけど。何て言うか……一緒にいると心が温かくなるんです」


 ……あいつ、あんな恥ずかしいことをよく平気で言えるな。

 聞いてる俺の方が恥ずかしいんだけど……。


「だったら、俺の方があの先輩よりも奏多さんを幸せにしてみせるよ! 絶対泣かせないし、毎日だって笑わせてみせるから! 俺にチャンスを頂戴!」

「ごめんなさい。わたしはせんぱいじゃないと嫌なんです」


 そういや、あいつが何で俺のことが好きだとか聞いたことなかったな。

 ……聞き辛いだろ、どうして自分のことをだとか。


「どうして! ……分かった、弱味を握られてるんだな!? そうじゃないとあり得ない!」


 雲行きが怪しくなってきたな。

 思い込みが激しい系男子だったか。

 ……本当に危なくなったら止めないとな。

 

「待ってて! 俺が君を必ず助けてあげるから! そうしたら俺と真実の愛を育もう!」

「……余計なお世話です。わたしはもう真実の愛を見つけていますので」


 高校1年生が真実の愛とか平気で口にするなよ。ドラマの見過ぎだぞ……。

 相手の男は多分、奏多と同級生だろうけど……。


「俺の何が悪いって言うんだ! あんな先輩よりも俺の方がッ!」

「わたしは想っている人の言葉をちゃんと受け取らず、勝手な気持ちばかり押しつけてきて、わたしの好きな人を見下すような人とは付き合えませんっ!」

「――へ? あ、え?」


 あの優しくていつもにこにこしているような奏多があそこまで声を荒げて怒るなんてよっぽどのことだ。

 現に、相手の男子生徒はその迫力に押されるように何も言えなくなってしまっている。


「もう1度言います。気持ちはとても嬉しいですけど、わたしはせんぱいが好きです。なので、あなたとは付き合えません。ごめんなさい」


 そのまま、1人分の足音がどんどん遠ざかっていった。

 男子生徒はそこで魂が抜けてるし、奏多のもので間違いないな。


 まあ、本当に好きなのは伝わったが、ちょっと強引過ぎたな。

 引き際を間違えなければ、まだ友達としての距離感でいられたかもしれないのに。


「俺も飲み物買って戻るか……」


 ……あいつが人に俺の事を好きって言う度に望んでない知名度がどんどん上がってるし、そろそろ抑えるようにしてくれねえかなぁ。


 リアルに命の危機まで発展しそうで怖いから……。

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